第92話:ティアナの紹介
しばらくして、ティアナが一人の少女だけではなく、見覚えのある少年と共に商業ギルドに戻ってきた。
「あれ? どうしてリディ君が?」
少年はオルダナに弟子入りを何度も懇願していたリディだった。
「ティアナさんがミリーに仕事があるって言ってたから、どんな奴なのか見に来たんだ! でも、姉ちゃんだったのか?」
「どんな奴なのかって……あ~、なるほどね~」
「な、なんだよ、変な顔しやがって」
楓が変な勘繰りをしていると、リディはジト目を彼女に向ける。
「なんの話をしているの、カエデ? 本命はこっちだから! ね、ミリーちゃん!」
「あ、は、はい!」
楓とリディが雑談をしていると、ティアナが声を上げて少女ミリーの背中を押した。
「ご、ごめんね! 私は楓、従魔具店の共同経営者の一人、なのかな?」
「そうだろうが!」
「あはは。まだ実感が湧かなくって」
自信なさげな楓に対して、リディがツッコミを入れる。
二人のやり取りを黙ってみていたミリーは、ポカンとしていたものの、すぐに自分の自己紹介を始める。
「……わ、私はミリーです! ティアナさんの紹介で、こちらに来ました! よろしくお願いします!」
元気よく自己紹介をしたミリーは、そのまま勢いよく頭を下げた。
それだけで彼女の誠実さが伝わり、楓は自然と笑みを浮かべる。
「なあなあ、姉ちゃん。ミリーが一緒なら俺も嬉しいけど、俺たちみたいな子供ばっかりで本当にいいのか?」
「リディ? あんたはミリーと一緒に働きたいの? 働きたくないの? どっちなの?」
「は、働きたいよ! でも、心配にならねえ?」
子供なりにリディも従魔具店のことを考えてくれていた。
だからこその意見であり、楓の意見を聞いてみたかった。
「子供しか働いていないなら心配かもしれないけど、私やオルダナさんもいるからね。それに、子供が働いちゃダメなんてことはない……ですよね、セリシャ様?」
リディを雇った場面にはセリシャもいたため問題ないとは思っていたが、きちんと確認していなかったことを思い出し、この場で確認を取ってみた。
「問題ないわ。それに、子供にもできる仕事なら子供に振ってあげた方が、将来のためになるものね」
「ですよね! あぁ~、よかった~」
「知らなかったのかよ、姉ちゃん?」
リディの言葉にドキッとしながらも、楓は苦笑いしながらミリーへ向き直る。
「えっと、ミリーちゃん。私たちはオルダナさんっていう従魔具職人の人と一緒に、新しい従魔具店を経営するつもりなの。リディ君はオルダナさんに弟子入りしたいって願いがあるから、お試しで働いてもらうことになったの。ミリーちゃんはどうかな? 私たちと一緒に働いても、大丈夫かな?」
目標があれば諸手を上げて採用したい。
ミリーの態度を見た楓は、単に仕事を得たいだけでも構わないと思っている。
そのうえで選ぶのはミリーだと思い、問い掛けた。
「……わ、私は、皆さんと一緒に、働いてみたいです」
少しおどおどした感じはあったが、ミリーははっきりと「働いてみたい」と答えてくれた。
「分かった。それじゃあ、一緒に働こうか」
「え? でも、私でいいんですか? 他に、候補の方は?」
「あははー。実は、もう一人雇えないかなって決まったのがついさっきで、ティアナさんの紹介なら大歓迎だと思ってさ。他の候補はいないんだ」
即採用が決まったこともあり、ミリーは驚きのまま問い掛けた。
すると楓は頬を掻き、苦笑しながら答えた。
「姉ちゃんはみんなが知ってそうなことを知らないことがあるからなー。その点、ミリーは頭もいいし、可愛いからな!」
「リ、リディ君!」
「うんうん! ミリーちゃん、可愛いよねー、分かるよ、分かる!」
「カ、カエデ様!?」
「私のことは楓でいいよ、ミリーちゃん!」
「うぅぅ。それじゃあ、カエデ……さんで」
ミリーの初々しい態度が可愛らしく、楓は思わず笑みを浮かべてしまう。
リディが何故か自信満々に頷いているので、楓が認めたミリーが可愛いという部分に納得しているのだろう。
「いい子を紹介してくれたわね、ティアナさん」
「そうでしょ? ミリーちゃんはとってもいい子なんだけど、ちょっと自信なさげなところもあってね。だから、信頼できる人のところに紹介したいと思っていたの」
「それなら、私のところでもよかったのではなくて?」
「ここには私の紹介がなくても、優秀な人が集まってくるじゃないのよ」
やや意地悪なセリシャの質問に、ティアナは笑いながら返した。
とはいえ、楓としては嬉しい人材が確保できたため、満面の笑みを浮かべている。
あとは店舗の改装を待つのみとなった。




