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異世界従魔具店へようこそ!〜私の外れスキルはモフモフと共にあり〜  作者: 渡琉兎


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第6話:初めての食事

「一度休憩にしましょうか」


 街道を進んでいると、ティアナからそんな提案が口にされた。


「え? ……私は、大丈夫、ですよ?」

「いやいや。全然大丈夫に見えないからね?」


 大丈夫だと口にした楓だったが、その姿は明らかに大丈夫ではなかった。

 肩で息をしており、大粒の汗を流し、立ち止まるたびに両手を膝に置いていたのだ。


「うぅぅ。実は私、運動が苦手でして、体力もあまり……」

「分かったから。無理だけはしないでね?」

「はいぃぃ~」


 今にも泣きだしそうにしながら、楓はティアナが勧めてくれた切り株に腰掛ける。

 そして、先ほどハイグァナの舌を入れた袋から、水筒を取り出して楓に手渡した。


「お水が入っているから、飲んでいいよ」

「……でもこれ、魔獣の舌と一緒に入っていませんでしたか?」


 恐る恐るといった感じで受け取った楓に、ティアナは苦笑しながら教えてくれる。


「違う、違う! これも魔導具なの! 魔法鞄!」

「ま、魔法鞄! もしかして、見た目以上の容量が入るという、あの魔法鞄ですか!!」


 先ほどまで明らかに疲れた様子だった楓だが、魔法鞄と聞いた途端ハイテンションになり、ティアナへ詰め寄っていく。


「ど、どの魔法鞄のことを言っているのかは分からないけど、使い方はあってるかな」

「すごいですね! へぇー、これが魔法鞄かー!」

「……槍よりも、魔法鞄に興味があるのね」


 なんだか呆れられたように聞こえたが、楓からすれば当然のことだ。

 自分は運動音痴であり、戦うなんてことは絶対にできないと自負している。

 だからこそ同じ魔導具でも、武器よりも魔法鞄の方に興味が湧いてしまったのだ。


「こういうのって、お高いんですよね?」

「そりゃそうよ。私のはダンジョンで見つけたものだからタダだけど、売ったら一生遊んで暮らせるだけのお金が手に入ると思うわ」

「ほえー! そんなに!」


 異世界系の作品では憧れの的になることも多い魔法鞄。

 そんな魔法鞄をまじまじと見つめていたからか、ティアナからこう言われてしまう。


「……お水、飲んだ方がいいわよ?」

「はっ! そ、そうでしたね! あは、あはは~」


 我に返ったからか、再びドッと疲れが押し寄せてきた楓。

 水筒の蓋を開け、一気に口の中へ流し込む。


「……ん……ん……ぷはーっ! …………あぁ、生き返ります」

「うふふ。ここまで気持ちのいい飲みっぷりは、なかなかいないわね」


 ティアナに笑われてしまい、楓は少しだけ恥ずかしくなってしまう。


「それと、これも噛んでいた方がいいわよ」

「これはなんですか、ティアナさん?」


 木の皮のような、やや硬めの弾力があるものを手渡された楓が確認を取る。


「冒険者には必須の、携帯食よ」

「け、けけけけ、携帯食!」

「……そうだけど、どうしたの?」


 楓の中での携帯食の評価は、不味い、硬い、臭い、というものだ。

 もちろん、食べての評価ではなく、異世界系の作品からの勝手な評価だ。

 それでも手渡された携帯食を持ってみた感想も似たようなものだったので、きっと間違ってはいないのだろう。


「……とはいえ、興味はありまくり! いざ、実食!」

「ど、どうぞ」


 気合いを入れた楓が携帯食にかぶりつく。

 ……モグモグ……モグモグ……モニュモニュ……グ、ググググ。


「…………かふぁい、ふぇすねぇ」

「な、なんですって?」

「……んぐっ! 硬いですねぇ」


 何を言っているのか理解できなかったティアナに問い返され、楓はなんとか携帯食の噛み切り、呑み込んでから改めて感想を口にした。


「まあ、携帯食なんて、こんなもんよ!」


 食べ慣れているのか、ティアナは器用に携帯食を噛み切りながら答えてくれた。


「うぅぅ。食材と調理道具があれば、簡単にでも何か作れると思うんだけどなぁ」


 悲しそうにそう呟きながら、楓は携帯食を噛んでいく。


「カエデって、料理ができるの?」

「まあ、簡単なものですけど」

「……ちょっと待っててくれるかしら!」

「え? あ、はい」


 何やら思案顔を浮かべたティアナだったが、すぐに休憩場所から勢いよく離れていく。

 どうしたのかと首を傾げながら見送った楓は、誰もいない景色をゆっくりと眺める。


「……ここ、異世界なんだなぁ」


 休憩場所はやや高台になっており、拓けている。

 テレビの中でしか見たことのなかった大自然が、目の前に広がっている。

 あまりにものどか過ぎて、ここが本当に異世界なのかと疑いたくなることもあるが、携帯食の味が、ここは間違いなく異世界なのだと教えてくれる。


(……あぁ。本当に不味いんだなぁ)


 そんな感想を抱きつつティアナを待っていると、ものすごい勢いで彼女が戻ってくる姿が確認できた。


「おかえりなさい、ティアナさん。いったいどこに――」

「これで何か作ってくれないかしら!」


 ――ドンッ!


 ティアナはそう口にしながら、魔法鞄から巨大な肉の塊を取り出した。


「……えっと、これはどこから?」

「魔獣を狩ってきたわ! くっ、カエデが料理を作れるって知っていたら、ハイグァナのお肉も取っておいたのに!」


 どうやらこちらの世界でも、冒険者の食事事情は問題らしい。


「でも、調理器具が――」

「あるわ! こんな時のために持ち歩いていたのよ!」


 包丁やフライパンといった調理器具が出てくると、楓は感心したようにそれらを見る。


「ほほう。……ちなみに、調味料は?」

「す、少しなら」

「やりましょう! いいえ、やらせてください!」


 携帯食で満足できるはずもなく、楓は腕まくりをしながらそう答えた。

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