はじめての配信
一瞬の暗転から視界全体にキラキラとしたカラフルなものがめまぐるしく踊る。
わけがわからずキョロキョロと周りを見回していると、それは次第に文字に変わり
目の前に滝のようにが流れ出し始めた。
《きたー》
《新人さん?》
《清楚系!》
「……っ」
一歩、後ずさる。
文字が消えては現れ、また流れていく。
ーーなんだこれ。
壁でも床でもない。
目の前、空中に直接。
《無言?》
《音出ない系?》
《はやく自己紹介して》
胸の奥がザワついた。
見られている、囲まれている。
数はわからないが、大人数に囲まれている感覚。
「……何だよ、お前ら」
声に出すと、文字の流れが一瞬だけ止まった。
そして次の瞬間、倍になって返ってくる。
《何だよは草》
《喧嘩腰w》
《怖いんだけど》
「は?」
意味が分からない。
俺はただ聞いただけだ。
現実なら、こういうときは相手が名乗りだす。
《清楚系なのに口わる》
《キャラ設定?》
《そういう路線か》
知らねぇそんなもん。
「設定とかじゃねぇし」
誰に言っているのかもわからず、吐き捨てる。
《否定早すぎ》
《ピリピリしてるな》
胸の奥に、嫌な熱が溜まっていく。
ーーなんなんだ、ここ
勝手に見て、勝手に評価して
「ジロジロ見てんじゃねぇよ!」
《あー……これは無理》
《即切りかな》
《態度わる》
空気が冷えていくのがわかった。
目に見えないはずなのに確かに感じる。
熱が引いてくみたいに視線が減っていく。
《誰か説明役いないの?》
《新人かわいそう》
かわいそう?
同情される覚えはねぇぞ。
「……俺は……」
言葉を探す。
何を言えばいいのか、わからない。
その瞬間だった。
ぽすん。
机の上に何か落ちた音がした。
白くて丸い、耳みたいな飾りがついた、やたら愛嬌のあるぬいぐるみ。
『はーい!ちょっと待って待って~!』
甲高く、やけに元気な声。
《え?》
《マスコット?》
《かわいい!》
流れかけていたコメントが少しずつ戻ってくる。
『初配信で緊張してるだけだからね~!』
『みんな優しくしてあげて~♡』
《それなら仕方ない》
《新人あるある》
《清楚系がんばれ~》
空気がはっきりと変わった。
ーーこいつ何者だ。
「……お前」
ぬいぐるみがこちらをちらりと見る。
(おい)
声が頭の中に直接響いた。
(V、舐めてんのかテメー)
「その声…神?」
ぬいぐるみは満面の笑みのまま、視聴者に手を振っている。
『この子ね~、ホントはすっごく真面目なんだよ~!』
『初めてだから勝手がわからないだけ~!』
(コメントはな、客だ)
(舞台に立った以上、迎えろ)
「知るか」
小声で返す。
《今なんか喋った?》
《独り言?》
《清楚系の独り言いい》
「今のはお前らにじゃ……」
『えへへへ~、緊張で独り言出ちゃってるだけです~♡』
(フォローもできねえのか)
(本当にVなめてんな)
ぬいぐるみの動きに合わせて、コメントが増えていく。
《このマスコット好き》
《癒し枠》
《常駐してほしい》
(ほら、見ろ)
(場ってのは作るもんだ)
『この子ね、こう見えて……』
ぬいぐるみが俺の方を向き、ぴょんと跳ねる。
『ホントは漢気のある子なんだよ~?』
『困ってる人、ほっとけないタイプ!』
《え、ギャップ!》
《それなら許す》
《好感度上がった》
「勝手に人のこと語るな」
(事実だろ?)
「……」
胸の奥が、また少しだけ温かくなる。
さっきまでは、確かに冷えていたはずの場所だ。
(いいか、ここは喧嘩場じゃねえ)
(殴りあって勝つ場所じゃない)
一瞬、あの夜の記憶がよぎる。
(ここは)
(祭りだ)
「祭り……?」
(盛り上げて)
(楽しませて)
(また来てもらう)
(それがV)
(Vチューバーだ)
「Vチューバー?」
問いかけるように呟いたその時
心の奥で、何かが確かに動いた気がした。




