第50話:王城での会話③
◇◆◇◆
――楓がフェザリカの森でレクシアと出会ったその日。
場所は変わり、王城の一室ではアッシュと護衛騎士のケイルが、今後のことについて話し合っていた。
「ミチナガ、スズネ、アリスはどうしている?」
「本日も与えられた課題へ取り組んでいるようです」
「その課題は達成できそうか?」
「今しばらく時間が掛かるかと」
アッシュの質問にケイルが答えていくやり取りだが、その中でアッシュは小さく息を吐く。
「そうか。……母上は、持ちこたえられそうか?」
「侍医が見ているので、今のところは……ですが、そう長くは……」
「……ふぅ。さて、どうするか」
アッシュが勇者召喚を行ったのは、病で臥せっている、母親である王妃を助けるためだ。
病を治すには厳しい環境の中で育つ薬草が必要であり、そこには凶暴な魔獣の縄張りにもなっている。
故に、特別なスキルを持つとされる異世界の勇者を召喚し、助けてもらおうと考えた。
(母上には時間がない。しかし、こちらの都合で異世界から召喚したのだから、さらに都合を押し付けるわけにはいかない。ミチナガたちを鍛え、十分な実力をつけさせてから、薬草を取りに行くしかない)
しかし、それまで王妃が持ってくれるのか、それが問題だ。
王妃が持たなければ、勇者召喚をした意味もなくなってしまう。
(それに、過去に行われた勇者召喚について記されている書物には、勇者の中にはEXのスキルレベルを持つ者が現れると書かれていた。……どうして今回の勇者たちの中には、EXのスキルレベルを持った者がいないのだ?)
アッシュの悩みは、道長たちのスキルやそのレベルにも至っていた。
だが、このアッシュの知識には間違いが含まれている。
彼が読んだ書物には「三人の勇者」について記されていたのだが、これは絶対ではない。
実際には一人だったり、五人だったり、人数は勇者召喚を行ったその時々で違っていたのだ。
故に、彼は気づかなかった。
今回の勇者召喚は「四人の勇者」が正しかっただったことに。
「……まさか、一人で城を出て行ったカエデ・イヌヤマがEXスキルレベルだったのか?」
そう考えたことも、一度や二度ではない。
「ですか彼女のスキルは〈従魔具職人〉ですよ? 仮に〈従魔具職人〉がレベルEXだったとして、どのような力になれるというのですか?」
「……そこなんだ。強い従魔へ従魔具を与えられれば強力な戦力になるだろうが、そうでなければ……」
結局のところ、外れスキルと呼ばれている〈従魔具職人〉が二人の中で引っ掛かってしまい、楓がEXスキルレベル持ちだという考えには蓋がされてしまった。
「そういえば、バルフェムで面白い噂を耳にしました」
「聞こう」
するとここでケイルが噂話について口を開く。
「バルフェムを治めているボルト・アマニール子爵が契約している老ドラゴンに、新たな翼が与えられたそうです」
「ほほう? それは吉報ではないか!」
「はい。そして、その従魔具職人を紹介したのが、商業ギルドのギルドマスター、セリシャだとか」
「従魔都市と言われているバルフェムだ。やはり、凄腕の従魔具職人がいるということだな」
アッシュが満足気に頷くが、ケイルの表情はやや曇っている。
「……どうした? 何かあるのか?」
「……実は、老ドラゴンが両翼を失ったあと、しばらくの間で新たな翼は与えられなかったのです」
「従魔具を作る材料が足りていなかったのではないか? そして今回、材料が揃ったから与えられたのではないか?」
実際は楓が規格外な〈従魔具職人EX〉を使って、老ドラゴンのカリーナへ新たな翼を与えたのだが、アッシュにはその発想が浮かんでこなかった。
「……そうかもしれませんね。ですが、念のため追加で調査を行っていこうと思います」
「必要ないかとは思うが……分かった。その件はケイルに任せる」
「かしこまりました。それでは、報告は以上となります」
話し合いが終わると、アッシュは再び息を吐く。
「ふぅ。……願わくば、ミチナガたちの誰かがEXのスキルレベルに目覚めてくれれば、すぐにでも母上のために薬草を採りに行けるんだがな」
アッシュはそう呟くが、彼の願いが叶うことはない。
何故ならEXのスキルレベルは過去、同時期に現れたことはなく、EXスキルレベルを所持しているのは城を出て行った楓なのだから。
(……もしもミチナガたちがEXスキルレベルに目覚めなければ、その時は……その時は……)
そこまで考えたアッシュは、何もない天井を見つめながら、大きく息を吐き出すのだった。
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