第80話:弟子希望
「オルダナさん! 俺を弟子にしてください!」
扉の先から現れたのは、まだあどけなさが残る一人の少年だった。
その表情は真剣そのもので、楓やセリシャのことなど目に入っていないのか、真っすぐにオルダナを見つめていた。
「……はぁ。またお前か」
「はい! また俺です!」
「ダメだと言っただろう。それに今は忙しい、帰れ」
「弟子にしてくれるまで帰りません! それに表にはクローズの看板が出てました! 忙しくないですよね!」
「客がいるのが分からんのか! 忙しいんだ、帰れ!」
なかなか帰らない少年に対して、オルダナは怒声を響かせる。
そこでようやく楓とセリシャに気づいたのか、少年は視線を二人に向けた。
「……あ、どうも」
「「あ、どうも」」
「よし! オルダナさん、弟子にしてください!」
「何がよしだ! 何が!」
挨拶をしたからよしと思ったのか、少年は再びオルダナへ声を掛け、オルダナも再び声を荒らげた。
「ねえ、君。どうしてオルダナさんの弟子になりたいの?」
するとここで、楓は少年に声を掛けた。
「オルダナさんはすごいんだ! 従魔のために色々なことができるんだ! だから、俺も従魔具職人になって、従魔のために働きたいんだ!」
「そうなんだ! すごいよね、オルダナさんって!」
「そうだろ!」
「おい、嬢ちゃん! 何を意気投合してんだよ!」
突然盛り上がり始めた楓と少年を見て、オルダナはため息交じりに声を掛けた。
「他の従魔具職人は、なんか違うんだ。上手く言えないんだけど、なんか違う。でも、オルダナさんは本物なんだ。だから、弟子入りしたいんだ!」
少年の言葉を受けて、今度はセリシャが口を開く。
「あら、よく見えているじゃないの」
「セリシャ様まで、何を言っているんだ?」
「弟子にするかどうかはさておき、近くに置いておくのはいいのではなくて? まあ、親が許してくれればの話だけれど」
セリシャは少年の受け答えを見て、傍に置くことを推奨してきた。
もちろん、彼はまだ子供だ。保護者がいるだろう。
保護者の許可が下りればという条件付きだったのだが、少年の口からは意外な言葉が口にされる。
「親? いないけど?」
「え? そ、そうなの?」
「あー……こいつは孤児院にいてな。親はいないんだ」
驚きの声を上げた楓に対して、少年の事情を知っていたオルダナが申し訳なさそうに答えた。
「んなもん、どうでもいいじゃないか! 俺は俺! オルダナさんの弟子になりたいんだから、弟子にしてくれよ!」
「あの、オルダナさん。本当にダメなんですか?」
するとここで少年だけではなく、楓からも弟子にできないのかと声が上がった。
「嬢ちゃんまで……そもそも、こいつがスキルで〈従魔具職人〉を授かれるかどうかも分からんじゃないか」
「……え? 君、スキルが〈従魔具職人〉じゃないの?」
「じゃないってか、まだ授かれる年齢じゃねえよ。姉ちゃん、何言ってんだ?」
この世界では、スキルを授かれる年齢が一五歳からと決まっている。
少年は現在一四歳であり、スキルを授かれるのは来年となっていた。
「嬢ちゃんも一五歳の時にスキルを授かったんだろう?」
「え? あ、えっと……そ、そうでした! あは、あははー!」
自分が異世界から召喚されたことを誰にも伝えていなかった楓は、苦笑いしながら誤魔化した。
「……? まあ、いいけどさ。それじゃあ、なんでもいいから働かせてくれよ!」
「お前の目的はそれだろうが!」
「働きながら従魔具について学びたいんだよ! いいだろう!」
孤児院にいながら働きたいと思うのは、当然ではないかと楓は考える。
それは自立したいという思いと、そうしなければ孤児院が大変なのではないかとという、楓の勝手な想像からだ。
だが、働きたいという意欲があるのであれば、その意欲を大事にしたいと強く思う。
だからこそ楓は、口を挟む。
「……あの、それだったら、オルダナさん。お試し期間で働いてもらうのはどうですか?」
「お試し期間だあ?」
「はい。まずはお試しで簡単なお仕事からやってもらって、それで少しずつ慣れていってもらいます。その時の出来がよかったら、いざ共同経営で店舗を運営する時に、正式に採用するんです」
「あら、それは良い考えね」
楓が考えを口にすると、そこにセリシャも乗っかってきた。
「お試しで雇うのは商業ギルドでもやっていることだし、どうかしら、オルダナ?」
「どうかしらって、お前達なぁ……」
思案顔になったオルダナを見て、完全にダメではないのだと楓は期待を持つ。
一方で少年は、楓たちが味方になってくれたにもかかわらず、その表情はどこか険しい。
「……なあ、姉ちゃん」
「ん? どうしたの?」
「姉ちゃんって、オルダナさんのなんなんだ?」
「なんなんだって……同じ従魔具職人かな? 色々教えてもらっているの」
「教えてもらってる……それって、弟子ってことか?」
「弟子? ……そうなるのかな?」
楓が何気なしにそう答えると、突如少年がカウンターをバンッと叩いた。
「なんでだよ!」
「え? ど、どうしたの?」
「なんで姉ちゃんが弟子で、俺は弟子じゃないんだよ!」
まさかここで少年が怒るとは思っておらず、楓は慌てふためいてしまう。
「あの、えっと、弟子って言うか、共同経営で――」
「負けないからな! 勝負だ、姉ちゃん!」
「……え、ええぇぇぇぇ~?」
子供の発想に理解が追いつかず、楓は困惑の声を漏らすのだった。
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