第76話:天高く羽ばたく雷鳥
その後、お昼を回ったところでヴィオンとライゴウは王家からの指名依頼のために、バルフェムを出発することになった。
というのも、従魔具を依頼した時もダメもとだったヴィオンは、断われると予想して昨日の時点で出発するつもりでいた。
しかし、結果は楓が従魔具作成を受けてくれ、その完成を待つことになった。
つまり、ヴィオンは現在、遅刻ギリギリの状態にあったのだ。
「駆け足になってしまってすまない」
ライゴウを伴いバルフェムの門まで移動中のヴィオンは、ついてきていた楓とティアナに声を掛けた。
「そんなことありませんよ、ヴィオンさん! それに、従魔具が間に合って良かったです!」
「ヴィオン! あんた、カエデに感謝しなさいよ!」
楓は笑顔で答えたが、ティアナはやや膨れっ面で言い放つ。
「もちろんだ。感謝の気持ちしかない」
「それならいいわ!」
しかし、どうしてティアナだけではなく、楓までヴィオンについて行っているのか。
それは、どうしてもライゴウが飛び上がる姿をこの目で見たかったからだ。
こうしてバルフェムの門の外に出た楓たち。
「ヂギュイイイイイイイイッ!」
すぐにヴィオンが跨ったこともあり、ライゴウは力強く鳴くと、従魔具を付けた両翼を大きく羽ばたかせる。そして――
「……すごい。飛んだ……飛んだよ、ティアナさん!」
「雷鳥だもの、それはそうよ」
嬉しそうに飛び跳ねながら声を上げる楓を見ながら、ティアナはクスリと笑いながら答えた。
「本当に助かったぞ、カエデさん!」
「こちらこそ! とても素晴らしい経験をさせていただきました!」
お礼を伝えたヴィオンに対して、楓も笑顔でお礼を返す。
その姿にヴィオンは苦笑し、そしてライゴウの首を優しく叩く。
「ライゴウ」
「ヂギャ!!」
ヴィオンの合図を受けたライゴウは、従魔具に魔力を注ぎ込み始める。
「ティアナも、またな!」
「行った先でぶっ倒れるんじゃないわよ!」
ヴィオンはティアナにも声を掛けた。
そのティアナは、最後だけは心配の声を口にした。
「当然だ!」
力強く返事をしたヴィオン。
「行こう!」
「ヂギャアアアアァァアアァァッ!!」
そして、ヴィオンの言葉と同時に能力を解放したライゴウが、一気に加速する。
目の前でホバリングしていたライゴウの姿は、一瞬で遥か彼方へと飛び立ってしまった。
「……え? 速っ!?」
「……これは、さらに強くなっちゃったわね、ライゴウ」
ライゴウの速度は、従魔具を付ける前を知っているティアナをも驚かせるものになっていた。
思わずといった感じでティアナも呟き、苦笑いを浮かべる。
「私たちも負けていられないわね、レクシア」
「……コン」
ティアナがヴィオンをライバル視しているように、レクシアも初対面ではあったが、ライゴウをライバルと認識し始めていた。
「……ねえ、カエデ」
そしてここでティアナが口を開いた。
「なんですか、ティアナさん?」
「私が従魔具の材料を集めてきたら、レクシアにオーダーメイドで作ってくれるかな?」
驚きの提案に、楓は一瞬だけ目を丸くしたものの、すぐに従魔具職人としての表情に戻る。
「もちろんです! 私に作らせてください!」
「ありがとう、カエデ!」
「コンコン!」
楓が力強く答えると、ティアナとレクシアからお礼の声が飛び出した。
「さて。ヴィオンたちも見えなくなったし、そろそろ戻ろうか?」
「そうですね」
ティアナはそう口にすると、楓の返事を聞いてからレクシアと共に踵を返す。
楓もバルフェムに戻ろうとしたのだが、一度だけライゴウが飛んでいった先へ振り返る。
(……神道君たち、無事でいてくれたいいけどな)
楓がライゴウに従魔具を作ったのは、単純に従魔ファーストを掲げていたからだけではない。
ライゴウに従魔具を作ることが、道長たちを間接的に手助けできると考えたからでもある。
(それに、レイス様のお母さん……王妃様にも、助かってもらいたいもの)
自分の一助が、誰かの助けになるかもしれない。
そう思いながら依頼が無事に達成されることを願い、今度こそ楓もバルフェムの中に戻っていった。




