学校②
「えっ!?夜見くん、Vに興味あるの!?」
恒一の声が、ワントーン、いやツートーンくらい跳ね上がった。
「いや、別にそういうわけじゃーー」
「ですよね!?でも聞いてくれるだけで嬉しいです!!」
止める間もなく恒一は雑誌を開いた。
「まずVチューバーっていうのは、アバターを使って配信する配信者の事でーー」
「中身は人間なんですけど、キャラ設定とか世界観があってですねーー」
「雑談、ゲーム、歌、ASMR、企画配信とか色々あってーー」
「……お、おう」
ページをめくる音がやけにうるさい。
「この子はお嬢様系で、こっちは元気系、こっちの子はちょっとポンコツでーー」
「最近だとリスナー参加型の企画も増えててーー」
「ちょ、待て」
「はい!!」
即返事、だが勢いは一ミリも落ちていない。
「僕の今一番の推しはですね!!この夢綿苺星みるくちゃんです!!」
恒一はそう言って、スマホの画面を突き出してきた。
『昨日ぉねぇ、ちょっとお手て擦りむいちゃってぇ……、すっごく痛かったのぉ』
甘ったるい声がスピーカーから流れだす。
『だからぁ、みんなぁ……ふーふーしてぇ……?』
コメント欄が狂ったように流れる。
《ふーふー》
《フー!》
《ふーふーふー!!!》
……なんだこれ。
理解が追い付かなかった。
横を見ると、恒一がスマホに向かって息を吹きかけていた。
「ふーっ!ふーっ!」
無心だ。
本気だ。
ーー反射的に手が出る。
ゴン、という鈍い音。
「いったぁ!?な、なにするんですかぁ!?」
「あ、わりぃ」
俺は拳を引っ込めながら言った。
「なんかキモくて」
「ひどっ!?」
恒一は頭を抑えながら涙目になっていたが、多分俺の方が頭が痛い。
こんな世界、どう考えても俺の居場所じゃねぇ。
恒一は何事もなかったかのように、また楽しそうにスマホを眺めていた。
俺は流れてくる甘ったるい声を聞きながら、言葉にできない絶望を感じていた。




