第97話:二日酔いと頼れるピース
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セリシャの家での食事会を終えた翌日、楓は宿のベッドで頭を抱えていた。
「……うぅぅ。頭が、痛いぃぃ~」
昨晩の改装祝いでは、楓もお酒を飲んでいた。
だが、楓の感覚ではそこまで飲んでいなかったように記憶している。
「……オルダナさん、もしかしてものすごく度数の高いお酒を、飲んでたのかなぁ」
オルダナに勧められたお酒を飲んでいた楓。
今になった思えば、楓が料理を作っている間に呂律が回らなくなるほど酔っていたのだから、度数が強いお酒だと予想することはできたかもしれない。
「……やっちゃったなぁ……うっ!?」
寝返りを打とうと体を動かすと、頭がグワングワンした。
ピタリと体を止めた楓は、ゆっくりと元の体勢に戻っていく。
「……今日は、何もできないかも」
楓がそう呟くと、そんな彼女の顔の前にピースが姿を見せる。
「ギュギュ?(どうしたの?)」
「あ、ピース。……ちょっと、頭が痛くてね」
「ゲゲッ! ……ギュギャギィィ(ううっ!? ……臭いぃぃ)」
「……ご、ごめんねぇぇ~」
息がお酒臭かったのだろう、ピースが鼻をつまんでそう口にすると、楓は申し訳なさそうに呟いた。
「今日はどこにも行けそうにないよ」
「キュギュ? ……キキッ!(そうなの? ……分かった!)」
「本当にごめんね、ピース」
楓の言葉に返事をしたピース。
それを納得と取った楓は謝罪を口にしたが、ピースの返事はそれだけの意味ではなかった。
「……あぁ。お水、貰いに行かなきゃ」
「キュキキュキ!(任せて!)」
「え? あ、ピース?」
何気ない呟きだったが、ピースは楓のために水魔法で水を作り出す。
そして、その水を操りゆっくりと楓の口元に持っていった。
「……これ、飲んでいいの?」
「キュン!(うん!)」
ピースの返事を聞いた楓は、口を水に寄せて、そのまま吸い込んだ。
「……ん……ん……ぷは。……美味しい」
「キュッキュキューン!(ふっふふーん!)」
「ありがとう、ピース」
「キキキュキュンキャキュゲキュキュン!(今日はおいらがカエデのお世話をするね!)」
「……え? でも、いいの?」
「キュン!(うん!)」
まさかピースからお世話をするなどという言葉が出てくるとは、思いもしなかった楓。
そして、自分よりも小さなピースにお世話される自分が情けなくなってしまう。
「キュキュンキ? キュルルキル?(ご飯は? 食べられる?)」
「あー、ご飯はダメかも。気持ち悪いんだ」
「キキッ! キキュキキッギュギュキュルン!(分かった! 何かあったら言ってね!)」
「うん。本当にありがとう」
それからピースは、甲斐甲斐しく楓のお世話に動き回る。
その姿を見た楓は心が温かくなり、自然と笑みを浮かべていた。
(ピースが私の家族になってくれて、本当によかったな)
心の中でそう思いながら、楓は今日一日をゆっくりと休んだのだった。




