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学校①

「うーん……まぁ、軽い打撲と脳震盪だね」


医者はカルテを見ながら、あっさりと言った。


「一応一晩は様子を見たけど、もう大丈夫でしょう。若いし、回復も早い」

「……頭、バットで殴られてるんスけど……」


俺がそういうと医者はにこやかに答える。


「むしろこっちが拍子抜けだよ。もっとひどいと思ってたからね」


看護師もうなずいている。

検査結果も問題なし。

頭が少しズキズキする程度、歩くのにも支障はない。


ーーあの時の背後からの衝撃。

鈍い音、視界が弾け意識が闇に沈んだ感覚。

あれは夢じゃない。

間違いなく、俺は一度ーー


「じゃあ、今日退院の手続きとるから」


医者の言葉で思考は現実に引き戻された。




翌朝、校門をくぐったとこから、やけに視線が刺さる。

「……あれ、夜見真琴じゃね?」

「え?もう退院したの?」

「結構ヤバかったって話聞いたけど」


ひそひそとした声が、あちこちから飛んでくる。

どうやら俺が入院したって話は学校中に広まってるらしい。


「真琴さん!」


振り向くと、取り巻き連中が数人、駆け寄ってきていた。

「大丈夫なんすか?」

「もうガッコ来ていいんスか?」

心配そうな顔。

でもそれだけじゃない。

「真琴さん襲ったヤツら、今めっちゃ調子乗ってるらしいっすよ」

「真琴を倒した、アイツは大した事ねえ、とか言いふらしてるって」

「このままにしといていいんすか?」

「仕返しに行きましょうよ、ナメられたままじゃーー」


言葉が重なり騒がしくなるが、すぐにそれは収まった。


「……わかってるよ、この落とし前はキッチリつける」


誰かがごくりと喉を鳴らした。

ーーそういう顔を俺はしていたようだ。


その後も、やたらに話しかけられて同じような言葉を繰り返された。

正直うんざりしていた俺は、昼休みになると同時に人の少ない屋上へと逃げ込んだ。


「はー……色々とめんどくせぇ……」


その時


「あ……あの、夜見くん……」


声の主には見覚えがある。

あの日、街で絡まれてた同じ学校のやつだ。

たしか、名前は久我恒一、……とかいったか。


「その……退院したって聞いて」

「この前は、ありがとうございました」


恒一は深々と頭を下げた。


「別に礼言われることじゃねえよ。俺が勝手にやったことだしな」

「でも、あの、入院するような怪我だって……」


恒一は言葉を探すみたいに視線を泳がせてから、意を決したように続ける。


「僕に何かできる事があればーー」

「いいって、そういうの」


食い気味に言って、手をひらひらさせる。


「別に借りを作ったつもりもねぇし、見返り求めてやったわけでもねぇ、気にすんな」

「で、でも……」

「いいから」


それだけで話は終わりだって伝えたつもりだった。

恒一は戸惑った顔をしたあと、小さく「……はい」とうなずく。

どこか納得しきれてない表情だったけど、それ以上は踏み込んでこなかった。


気まずい沈黙が落ちる。


そのとき、ふと視界の端に、妙にカラフルなものが目に入る。

恒一のカバンからチラ見えしている一冊の雑誌。

女の子のイラスト、キラキラした配色。


「それ……」


気付けば声に出していた。

「え?」と恒一は一瞬きょとんとしてから自分の持っているものを見下ろす。


「あ、これですか?」

少し嬉しそうに、雑誌をカバンから取り出す。

表紙いっぱいに並ぶキャラクターと、現実感の無い名前、そして

《特集!人気Vチューバーの完全ガイド》の文字。


「Vチューバーの雑誌です」


その言葉に、神の顔がよぎる。


「……Vチューバーって……どういうもんなんだ?」


その瞬間、恒一の目がーー

さっきまでとは比べ物にならないくらい、きらりと光った。


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