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カンストレベル99

訪問ありがとうございます。

更新はゆっくり不定期です。

 高校二年の夏。

 部活を終えた帰りの電車内。

 

 居眠りから目を覚ますと、電車が止まっていた。


「やばっ―――!」


 慌てて座席から立ち上がり、開いた扉まで急いで移動する。そして目に飛び込んできた光景に言葉を失った。


「‥‥‥!?」


 ―――アトラクション!? 俺はランドに来てたっけ‥‥‥!? 


 そんな考えが頭に浮かんだ。それだけ目の前の光景は現実離れしていた。

 学校帰りのいつもの電車に乗っているはずなのに、開いた扉の向こう側には木々が生い茂った深い森が広がっていた。扉の前だけ小さな空地のように開けている。


「な、なんなんだよ‥‥‥!? お、落ち着け、落ち着け自分。ここは電車の中で―――そうか、夢だ。こんなのは夢だよな。ははは、ちょい焦った。そうだよな、俺はまだ帰りの電車で眠ってるんだ」


 混乱した頭を落ち着かせるために気持ちをわざと口にした。

 目の前の光景は現実であるはずがなく、夢でなければ説明がつかない。両手で頭をがしがしと掻く。


「ご乗車ありがとうございました」

 

 すぐ近くで礼儀正しい声が聞こえた。

 慌てて後ろを振り返ると、通路の真ん中に制服姿の綺麗な女性が立っていた。


「お、お姉さん誰で―――」


「―――車掌です」


「あ、すいません‥‥‥。あの車掌さん、ここってどこですか? 夢ですよね」


 俺がバカみたいな質問をすると、車掌さんは整った顔でニコリと笑った。綺麗すぎてどことなく作り物みたいな印象を受ける。


「剣と魔法の世界です。お客様の住んでいた世界の言葉を借りれば、異世界―――決して夢ではございません」


 なんのアトラクションだよ。マジで胡散臭い。それに車掌さんをよく見れば制服の胸はパツパツで、そもそもミニスカなんて履かないだろう。コスプレにしか見えなかった。


「あの~お客様、申し訳ありませんが出発まで時間がありません。お降りの準備を」


「はっ!? いやいや、こんな所で降りませんよ。どうぞ出発しちゃってくだい」


「それはダメです。お客様はこの駅で下車することになっていますから」


 そんなこと誰が決めたんだよ。それに駅って聞こえたが、外はジャングルじゃねーか。


「心細いのは仕方ありません。でもご安心を。お降りのお客様には特典がございますから。お客様の望みを何でも一つおっしゃってください。望みを叶えたうえで新しい世界での生活が始められます」


 アニメや小説で腐るほど見てきた定番の流れ。やっぱり夢の中だ。最近アニメを観すぎたのか夢の中までテンプレ設定―――思わず苦笑いする。


「何が可笑しいのですか?」


 コスプレ車掌が首をかしげて不思議そうな顔をした。童貞男子でも本能的にあざといと感じる仕草。わかっているのにドギマギする。


「そ、そりゃ笑うでしょ。異世界だの望みを叶えるだの‥‥‥外はジャングルだし」


「そう言われましても‥‥‥」


「ちなみに聞きますが、望むものってなんでもいいんですか?」


 こうなったら悪ノリしてやる。

 夢ならそのうち覚めるだろう。


「はい、何でも。私なら料理上手になるとか、可愛いペットが欲しいかも」

 

 いやいや、そんな望みを叶えたところで異世界で生きてけねーだろ。

 だが、ちょっと待て。俺に特別な『料理スキル』があれば―――確かそんなアニメを観たことがあった。


「それでは『料理が上手になる』でよろしいでしょうか?」


 俺の心を読むんじゃねえ~~~。今更だがコスプレ車掌が不気味な存在に思えてきた。


「ち、違う! 違います! 俺の望みは―――レベルカンストで」


 もし異世界に行けるとしたら‥‥‥。

 だれだってそんな空想したことあるだろう? それは俺の中二病な妄想で。

 

 異世界アニメを初めて観た時に考えた転生や転移の時に授かるものは、最強のスキルや最強の武器なんかよりレベル最上限の状態―――カンストだった。

 強さを手に入れるには一番楽で手っ取り早い。


「レベルカンスト?」


「レベルを一番上までアップさせてもらえませんか」


「う~ん、レベルですか‥‥‥。この世界はアニメやゲームの世界と違って現実ですから。なので、お客様のおっしゃっていっるレベルという概念はありません。ですが、それがお客様の望みなのであれば‥‥‥一応確認しますね」


 ―――誰に!? 誰に確認するって!? 


