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異世界従魔具店へようこそ!〜私の外れスキルはモフモフと共にあり〜  作者: 渡琉兎


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第52話:楓の選択

「独占をすれば、この留め方はカエデさんしか使えなくなるの。もし使いたいという従魔具職人がいれば、カエデさんに使用料を支払う必要が出てきて、あなたの儲けにもなるのよ?」

「なんとなく分かってはいるんですけど……でも、従魔のためを思うなら、多くの職人さんに使ってもらった方がいいですよね?」

「それはまあ、そうだけれど……」


 ここでセリシャも、楓が自分のことではなく、従魔のことを第一に考えて発言していることに気がついた。

 しかし、楓の発言には大きな落とし穴がある。


「……それでも、カエデさんが独占権を持つべきだわ。そして、多くの従魔具職人に使ってもらいたいなら、使用料を最低限に設定するべきね」

「ど、どうしてですか?」

「あなたのベルトを見た悪い従魔具職人、もしくは商会が、自分たちが最初に編み出したと独占権を主張すれば、他の職人だけではなく、カエデさんも同じ技術を使えなくなってしまうもの」


 セリシャの説明を受けて、楓はハッとした表情を浮かべる。


「……確かに、そう考える人もいるかもしれませんね」

「カエデさんが従魔のことを第一に考えているのは分かるわ。だけれど、そうじゃない人や商会も残念ながらいるの。そんな人たちから技術を守るのも、優秀な従魔具職人の使命なのよ?」

「……仰る通りだと思います」


 状況を理解した楓は、セリシャの言う通りベルトの留め方について特許を申請し、独占権を得ることにした。

 そして、使用料も提案通り最低限に設定する。

 楓としては無料でもいいと思っているが、そこはセリシャが許さなかった。


「素晴らしい技術を普及してくれる、それだけでも対価を得るべきだもの」

「うーん、私独自の技術ってわけじゃないんだけどなぁ……分かりました」


 楓は日本での知識を異世界で応用しただけで、自分が考えたわけではないと渋面になる。

 しかし、セリシャから見ればベルトに穴を複数開け、首のサイズに合わせて留める方法を見たのは楓の従魔具が初めてで、これが日本では定番だと知る由もない。

 ベルトを作った人には申し訳ないと思いつつ、楓は自分の出自を守ることを選択した。


「それじゃあ、カエデさん。話を戻すけれど、既製品を作ること、考えてくれないかしら?」


 既製品の話から、ベルトの留め方に話題が逸れてしまっていたため、セリシャは改めて楓に確認を取った。


「……それが本当に、従魔たちのためになるんですよね?」

「なるわ。そもそも、従魔がいるということは、その主がいるということでもあるの。商業ギルドの職員たちは、正直なところ他の職場よりも給料がいいと私は思っているわ。そんな彼らでも、オーダーメイドとなると及び腰になっていたでしょう?」

「はい」

「それだけ、オーダーメイドというのは高くついてしまうわ。主が懐具合を気にしながらオーダーメイドするよりも、気軽に買える素晴らしい既製品の方が、従魔にとっても、その主にとってもありがたい場合も、あると思わない?」


 セリシャの話はもっともだと、楓も思っていた。

 自分だって日本ではオーダーメイドをしたことがない、憧れだと思っていたのを思い出し、内心で小さくため息を吐く。


(……憧れが、私の我がままに繋がっていたんだな)


 そんなことを考えながら、楓は決断を下す。


「……分かりました! 既製品も作っていきたいと思います!」

「そう! それはよかったわ!」


 楓の選択を聞き、セリシャは嬉しそうに両手を叩く。

 そして、また新たな話題を楓に提案していく。


「既製品について決めてくれたからなのだけれど……カエデさん、お店を持ってみない?」

「へ? …………お、おおおお、お店ですかああああぁぁああぁぁっ!?」


 いつもと変わらない笑顔で提案してきたセリシャに対して、楓は一拍置いてから驚きの声を上げた。


「えぇ、そうよ。オーダーメイドだけでやっていくなら、私が窓口になってもいいかと思っていたのだけれど、やっぱりそれだけでは勿体ないと思っていたの。それで、既製品の提案をさせてもらったのよ?」

「……そ、そうだったんですか?」

「えぇ。既製品も取り扱ってくれるのであれば、お店を持つにふさわしいと思うのだけれど、どうかしら?」

「ど、どうと言われましても……」


 あまりに突然の展開に、楓の頭の中は爆発寸前になっていた。


「……ごめんなさいね、カエデさん」


 そんな楓を見てか、セリシャは苦笑しながらそう口にした。


「セリシャ様?」

「私が先走ってしまったようね。お店を持つという話は、ゆっくり考えてくれないかしら?」


 セリシャも自分が性急だったと反省し、楓に頭を下げながらそう口にした。


「あ、頭を上げてください! その、セリシャ様が私のことを考えてくれているのは十分理解していますから!」

「……ありがとう、カエデさん」


 顔を上げたセリシャは苦笑を返し、小さく息を吐く。


「ふぅ。……私の悪い癖が出てしまったわね」

「そんな……その、私、嬉しかったですから」


 それから楓とセリシャは、お互いに落ち着くためか世間話に花を咲かせ、この日の話し合いを切り上げた。

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