第51話:セリシャからの提案
楓がレクシアに従魔具をプレゼントした、二日後。
セリシャに呼び出された楓は、少しだけドキドキしながら彼女の部屋の前に立っていた。
(セリシャ様に呼び出されたということは、また誰かからの指名依頼かな? 緊張するな)
以前にセリシャから呼び出された時は、従魔都市バルフェムを治めている子爵のボルト・アマニールから、従魔である老ドラゴンのカリーナへ、新たな翼となる従魔具を作ってほしいという指名依頼を持ってきてくれた。
今回もそれに近い依頼があるのではないかと楓は考えていたのだ。
「すー……はー…………よし!」
深呼吸をして気合いを入れた楓は、意を決して扉をノックする。
――コンコンコン。
『――どうぞ』
「し、失礼します!」
緊張した声で楓が答え、扉を開く。
部屋の中にはセリシャがいたのだが、何故か彼女は苦笑を浮かべている。
「カエデさん。そんなに緊張しなくてもいいのよ?」
「……あ、あはは。すみません」
楓が緊張しているのが声で分かり、セリシャは開口一番でそう伝えた。
「もしかして、子爵様からの依頼と思ったの?」
「えっと、それに近い指名依頼なのかなって思ってました」
「そうなのね。安心してちょうだい、今回は違うから」
セリシャの言葉を受けて、楓は肩の力を抜いたのだが、ならば何故呼び出されたのかと首を傾げてしまう。
「とりあえず座ってちょうだい。お茶を用意するわね」
「あ、ありがとうございます」
言われた通りにソファへ腰掛けると、目の前のテーブルにお茶が用意される。
そして、セリシャが向かいのソファに腰掛けたところで本題に入った。
「今回カエデさんを呼んだのは、オーダーメイドだけではなく、既製品を作らないか、という提案をしたくて呼んだの」
「既製品、ですか?」
セリシャの提案に、楓は表情を曇らせる。
何故なら楓は、従魔のために、従魔の要望に応えた従魔具をオーダーメイドすることが大事だと考えていたからだ。
楓の考えはセリシャも知っているし、理解している。
そんなセリシャが既製品を作らないかと提案したのには、相応の理由があった。
「実は、カエデさんの従魔具職人としての腕が、広まりつつあるの」
「え? そ、そうなんですか?」
「商業ギルドの従魔たちに作った従魔具もそうだけれど、一番はやっぱり子爵様の従魔、カリーナに作った新たな翼が要因になっているわ」
老ドラゴンのカリーナの両翼は一年前、バルフェム近郊に現れたAランク魔獣を討伐した際に、失われてしまった。
長い間でカリーナの新たな両翼を作り出せる従魔具職人が現れなかった中、先日突然に新たな翼が与えられたのだ。
楓の存在自体は秘匿されたが、当然ボルトのもとには問い合わせが殺到した。
ボルトも楓のことを口にすることはなかったが、凄腕従魔具職人への窓口がセリシャになっていることは伝えられている。
そこで今度はセリシャに対して問い合わせが殺到している、というわけだった。
「カエデさんの考えには私も理解できます。従魔のことを考えれば、それが当然だもの。だけれど、全ての依頼を受けることはできないわ」
「ど、どうしてですか? 私、やれます!」
楓がやる気に満ちた声で答えると、セリシャは困ったような顔で口を開く。
「カエデさんのやる気は買うけれど、無理をして倒れてしまったらどうするの?」
「あ……そ、それは……」
楓はカリーナの従魔具を作り上げた時、魔力の使い過ぎで一度倒れてしまっている。
そのことをセリシャは心配しており、だからこそ既製品を作らないかと提案してきたのだ。
「既製品だから従魔のことを考えていない、というわけではないわ。既製品には既製品のいいところもあるのよ?」
「それは……はい。分かっています」
セリシャが自分のことを心配していると分かり、楓も神妙な面持ちで答えていく。
「それに、私はカエデさんならできると思ったから提案したの。誰にでも提案するわけではないのよ?」
するとここで、セリシャは楓は励ますためか、笑顔を浮かべてそう口にした。
「昨日、ティアナさんの従魔に首輪の従魔具をプレゼントしていたでしょう? あれはオーダーメイドだったのかしら?」
「ち、違います。サプライズしたくて、レクシアさんのことを思い浮かべながら、私が勝手に作りました」
「それであれだけのものを作れるのだもの。だからこそ、私はカエデさんに提案したのよ?」
セリシャがレクシアにプレゼントされた従魔具を見たのは、昨日だ。
ティアナが従魔登録のお礼をしに来た時にレクシアの首輪を見て、非常に驚いた。
それはレクシアの首を絞めつけるでもなく、緩すぎることもない、首輪を留める穴が複数ある作りに驚いたのだ。
「首輪を留める穴は、カエデさんが考えたの?」
「私というよりかは、ベルトってこういうものだよなって思いまして」
「そうなのね! その発想があるなら、既製品を作ってもきっと従魔たちは満足してくれるはずよ!」
楓からすれば当然の作りだったが、セリシャから見れば画期的なものだった。
何故ならセリシャが準備してくれた首輪は全て、大、中、小と大きさが決まっており、留める箇所が決まっているものだったからだ。
「でもこれ、誰にでも作れますよね? 私じゃなくてもいいんじゃないですか?」
「……え? 特許を取って独占しないの?」
「特許? 独占? ……え、しませんけど?」
「「…………え?」」
ここに至り、日本の常識と異世界の常識の齟齬が出始めた。
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