 思わす心の中で突っ込んだ。

 胡散臭いコスプレ車掌は手に持っていたタブレットみたいなものをしばらく間ぽちぽちしていた。鼻歌が聞こえてくるのは気のせいだよな。


 俺はその間、改めて電車内を見渡してみたのだが、やはり他の乗客の姿は見当たらなかった。


 ―――みんな何処へ消えてしまったのか? いや消えたのは俺のほうで‥‥‥


 そんなことを考えていると、手元から顔を上げたコスプレ車掌が、「大丈夫です!」と声を上げた。


「この世界には様々な魔法やスキルがあります。その中でお客様に『鑑定スキル』を付与しました。その『鑑定スキル』を少しだけ改変してレベルという概念を組み込んだので試してみてください」


「た、試すって‥‥‥どうやって―――」


 疑問を口にしたところで突然、俺の視界の半分にゲームのステータス確認のようなものが浮かび上がった。


「うわぁ―――!? マジで見える‥‥‥これって俺のステータスなのか!?」


 攻撃力や防御力、魔力なんて項目の横に数字があって―――それはロールプレイングゲームで定番のステータス画面そのものだった。

 複雑なものではなくてシンプルな表示。そして肝心のレベルは一番上にあった。レベル99―――。


「お客様は『鑑定スキル』を発動中で、今見えているのは自分自身の能力です。他人や物なども鑑定することが可能となっています」


「マジか‥‥‥、あのレベル99って」


「安心してください。お客様の望まれたレベル上限―――カウンターストップです。ただ望みを叶えるのは本来一つだけでして、結果的にお客様には『レベルカンスト』と『鑑定スキル』が付与されるかたちになってしまい‥‥‥‥‥‥」


 うん? なんかめちゃくちゃ言いにくそうだ。


「つまり?」


「‥‥‥つまり、不具合があっても補償の対象外となります」


「やっぱこれって何かのアトラクションですか?」


「いえ、現実です」


 即答だな。夢ならそろそろ覚めてくれ。バカげた話はどんどん進んで―――。


「そろそろ出発の時間です。お客様、下車してください」


 どことなくコスプレ車掌の圧が強まった。本当に時間ギリギリのようだ。

 俺は開いた扉からもう一度外の光景を観察した。ジャングルとは言ったが、熱帯地方のそれじゃなく、どちらかと言えば日本の森に近いように見えた。間違いなく熊とかそれに近い大型の獣が徘徊してそうで‥‥‥。


「降りません」


「お客様、困ります」


「客って言うんなら、元の世界に戻してください」


「それはできません。下車してください」


「絶対に嫌だ!」


「そうですか‥‥‥絶対にイヤですか‥‥‥。なら仕方ありませんね」


 なぜかあっさりと引き下がった。ここで畳み掛けておこう。


「仕方ないって―――俺は普通の高校生なんですよ! いきなり異世界に連れてこられて、これって犯罪じゃないんですか?」


「そう言われましても‥‥‥わかりました。それでは元の世界へ戻るので扉の方を向いて目を閉じてください」


 胡散臭いコスプレ車掌の言葉。疑いの気持ちはあったが、ほかに選択肢はなかった。元の世界に戻れるなら逆らう理由はない。 


「こうですか?」


 コスプレ車掌に背を向けて目を閉じた。


「では―――行ってらっしゃいませ、お客様」


 ―――ドカッ!


 背中に重たい衝撃が加わり、痛みを感じるより先に俺の身体が前方に押し出された。


「―――なっ!?」


 咄嗟に目を開けると、すでに俺の身体は電車の外に投げ出されていた。

 スローモーションのように宙を舞う中、身体を捻って扉のほうを見ればコスプレ車掌の蹴り上げた美脚が目の中に飛び込んできた。


 受け身を取ることができず地面の上に転がった。

 下草がクッションとなり、大した痛みはない。それよりも蹴られた背中の方が痛かった。ああ、痛みを感じても目が覚めないということは、もしかしたらここれは現実なのか‥‥‥。


 ―――プシュ~


 聞き慣れた音がして、電車の扉が閉まる。ドア越しにコスプレ車掌の笑顔が見えた。こっちに向かって小さく手を振っていた。俺は人が良いのかもしれない。釣られて手を振り返してしまう‥‥‥。


「黒、だったな」


 そんなどうでもいい感想から俺の異世界生活は始まった。

読んでくださりありがとうございました。

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