第62話:オルダナからの提案
「カエデさんにお店を持たないかと言ったでしょう? その時から、まだまだ先になるとは思っていたけれど、経営面についても教えていかなければならないと思っていたの」
お店を持つということは、従魔具を作っているだけではダメ、ということにもなってくる。
そのことを忘れていた楓は、ハッとした表情を浮かべた。
「確かに、その通りですね……すっかり忘れていました」
「こちらから経営に詳しい人を紹介しようとも思っていたのだけれど、オルダナが見てくれるなら、これ以上にありがたいことはないわ」
「でも、オルダナさんにもお仕事がありますよね?」
「俺は構わないぜ! なんなら、嬢ちゃんの従魔具があるなら、経営の方に集中してもいいかもな! 冗談だがな! がはははは!」
楓としては笑えない冗談だったこともあり、苦笑いを浮かべることしかできない。
「おっと、すまねえな! だがまあ、一緒にやりたいと思っているのは本当だぜ?」
自分でも笑えない冗談だったと分かったのか、オルダナは謝罪しながらも楓と一緒に仕事をしたいという気持ちについて語り出した。
「ここ最近の職人たちは、自分の利益のことしか頭になかったからな。正直、嫌気がさしていたんだ。俺のところに弟子入りしたいと言ってくる奴もいたが、そのほとんどが商業ギルドと直接契約を結んでいる俺を宣伝に使いたいって奴ばかりだったんだ」
「実はそのことで、オルダナからも相談を受けていたのよ。そこへやってきたのが、カエデさんだったというわけね」
「嬢ちゃんは俺と同じ想いを抱いていやがる! それなら、一緒に仕事をするべきだと思ってな! ……もちろん、俺にも打算はあるがな」
最後の方は申し訳なさそうに口にしたオルダナ。
楓もオルダナが口にした打算が何なのか、見当がついていた。
「オルダナさんが弟子を取ったと、思わせるんですね?」
「そういうことだ。そうなれば、今までよりは弟子にしてほしいなんて言ってくる奴は減るはずなんだ……」
セリシャとオルダナが提案してくれたのは、共同経営をしよう、というものだ。
楓にとってはこれ以上ありがたいことはないのだが、それが自分だけにプラスになっていることが、正直なところ引け目に感じていた。
しかし、オルダナが自分のためにもなると口にしてくれたことで、楓の引け目に感じていた気持ちは和らいでいた。
(もしかしたら、オルダナさんも私のことを考えて、さっきのことを教えてくれたのかな)
もしそうであれば、楓は本当に出会う人に恵まれていると思えてならない。
異世界の召喚されてから今日まで、多くの人に助けられてきた。
そして今もまた、オルダナに助けられようとしている。
(……ここまでしてくれたんだから、その期待に応えたい!)
気持ちを入れ直した楓は、気合いのこもった表情でオルダナへ視線を向ける。
「よろしくお願いします、オルダナさん! 私と一緒に、従魔具店をやってください!」
「おうよ! 任せな!」
「ありがとうございます! 目指すは従魔ファーストなお店です!」
「「……従魔、ファースト?」」
従魔ファーストという言葉を初めて聞いたセリシャとオルダナから、疑問の声が聞こえてきた。
「従魔のことが何より最優先されるお店のことです! 人間ではなく、従魔を優先する! そんなお店を造りたいんです!」
「ファースト……一番……なるほど。従魔を一番に考えるお店というわけね」
「面白いじゃないか! いいぜ、従魔ファーストな従魔具店、造ってやろうじゃないか!」
志を同じくする仲間と出会えるなんて、楓は考えてもいなかった。
そして、自分の思いに応えてくれる人がいることも、予想していなかった。
「セリシャ様! オルダナさん! 本当にありがとうございます!」
最初はオルダナに従魔具職人としての心構えを教えてもらうためにやってきたのだが、気づけば従魔具店を共同経営しようという話になっていた。
あまりの展開に驚きの連続ではあったが、楓としては嬉しい展開でもある。
(こんなに全てが上手くいっていいのかな! もしかすると、神様が私のことを見てくれているのかな!)
そんなことを考えながら、楓は笑顔で二人のことを見つめていたのだった。




