表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界従魔具店へようこそ!〜私の外れスキルはモフモフと共にあり〜  作者: 渡琉兎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/165

第88話:セリシャとの絆

「…………はああぁぁぁぁ~」

「えぇっ!? ど、どうしたんですか、セリシャ様!!」


 楓が真実を伝えた直後、セリシャから盛大なため息が吐き出される。

 今まで見たことがないセリシャの姿に、楓は心配の声を掛けた。


「……えぇ、そうよね。スキルレベルがEXなんだもの、それを疑うべきだったわ」

「……もしかして、私はもう、ここにいられませんか?」


 頭を抱えているように見えたセリシャの姿に、楓は自分が商業ギルドから、バルフェムから、出て行く未来を想像してしまう。


「え? どうしてそうなるのかしら?」

「だって、私みたいな他国でもない、異世界からの人間だなんて、受け入れたくないですよね?」

「なるほど。そんなことを考えていたのね」


 楓からすれば死活問題にもつながることだったが、セリシャは苦笑しながらそんなことだと笑い飛ばす。


「カエデさんが異世界からの人間だからと言って、追い出すなんてことはしないわよ?」

「……それ、本当ですか?」

「もちろんよ。むしろ、異世界の知識を持ち込んでくれたことに、感謝するべきかもしれないわね」


 最後に笑いながらそう口にしたセリシャを見て、楓の瞳からは涙が零れ落ちた。


「……あ、ありがどう、ございばず!」

「あらあら。もしかして、ずっと不安に思っていたの?」

「ぐずっ! ……はい」


 涙を拭ってから返事をする楓。

 そんな楓の横に立ち、彼女の肩を抱きしめるセリシャ。


「バカね。私がそんな薄情な人間に見えたの?」

「……見えませんでした。でも、私の方が、変な奴だって自覚があったので」

「そうかしら? 真面目で頑張り屋さんな、可愛らしい女の子じゃないの」

「……うぅぅ~!」

「もう泣かないの。私はあなたを見捨てないし、これからも助けてあげるわ。信じてくれるかしら?」

「…………はい」


 それからしばらくの間、楓はセリシャの肩にもたれながら泣いており、セリシャも楓が泣き止むまで優しく肩を抱いていた。


「――……すみませんでした。もう、大丈夫です」


 数分後、泣き止んだ楓はセリシャから体を離し、笑顔でそう口にした。


「そう? なら、よかったわ」

「それと……ありがとうございました」


 頭を下げた楓を見て、セリシャは苦笑しながら口を開く。


「お礼を言われるようなことはしていないわよ?」

「肩を貸してくれたことも、これからも私と一緒にいてくれることも、全てのことにお礼を言いたかったんです」


 顔を上げた楓の言葉に、セリシャは微笑む。


「これからもよろしくね、カエデさん」

「よろしくお願いします、セリシャ様!」


 それから二人は、楓のことについて話し始める。


「それにしても、カエデさんが勇者だったとはね。驚きだわ」

「ですから、私は巻き込まれただけなんですってば! 本当の勇者は王城にいて、三人とも知り合いだったんですよ!」


 楓は自分が巻き込まれただけだと強調し、本当の勇者は別にいるのだとセリシャに説明する。

 するとセリシャは顎に手を当てながら思案顔を浮かべる。


「……でも、カエデさんが〈従魔具職人〉のレベルがEXなのよね?」

「〈従魔具職人EX〉のことですよね? そうですけど、外れスキルですし、私以外の勇者も同じじゃないんですか?」

「どうなのかしら? 勇者召喚でやってきた全員のスキルレベルがEXだったなら、もっと世間一般にも広まっていそうなのよね」


 巻き込まれたと主張している楓のスキルレベルまでEXとなれば、国単位で頻繁に勇者召喚が行われているのではないかと、セリシャは考えてしまう。

 しかし、そうではないとなれば、スキルレベルEXは最も特別な存在に与えられるものではないだろうか。


「……そういえば、カエデさんは商業ギルドにやってきた時、スキルレベルについては知らなかったのよね?」

「はい。王城で魔導スクロールを使ってもらったんですけど、スキルは〈従魔具職人〉としか出てこなくて、サブスキルの〈翻訳〉のことも知らなかったんです」

「……それはおかしいわね。王城にある魔導スクロールが不良品であるはずもないでしょうし」

「ですよね……」


 腕組みをしながら考え込んでしまった二人だが、今ここで悩んでいても答えは出ない。

 ならば、もっと建設的な話をした方がいいだろうと、セリシャが別の話題を口にする。


「カエデさんが異世界の人間だということは、誰が知っているのかしら?」

「えっと、第一王子と第二王子、それと二人の護衛、あとは一緒に召喚された勇者の三人ですかね」

「あら? ティアナさんは知らないの?」


 てっきりティアナは知っているのだと思っていたセリシャは、驚きの声を漏らした。


「私が第二王子と面識があることは知っていますけど、異世界の人間だということは伝えられていません」

「そうなのね。……まあ、そこはカエデさんに任せるけれど、助言だけはしておくわね」


 そう口にしたセリシャは、優しい笑みを浮かべながら助言を口にする。


「異世界から来たのであれば、分からないことも多いはず。その中で信頼できる人物を見つけておくのはとても大事なことよ。その点で言えば、ティアナさんは信頼できる人物ではないかしら。まあ、私よりもカエデさんの方が分かっていると思うけれどね」

「……はい!」


 最終決定は楓に任せると伝えたうえで、セリシャはティアナになら真実を伝えてもいいのではないかと助言してくれた。

 そのことに関しては楓も納得しており、いずれは伝えたいと思っている。


「さて! 話し込んでしまったけれど、カエデさんは今日はもうお休みなさい。倒れてしまったのだからね」

「え? でも、従魔具をティアナさんとレクシアさんに――」

「お休みなさい?」

「…………分かりました」


 ものすごい圧を感じながら「お休みなさい?」と言われてしまい、楓は苦笑しながら返事をした。

 とはいえ、自分が異世界の人間だということをセリシャに伝えられたからだろう、心はとても軽くなっていた。


(本当にありがとうございました、セリシャ様)


 心の中で深い感謝を伝えながら、楓は商業ギルドをあとにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