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異世界従魔具店へようこそ!〜私の外れスキルはモフモフと共にあり〜  作者: 渡琉兎


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第75話:ライゴウの従魔具

 ◆◇◆◇


 翌日となり、楓がセリシャの部屋で従魔具作成をしていると、そこへヴィオンがやってきた。


「おはようございます、ヴィオンさん!」

「あら、ヴィオン。どうしたのかしら?」


 ヴィオンの来訪に楓は元気よく挨拶をし、セリシャは来訪の目的を尋ねた。


「いや、その……明日か、明後日と聞いていたものでな。もしかすると完成しているかもと思って、来てみたんだ」


 どこか恥ずかしそうにそう答えたヴィオンを見て、楓は彼が従魔具の完成を待ちきれないのだと分かり、微笑んでしまう。


「どうやらまだみたいだな。明日また――」

「完成していますよ」


 部屋を見回したヴィオンが言葉を言い切る前に、楓は完成していると口にした。


「……そ、そうなのか?」

「はい。大きい従魔具になっているので、セリシャ様の魔法鞄に入れてもらっているんです」

「さすがにそのままにされると、仕事の邪魔だったものでね」

「そ、それはすまなかった!」


 セリシャの言葉にヴィオンはすぐに謝罪を口にしたが、これはもちろん冗談だ。


「うふふ。あなたは真面目なのね」

「……真面目というか、ライゴウの大きさを考えれば、確かに邪魔だと思っただけだ」

「魔法鞄があるのだから、問題にならないわ」


 そう口にしたセリシャは、その視線を楓に向ける。


「どうする、カエデさん?」

「ヴィオンさん。お時間が大丈夫でしたら、そのままライゴウさんのところまで行ってもいいですか?」


 楓としては、実際にライゴウに付けてもらい、感想を聞きたかった。


「も、もちろんだ! むしろ、こちらからお願いしたい!」


 そしてヴィオンもまた、早く受け取れるのであればありがたいと、前のめりになりながらそう答えた。


「ライゴウは今回も従魔房の前に?」

「そうです」

「それじゃあ行きましょうか!」


 楓、セリシャ、ヴィオンは部屋を出ると、従魔房の前に向かう。


「あら? 楓にセリシャ様に……ヴィオン~?」


 そこへタイミングよく、ティアナとレクシアも現れた。


「ティアナさん。今からライゴウさんに従魔具を届けに行くんですけど、一緒に行きませんか?」

「え? ……カエデ、もしかして、もう作ったの?」

「はい! 頑張りました!」


 驚きの声を漏らしてティアナに対して、楓は元気いっぱいに答えた。

 その様子を見たティアナは、横目でセリシャを見る。


「安心してちょうだい、ティアナさん。カエデさんの状態は良好よ」

「……そうですか。それならいいんです」

「ん? どうかしましたか?」


 ティアナが楓を心配していたことに、楓本人は気づいていない。

 そして、セリシャが従魔具作成をしている時の楓の状態をしっかりと見守っていたことも、気づいていなかった。


「ううん。なんでもないわよ。私も暇だし、見ていこうかしら!」

「お前、いったい何しにここへ来たんだ?」

「ヴィオンはうるさいわね! 何よ、用がなかったら来ちゃダメだって言いたいの?」

「ダメではないが……」


 すぐにいつものティアナに戻ったことで、楓は先ほどの疑問がなくなり、苦笑しながら歩き出す。

 その後ろでティアナとセリシャが何やら話をしていることにも気づかず、商業ギルドを出て従魔房へ到着した。


「ヂギヂギギギギ!」


 ライゴウは楓を見つけると、大きな翼を激しく動かし、嬉しさを露わにする。

 そのたびに風が吹き荒れ、砂煙が舞い上がる。


「ぶえっへ!?」

「ラ、ライゴウ! 落ち着け! 迷惑になっているぞ!」

「ヂャギャ!? ……チキュゥゥ」


 ヴィオンが慌てて声を掛けると、ライゴウは落ち込んだ様子で下を向いてしまった。


「あはは。……大丈夫ですよ、ライゴウさん。ヴィオンさん、従魔具を取り出すので、受け取っていただけますか?」

「分かった」


 それから楓は、セリシャが魔法鞄から取り出した従魔具を受け取り、それをヴィオンに手渡していく。

 従魔具を受け取ったヴィオンは感嘆の息を漏らし、視線を従魔具からライゴウへ向ける。


「……これがお前の従魔具だぞ、ライゴウ」

「……ヂギチイイイイ!」


 今度は翼ではなく、鳴き声で嬉しさを表したライゴウ。

 楓が付け方を説明し、ヴィオンがその通りにライゴウへ取り付けていく。

 従魔具を見つめるライゴウの瞳はどこか輝いているように見え、楓は嬉しそうに一人と一匹の姿をその目に焼き付ける。


 ライゴウの動きを妨げないよう、翼の動きを意識した両翼の従魔具。

 そして、ライゴウの希望を叶えるための胴体の従魔具。

 どれもが体毛の美しさを損なわない色味をしており、芸術品としての機能も備わっている。


「……付けたぞ、ライゴウ。どうだ?」


 バルフェムの中でライゴウほどの大きな従魔が飛び上がることはできない。

 翼を動かすだけで砂煙が舞い上がるのだから、当然だ。

 それでもライゴウは付け心地を確認し、そしてわずかだが魔力を流し込んでいく。


「……ヂギヂギュギイイイイ!」


 ライゴウの鳴き声からは、〈翻訳〉を使わなくても嬉しそうな気持が十分に伝わってきた。

 それはこの場にいる誰もが感じたことであり、主であるヴィオンは殊の外嬉しく、その瞳には僅かに涙がにじんでいた。


「……カエデさん。本当に感謝する」


 そしてヴィオンは、楓へ振り返るとお礼を口にしながら頭を下げた。


「か、顔を上げてください! 私は私の仕事をしただけですから!」


 楓は依頼を受け、仕事しただけ。

 そう口にした彼女に対して、顔を上げたヴィオンは柔和な笑みを浮かべながら頷く。


「あぁ、確かにその通りだ。だが、俺たちにとっては本当に長い時間だったんだ。従魔具を手に入れるのが、こんなに嬉しいことだとは思わなかった」


 ライゴウが喜んでいることが分かったからだろう。ヴィオンの嬉しさは一層増したに違いない。


「セリシャ様。支払いは定価の二割増しで請求してくれ」


 続いてヴィオンはセリシャへ振り返り、そんなことを口にした。


「えぇっ!? ダ、ダメですよ、ヴィオンさん! 支払いは適正価格でしっかりと!」

「適正価格であれば、それこそ多く支払わなければならないな」

「なんでそうなるんですか!?」


 大慌てで割増しを断ろうとした楓だったが、ヴィオンの気持ちがそれを許さない。


「あら。高いわよ?」

「構うものか。Sランク冒険者を舐めないでもらいたい」

「セ、セリシャ様まで!?」


 割増しを止め続ける楓だったが、誰も彼女の言葉を聞くことはなく、結局はヴィオンの提案通り、適正価格の二割増しでの支払いが行われたのだった。

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