第61話:賞賛と指摘
「早速だが、嬢ちゃんが作った従魔具を見せてくれるか?」
オルダナはすぐに、楓の従魔具を見てみると口にした。
「私は嬉しいんですけど、お店はいいんですか?」
「客がいるように見えるか?」
やや自虐気味なオルダナの発言に、楓は苦笑いを浮かべることしかできない。
「がはははは! 冗談だ! まあ、今はこんな状態だからな、問題ないさ!」
「そ、それじゃあ……既製品として販売する予定なんですが、こちらです」
オルダナに遠慮していた楓だったが、彼が問題ないということで、午前中に作った既製品の足輪を鞄から取り出し、そのまま手渡す。
「既製品? これがか?」
「な、何か問題がありましたか?」
怪訝な表情でそう口にしたオルダナを見て、楓は緊張しながらそう問い掛けた。
「問題? んなわけないだろう!」
「……え? そ、そうなんですか?」
「この仕上がりで既製品って、そこら辺の従魔具職人よりも間違いなく、腕はいいじゃねえか!」
楓としては予想外の答えだったが、その隣に立っていたセリシャは満足気に頷いている。
「カエデさんは、自分が作った従魔具にもっと自信を持つべきよ」
「もしかして、セリシャ様もこうなるって分かっていたんですか?」
「私は職人ではないけれど、それなりに従魔具を見てきているわ。その中でも、カエデさんが作る従魔具は間違いなく上位に入るわ」
「どうやらこいつは、マジで従魔具への指摘は必要なさそうだな」
セリシャの言葉を聞いた楓はまだ信じられない気持ちだったが、続けて口を開いたオルダナの発言を聞き、ようやく少しだけ自信が持てるようになっていた。
「嬢ちゃんのスキルレベルは相当高いんだな」
従魔具を見ながらそう口にしたオルダナ。
その言葉を聞いた楓はドキッと体を震わせ、横目でセリシャを見る。
何故なら楓のスキルは最高レベルである〈従魔具職人EX〉だ。
セリシャの話では、スキルレベルEXが登場したのは歴史上でも数例ほどで、これはすなわちおいそれと教えていい情報ではない。
教えを乞う立場なので伝えてもいいかと考えた楓だったが、自分の判断だけで伝えていいのか分からず、セリシャに確認を求めたのだ。
「カエデさんが良ければ、オルダナになら伝えてもいいと思うわ」
するとセリシャからは、そんな言葉が返ってきた。
「本当ですか!」
「えぇ、もちろんよ」
「ん? なんだ、なんの話だ?」
話の流れが読めないオルダナが首を傾げていると、楓は真剣な面持ちでスキルレベルについて語り始める。
「私のスキルレベルは、EX。スキル〈従魔具職人EX〉なんです」
「EXだあ? …………なんだそりゃ?」
緊張した様子でスキルレベルを伝えた楓だったが、オルダナはさらに首を傾げながらそう口にした。
「まあ、そう言う反応になるわよね」
「え? そうなんですか?」
「歴史上で数例しか出てこないスキルレベルEX。そのことを理解している人は、そう多くないわ」
「……そ、そうだったんですね」
「いや、おい。だから、俺にも分かるように話してくれねぇか?」
それからセリシャは、スキルレベルEXについての説明をオルダナへ行った。
「……おいおい、マジか?」
「マジです」
驚愕の表情でオルダナが問い掛けると、楓も似たような表情で答えた。
「……がはははは! すげえじゃねぇか!」
「そ、そうですか?」
「おうよ! EXなんざ聞いたこともねぇが、それでもスキルに溺れることなく学ぼうとしているなんざ、すげえ以外に言うことがねえよ!」
「あ、ありがとう――ごじゃ!?」
豪快に笑ったオルダナは、楓の背中をバンと叩く。
「ちょっと、オルダナ! カエデさんは女性なのよ!」
「おっと! 悪い、大丈夫か?」
「あ、あはは……だ、大丈夫です」
セリシャが大声で指摘すると、オルダナは慌てた様子で声を掛け、楓は苦笑しながら答えた。
「全く。……それで、オルダナならカエデさんをどうやって育てるのかしら?」
ため息を吐きながらセリシャが問い掛けると、オルダナはニヤリと笑いながら口を開く。
「んなもん、これだけの従魔具を作るなら一つしかねえ!」
「そ、それはいったい?」
「売りっぱなしにするな! それだけだ!」
オルダナの発言は、楓がハオの従魔具を見て感じたこと、そのままだった。
「嬢ちゃんは言ったな? 従魔具を作っていく中で、作るだけじゃダメだって。それが分かっているなら、従魔具職人としての心構えも十分だ!」
「で、でも……」
「既製品まで作り始めているってことは、店を持つつもりでもあるんだろう?」
「……はい」
「なら、そのあたりのことを学んだ方がいいんじゃないか?」
そう口にしたオルダナは、その視線を楓からセリシャへ向ける。
「オルダナも、カエデさんなら大丈夫だと思う?」
「俺もってことは、セリシャ様も思っていたってことだろう?」
「えぇ、そうよ。ただ、どうしてもカエデさんが自信を持てないようだったから、あなたを紹介したの」
「……そうだったんですか、セリシャ様?」
セリシャの本音を聞いた楓は、驚きのままセリシャを見た。
「もちろん、オルダナが見て足りないものがあれば指導してもらうつもりだったけどね」
「んなもんねえよ! なんなら、俺よりすげえんじゃねぇか?」
「そ、それは絶対にないですよ!」
楽しそうにオルダナが告げると、楓は大慌てで首をぶんぶんと左右に振った。
「がはははは! そこまで否定できるなら、絶対に大丈夫だ! なんなら、俺が嬢ちゃんの店をサポートしてやろうか?」
「あら、それはいいわね。商業ギルドとしても管理するお店が一つにまとまってくれるのは嬉しいのだけれど?」
「いいねえ! どうだ、嬢ちゃん!」
「……へ? あの……え?」
セリシャとオルダナの話についていけない楓は、困惑顔のまま首を傾げることしかできなかった。




