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異世界従魔具店へようこそ!〜私の外れスキルはモフモフと共にあり〜  作者: 渡琉兎


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第89話:炎を纏う炎弧

 ◆◇◆◇


 そして、翌日。

 楓はとてもスッキリとした気持ちで朝を迎えた。


(……セリシャ様に異世界から来たってことを打ち明けたからかな?)


 熟睡できたというよりも、気持ちの部分がとても軽くなったと、楓は感じていた。


「キュッキュキュー!(おっはよーう!)」


 そこへピースが楓の腕を器用によじ登り、肩に乗りながら挨拶をしてくれた。


「おはよう、ピース。今日はレクシアさんに従魔具を渡すんだ」

「キキギュヂヂ、ギャギュギギャ!(おいらのライバルが、増えていくな!)」

「えぇ~? レクシアさんって、ピースのライバルだったの~?」

「キキギャッギュギギ!(おいらの方が強いんだぞ!)」

「うふふ。分かったよ。それじゃあ、いこうか!」


 毎朝のピースとの楽しい会話を終えた楓は、身支度を整えると、部屋を出て一階に下りる。


「おはようございます、女将さん」

「おはよう、カエデさん! サンドイッチ、今日も大好評だよ!」


 カウンターで仕事をしていた女将に声を掛けると、彼女は嬉しい報告を口にしてくれた。

 宿でサンドイッチを売り出してからというもの、口コミで評判が広がり、今では宿泊客以外からも注文が殺到する大人気商品になっていた。

 女将の味付けもそうだが、一番は持ち運びやすい、食べやすい、というところだろう。

 食品なので保存は利かないが、その日の昼くらいまでなら問題なく食べられるとあって、弁当代わりに購入していく人もいるようだ。


「さすがは女将さんですね!」

「カエデさんのおかげよー! これ、持っていってちょうだい! もちろん、ピースの分もあるからね!」

「ありがとうございます! それじゃあ、いってきますね!」

「キュキキキュー(いってきまーす)」


 女将からは毎朝、弁当代わりのサンドイッチを無償で受け取っている。

 サンドイッチを教えてくれたお礼と言うことだが、最初の頃は断っていた。

 しかし、女将が折れないことに気づいた楓は、お互いに時間を無駄にしないためにも受け取ることに決めたのだ。

 申し訳なさもあったが、女将が作るサンドイッチは絶品だ。それこそ、自分が作るよりも格段に美味しいと楓は思っている。

 だからこそ、今では毎日の楽しみの一つになっていた。


「だけど、今日はすぐには食べないよ! だって、レクシアさんに従魔具を渡すんだからね!」

「ギュギュ~?(えぇ~?)」


 商業ギルドへ向かう足取りも、今日の楓はいつも以上に軽かった。


 そうして到着した商業ギルドだったが、その入り口の前に目的の人物を見つけ、楓は嬉しくなり駆け出す。


「ティアナさん! レクシアさん!」

「あ! カエデ~! 待ちきれなくて来ちゃったよ~!」


 楓が声を掛けると、ティアナも嬉しそうに笑顔を弾けさせ、大きく手を振る。

 足元ではレクシアがやれやれといった感じで首を横に振っていた。


「完成してますよ! 中に行きましょう!」

「待ってました! 楽しみね、レクシア!」

「ココンコン」

「んも~! さっきまでそわそわしてたくせに~! 照れちゃって~!」


 すまし顔のレクシアに対して、ティアナはニヤニヤしながらその体を撫でまわす。

 それから楓たちは商業ギルドに入り、二階へ上がっていく。

 そろそろ楓がやってくる時間だと分かっていたのか、セリシャも部屋の前で待っていてくれた。


「おはようございます、セリシャ様!」

「おはよう、カエデさん、ピース。それに、ティアナさんにレクシアも」

「早く中に入りましょうよ、セリシャ様! 私、待ちきれないのよ!」

「はいはい。分かったから、落ち着きなさい」


 興奮しきりのティアナに苦笑を向けながら、セリシャは扉を開いて中へ促す。

 早足になっているティアナに続いてレクシアが入り、続いて楓とピース、最後にセリシャが扉を閉めながら入る。

 従魔具はセリシャが預かっていると分かっているのか、扉を閉めて振り返った彼女の前には、満面の笑みを浮かべているティアナが立っていた。


「……お茶くらい入れさせてくれないかしら?」

「待ちきれないのよ!」

「はぁ。分かったわ。カエデさんもいいかしら?」

「はい!」


 ティアナもそうだが、実は楓も早くティアナとレクシアに従魔具を渡したいと、顔には出ていなかったが興奮していた。

 だが、これから手渡されると分かったからか、満面の笑みを浮かべながら元気よく返事をした。


「……似た者同士ね。それじゃあ、テーブルに出すから少しだけ待っていてちょうだい」

「「はい!」」


 そうして魔法鞄に手を伸ばしたセリシャは、中からレクシアの従魔具を取り出し、テーブルにそっと置いた。

 従魔具の姿を見たティアナは思わず息を吐き、レクシアの瞳も真っすぐに見つめている。


「これが、ティアナさんとレクシアさんの願いを込めて私が作った、オーダーメイドの従魔具です」


 先ほどまで満面の笑みを浮かべていた楓だが、今は職人の顔となり、ティアナとレクシアがどのような反応を示すのか、緊張している。

 ティアナが従魔具を手に取り、上から下まで眺めていく。


「……すごいよ、カエデ。これ、レクシアの衣装だよね? とっても美しくて、薄くて軽い。こんな従魔具、今まで見たことがないわ」

「……コン!」


 ティアナが感想を言い終わると、珍しくレクシアが大きな声で鳴いた。


「……付けてみる?」

「コン!」


 レクシアは大人の魔獣だ。冷静沈着で、彼女が興奮しているところを楓は見たことがない。

 そんなレクシアが、興奮して大きな声で鳴いた。早く付けたいと、催促したのだ。

 従魔具職人として、これほど嬉しいことはなかった。


「お願いします、ティアナさん」

「うん、分かった」


 楓の言葉に、ティアナも頷く。

 そして膝を曲げ、レクシアの視線に合わせたティアナが、従魔具を纏わせていく。

 従魔具の布は光に当てると透けて見えるほどに薄い。

 その薄さでありながら、赤色と橙色、そして白色で美しい模様を作り上げている。

 これらが本来は硬質な材料で作られているなど、誰が思うだろうか。

 最後にティアナは、衣装の留め具として使われている火竜の魔石を首に回し、しっかりと留めた。


「……付け心地はどうかな、レクシア?」


 ティアナの問い掛けに、レクシアは体を動かし、従魔具の動き自体も確認していく。


「……コオオオオンッ!」


 突如、レクシアが鳴いた。咆哮と言ってもいいだろう。

 そして、従魔具から力強く真っ赤な、それでいて美しい炎を顕現させた。

 だが、熱さは感じない。レクシアが魔力を完璧に制御しているからだ。

 その姿はまるで、炎を纏った炎弧であり、炎が揺れるたびに従魔具の美しさをさらに強調するものになっていた。


「……きれいだね、レクシアさん」

「……コン!」


 最後に楓は、今まで聞いてきた中で最高の返事をレクシアから貰ったのだった。

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