第91話:お悩み相談
「その、私が異世界の人間だって知っていただいたところで、この世界の常識知らずなんです」
「「それはそうね」」
楓の告白を受けて、セリシャとティアナは当然だと言わんばかりに頷いた。
「まあ、そういう事情があるなら、仕方ないわね」
「ってかさ。カエデってお店持つの? すごいじゃないのよ!」
「あれ? 言ってませんでしたっか?」
「聞いてないわよ!」
お店を持つと決まってからのことを思い出しながら、確かに伝えていなかったと頬を掻く。
「あはは。ライゴウさんの従魔具作りもあって、忘れていました」
「あー……まあ、私もそのあとすぐにレクシアの従魔具の材料を集めに行っちゃったし、仕方ないか」
お互いに忙しくしていたと、ティアナも頷いた。
「うーん……そういうことなら、もう一人くらい従業員を雇う?」
楓とティアナの会話が終わったのを見て、セリシャがそんな提案を口にした。
「それもありだとは思うんですけど、計算だけなら私もできるんです。ただ、常識的なことが……従魔具の適正価格だって、全く分からないんですよね」
「カエデがいた世界に、従魔具はなかったの?」
「従魔具というか、そもそも魔獣が存在していなかったので」
「えぇっ!? そんな世界があるの!!」
「はいはい、ティアナさん。話を逸らせないでくれるかしら?」
異世界に興味があるのか、ティアナは楓の話に興味津々だ。
とはいえ、そのたびに楓のお悩み相談が中断されていては、話が進まないとセリシャが制止する。
「あ、あはは~。ごめんね~」
「私も普通に返事をしちゃったので、すみません」
「カエデさんが謝る必要はないのよ。それと、カエデさんって計算はできるのね?」
「はい。人並み程度ですが」
そう楓が答えると、セリシャは思案顔になる。
「最初は商業ギルドから人を派遣しようとも考えたのだけれど、常識の問題であれば、仕事を探している人にお願いしてもいいかもしれないわね」
「でも、その人って信用できるの? 商業ギルドの人間の方が信用できるんじゃない?」
「それはそうなのだけれど、商業ギルドのギルドマスターとしては、仕事を探している人に斡旋するのも、仕事の一つなのよ」
腕組みしながら悩み始めたセリシャ。
するとティアナは、セリシャの言葉を受けて一つの提案を口にする。
「それじゃあさあ、セリシャ様。私の知り合いを紹介してもいいかしら?」
「え? ティアナさんの知り合いですか?」
反応したのは楓だった。
楓も従業員を雇うのであれば、誰でもいいというわけではない。
商業ギルドの職員はセリシャのお墨付きがあるため安心だが、外から雇うとなればそうはいかない。
リディは別だ。オルダナと顔見知りで、悪い人間ではないと分かったからだ。
これが全く知らない人となれば、お互いにまずは信用を得るところから始めなければならない。
もしもティアナの知り合いが働いてくれるのであれば、その人をすぐに信用することはできなくても、紹介してくれたティアナのことを信じることはできる。
それだけ、信頼を築くための時間を短縮することができるのだ。
「その人は信頼できる人なのかしら?」
「もちろん! それに、子供だけどシスターの教えを受けて常識にも詳しいのよ!」
「え? シスターって……もしかして、孤児院の子だったりしますか?」
「そうだけど、カエデは孤児院を知っているの?」
これは完全な予想外の展開だ。
何故なら孤児院で暮らしているリディを雇うことになっていたからだ。
「実は、先輩従魔具職人のオルダナさんに弟子入りをお願いしている男の子がいたんですけど、その子も孤児院で暮らしているんです」
「そうだったのね! それならきっと大丈夫よ! 孤児院の子たちはみんな礼儀正しくて、良い子ばかりなんだから!」
セリシャやオルダナの太鼓判のように、今回はティアナから太鼓判を押された。
ならば、まずは一度顔を合わせてみたいと楓は思った。
「……分かりました。それじゃあ、まずは一度会ってみたいんですけど、その子を呼んできてくれることはできますか? それとも私から会いに行きましょうか?」
「雇ってもらえるかもしれないんだから、私が呼んでくるわ! ここでいいのかしら、セリシャ様?」
「えぇ、構わないわ」
「それじゃあ、すぐに呼んでくるから待っていてね!」
それからティアナはすぐに部屋を飛び出すと、駆け足で商業ギルドをあとにした。
いったいどんな人物がやってくるのか、不安よりも期待が大きい楓なのだった。




