第56話:従魔たちの様子を確認
――その後、楓は足輪の大と小、そして腕輪の大、中、小もあっという間に作り上げてしまった。
「全く。カエデさんには何度、驚かされたらいいのかしら」
微笑みながらセリシャがそう言うと、楓は苦笑を浮かべて口を開く。
「私というよりかは、〈従魔具職人EX〉が規格外なんですよ」
「その規格外なスキルを持っているのがカエデさんなのだから、同じことだわ」
決して自分はすごくないと楓は口にするも、その意見をセリシャは笑いながら一蹴した。
「よーし! このまま量産していけば既製品として販売が――」
「ダメよ、カエデさん」
このまま作業を再開しようとした楓だったが、そこへセリシャから待ったが掛かった。
「……どうしてですか?」
「カリーナの時のこと、忘れてしまったのかしら?」
「うっ!?」
楓は以前、慣れない魔力を使い過ぎて気絶したことがある。
その時はセリシャだけではなく、カリーナの主であるボルトも顔を青ざめさせていた。
故に、セリシャは同じことは繰り返さないと心に誓い、楓が働き過ぎないよう目を光らせることにしたのだ。
「……で、でも、あの時は高価な材料も多くて、魔力消費も多かったんですよね? それなら、ここにある材料なら大丈夫――」
「質もそうですけど、数を作るにも魔力は多く消費します。カエデさんは短時間でこれだけの従魔具を作ったのですから、休憩も必要でしょう?」
セリシャの意見はもっともだ。そのことを楓も理解している。
日本にいた頃は、働き過ぎで倒れてしまうのではないかと思ったこともあった楓は、異世界での生活を安定させるために頑張ろうと思っていた気持ちが、僅かに空回りしてしまっていた。
「……そうですね。すみませんでした、セリシャ様」
「いいのよ。カエデさんは頑張っているもの。だけれど、頑張り過ぎもよくないものよ?」
「……はい」
それからセリシャはテーブルに出していた材料を一度魔法鞄に入れると、お茶を入れて楓の前に置いた。
「一息ついたら、少し外を散歩でもして来たらどうかしら?」
「え? でも、いいんですか? 営業時間内ですよね?」
「カエデさんは厳密には、商業ギルドの職員ではないもの。時間の使い方は自由よ。まあ、だからこそ私のやっていることは、おせっかいみたいなものなのだけれど」
楓を心配して口を挟んでいる自分のことをおせっかいだと表現し、セリシャは苦笑する。
「そんな! おせっかいじゃありません! 私、本当に助かっているんですよ!」
そんなセリシャに対して、楓はやや大きな声でそう口にした。
「……うふふ。ありがとう、カエデさん」
セリシャがお礼を伝えると、楓は満面の笑みを浮かべてからお茶を飲み干し、椅子から立ち上がる。
「よし! 少し散歩してきます!」
そう口にした楓は、セリシャへ会釈をしてから部屋を飛び出した。
「……あ。でも、散歩って言っても、どこに行こうかな?」
楓はまだまだバルフェムのことをあまり知らない。
散策するのもありだが、それでは時間が掛かり過ぎてしまう。
商業ギルドの職員ではないが、あまりセリシャを待たせ過ぎるのもダメだと思い、思案する。
「キギギ、キュキャッケケキョウキ!(それじゃあ、みんなに会いに行こうよ!)」
楓が思案顔を浮かべていると、ピースがそんなことを口にした。
「え? みんなって?」
「キキキュキュギャギュギ!(おいらのライバルたちさ!)」
「ライバルって……あぁ! ハオ君たちね! それ、いいかも!」
どうしてピースがハオたちをライバル視しているのかまでは分からないが、楓としては仲良くなってくれたのだろうという考えで、彼の提案を受けることにした。
「それじゃあ、従魔房に行ってみようか!」
「キュン(うん!)」
こうして楓は、商業ギルドの裏手にある従魔房へ足を進めた。
すると従魔たちは、楓が近づいて来ていることにすぐに気づき、従魔房が騒がしくなる。
「ガウガウ! キャンキャンキャン!」
「ピーヒョロロー! ピーピーヒョロロー!」
ラッシュとハオが元気よく鳴くと、他の従魔たちも鳴き始める。
「あはは。みんな、落ち着いて? そうじゃないと、お話しできないよ?」
「ギャン!?」
「ビビョ!?」
楓が苦笑いしながらそう口にすると、ラッシュとハオが変な声で鳴き、従魔たちは一斉に静かになった。
「……ありがとう。今日は、みんなとお話をしに来たんだ。前に渡した従魔具はどんな感じかな?」
楽しそうにそう口にした楓を見て、最初に目の前へやってきたのはラッシュだった。
楓がラッシュに触れると、彼は勢いよく語り出す。
「ガウガウ! ガウガガウガッウウ! ギャウ、ギャギャウギャー。ギャルルキー(最高だよ! どれだけ速く走っても壊れないんだ! でも、セリシャが忙しいのがなー。走る時間が作れないんだー)」
「うふふ。セリシャ様は忙しいもんね。でも、満足してくれているみたいでよかったよ」
ラッシュの次にやってきたのは、ハオだ。
「ピーヒョロー! ピピヒューヒョロロー!(俺も最高だぜ! 誰よりも速く飛べるからな!)」
「ハオ君も大丈夫そうだね。あれ? でも、従魔具が……」
ハオも大満足の感想だったが、楓の視線は彼の従魔具に注がれていた。
「……ボロボロだね」
「ピュピュー(使い過ぎたぜー)」
「そうなんだ……」
少し残念そうに鳴いたハオ。
その姿を見た楓は、従魔具を作るだけではダメなのではないか、そう思い始めていたのだった。




