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異世界従魔具店へようこそ!〜私の外れスキルはモフモフと共にあり〜  作者: 渡琉兎


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第58話:従魔具のメンテナンス

 セリシャの部屋に戻った楓たち。

 エリンがやってくるまでの間、セリシャはメンテナンス代のレクチャーを楓へ行うことにした。


「メンテナンスに関しては、基本的に従魔具に使われてる材料に合わせた金額になるわ」

「材料に合わせるんですか?」

「込められる魔力量は使われている材料によって異なるわ。ということは、従魔具職人の技術が込められる部分にもなるわ」

「だから、魔力量によって金額が変わるってことですね?」

「そういうことよ」


 納得顔で楓が頷くと、満足気にセリシャも返す。


「性能的には破格なハオの従魔具だけれど、使われている材料は高価なものではないから、そもそものメンテナンス代もそこまで高くはならないわ」

「そうだったんですね。……でも、社員割はきちんと適用してくださいね? 絶対ですよ!」

「うふふ。分かっているわ」


 楓が念を押してきたことで、セリシャは思わず笑いながら答えた。


 ――コンコンコン。


「入ってちょうだい」


 そうしていると、エリンが部屋にやってきた。


「お待たせいたしました」

「ピュロロー!」


 エリンの肩にはハオが乗っており、彼女に続いてハオが鳴くと、楓とセリシャは笑みを浮かべる。


「とんでもありません! 私が急にお願いしたことですから!」

「全員揃ったことですし、話を進めていきましょうか」


 それから楓たちは、従魔具のメンテナンスについての話し合いを始めた。

 とはいえ、楓は基本的に話を聞いて学ぶ側で、セリシャが主に話を進めていく。


「今回の従魔具は、基本的な材料で作られているわ。だから、そこまでメンテナンス代も高くないの。本来の金額は、1万(ゴールド)が妥当ね。そこから社員割を適用するとなると……7000Gくらいかしらね」

「ほうほう。社員割は、大体三割引きくらいなんですね」


 簡単な計算だったからか、楓は何度も頷きながら話を聞いている。


「まあ、今回はカエデさんの練習も含めているから、割引率も多めに算出しているわ」

「そうなんですか?」

「普通は二割くらいが妥当よ?」

「二割でも相当大きい割引ですけどね」


 楓の質問にセリシャが答えると、割引をしてもらっているエリンは苦笑しながら口にした。


「確かに、二割引きでも大きいですよね」

「特に従魔に掛ける金額って、親が子供を持つのと同じようなものと思っているから、結構お金も掛かっちゃいますし、ほんっっとうに大きいです!」


 だいぶ心のこもった言葉がエリンから飛び出し、楓とセリシャは思わず苦笑いを浮かべた。


「それじゃあ、エリン。この金額で大丈夫かしら?」

「はい! よろしくお願いします、カエデ様!」

「分かりました! ……それとですね、エリンさん?」

「なんでしょうか?」


 やる気満々な返事をした楓だったが、直後には申し訳なさそうにエリンへ声を掛けた。

 するとエリンは何事だろうと首を傾げ、困惑顔で楓を見る。


「私のことは、楓でいいですよ? その、様付けって、なんだか慣れなくって」

「そうなんですか? ……それじゃあ、私もカエデさんにしようかな?」

「それでもいいです! お願いします!」


 気恥ずかしそうに楓がそう口にすると、エリンは営業スマイルではなく、本来の彼女の笑顔で楓に応える。


「うふふ。分かりました。それじゃあ改めて。お願いします、カエデさん!」

「はい!」


 それからエリンは、ハオの従魔具を取り外すと、そのまま楓に手渡した。

 楓はすぐに〈従魔具職人EX〉を発動させて、ハオの従魔具の状態を確認していく。


(表面の傷は、見えている部分そのままだね。中身の方は……あれ? 中身は問題なさそうだけど、どうなんだろう?)


 表面の傷に比べて、中身の方は奇麗なままで、楓は手を加えてもいいのか、あえてそのままにするべきなのか、考えてしまう。


「どうかしたの?」


 そこへセリシャが声を掛けてくれたので、楓は自分だけで考えることはせず、素直に分からないことを聞くことにした。


「表面の傷は、見えている部分を直せば問題なさそうです。ただ、中身の方が……」

「え! もしかして、何か問題があったの!?」

「ち、違います、エリンさん! 中身の方は奇麗すぎて、私が手を加えなくても問題なさそうなんですよね」

「あら、そうだったの?」


 中身に問題がなかったからか、セリシャからも驚きの声が聞こえてきた。


「はい。なので、手を加えるべきか、あえてそのままにしておくべきか、分からなくて……」

「問題がないのであれば、手を加える必要はないわ。むしろ、手を加えて今の性能が損なわれる可能性もあるのだからね」

「そうですよね。でも……」


 そうなると、楓としては一つの疑問が浮かんできてしまう。


「……そうなると、代金をいただき過ぎになりませんか? だって、あの金額は中身の調整も含まれた金額ですよね?」


 楓の疑問に、セリシャも思案顔を浮かべる。


「カエデさんの言う通りね。だから今回は……3000Gでいいかもしれないわね」

「えぇっ!? い、いいんですか、ギルマス!!」


 驚きの声を上げたのは、エリンだった。

 彼女としては安くなる分には問題なく、むしろ嬉しいことだろう。

 しかし、商業ギルドの職員として、お金に関することはしっかりと確認したいという思いから、そんな声が飛び出していた。


「カエデさんのやることが一気に減ってしまったのだもの。当然のことだわ」

「よかったです。それじゃあ、エリンさん。3000Gで表面のお直し、これでよろしいですか?」

「……は、はい。よろしくお願い、します」


 あまりにも破格な金額に、エリンは驚きのまま答えていた。

 それから楓は〈従魔具職人EX〉を使って従魔具を直すと、そのままエリンへ返した。


「ピーヒョロロロロー!」


 従魔具を取り付けたハオは喜びの声を上げ、その瞳は奇麗になった従魔具に注がれていたのだった。

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