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異世界従魔具店へようこそ!〜私の外れスキルはモフモフと共にあり〜  作者: 渡琉兎


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第5話:初めての魔獣

 王都を出てからしばらくは、順調に進むことができた。

 なんせ都市から都市へと移動する街道を進んでおり、それが王都へと繋がる街道であればなおさら安全だろう。

 とはいえ、何事にも絶対は存在しない。

 王都とバルフェムを繋ぐ街道も、中間を過ぎたあたりから徐々に荒れ始める。


「止まって」


 そして、街道を外れた茂みの方で何かが動く気配を感じたティアナは、真剣な面持ちでそう口にした。


「どうしたんですか?」

「あそこ、見えるかしら?」


 楓を守るように立ったティアナがそう口にしながら、茂みの方を指さす。

 目を凝らして茂みを見ていると、ガサガサと何かが動いているのが見えた。

 そして、茂みの中からトカゲのような顔がニョキッと出てきた。


「え? もしかしてあれが、魔獣ですか?」

「そうよ。っていうか、カエデって魔獣を見たことがないの?」

「えっと……実は、そうなんです。訳アリなもんで」


 笑いながら楓がそう口にすると、ティアナは苦笑いしながらも背負っていた長槍に手を伸ばす。

 そして、穂先を魔獣に向けながら腰を落とし、構えを取る。


(……なんだろう。ティアナさんが構えただけで、ものすごい迫力があるな)


 これが歴戦の冒険者が出せる風格だとは知らず、楓はそんなことを考えていた。


『フシュルル……フシャアアアアッ!』

「えぇっ!? あのトカゲ、でかあっ!!」


 ティアナの殺気に当てられた魔獣は、怒りの咆哮を上げながら飛び出してきた。

 その大きさは全長一メートル以上あり、楓とほぼ同じくらいとあって、思わず驚きの声を上げてしまう。


「すぅー…………ふっ!」


 そんな楓の声など聞こえていないか、ティアナは集中力を研ぎ澄まし、息を吸うと、その息を一気に吐き出しながら鋭い突きを放つ。


 ――ドンッ!


「……へ?」


 ティアナと魔獣との距離はまだ遠く、長槍とはいえまだまだ間合いの外だった。

 それにもかかわらず、放たれた突きによって魔獣の眉間には大きな穴が開き、そのまま動かなくなってしまった。


「……え? 何が起きたの?」

「ふふーん! どう? 私、強いでしょ?」


 驚きの声を漏らした楓に対して、ティアナはドヤ顔でそう口にした。


「私の腕前を見せておいた方が、カエデも安心するかなと思ってね。弱い魔獣だったけど、本気を出してみたんだ」


 続けての言葉はやや茶目っ気が入っており、ティアナは楓にウインクをしてみせた。


「……あ、ありがとうございます!」

「これから魔獣の討伐部位を回収するけど、ここで待ってる? 一応、近くに魔獣の気配はないから安全だと思うけど?」


 異世界系の作品でよくある、冒険者の収入源として確保されることが多い討伐部位。

 この世界で生きていくのであれば、そう言った日常にも慣れなければならないと思った楓は、首を横に振ってから口を開く。


「私も近くで見ていいですか?」

「いいけど、楽しいものじゃないよ? むしろ、グロいかも?」

「構いません!」

「そう? まあ、それならいいけど……」

「ありがとうございます!」


 どうしてそんなに嬉しそうなのか、ティアナにはそれが分からなかった。

 とはいえ、楓が見たいと言っているのだから、ティアナに断る理由はない。

 こうしてティアナは、楓が近くで見ている中、魔獣の討伐部位の確保を始める。


「こいつはハイグァナという魔獣よ。こいつの討伐部位は、長い舌ね」

「そうなんですね。耳とか鼻とか、そんな部分なのかと思っていました」

「二足歩行の魔獣とかだと、耳とか鼻が討伐部位に……って、なんで分かるの?」


 よくある異世界系の作品の知識を口にしたため、ティアナは作業をしながら質問してきた。


「えっとー……ほ、本で読んだことがあったような?」

「本~? ってことは、ティアナは文字の読み書きができるんだね!」

「そうですけど、普通はできないんですか?」

「平民で読み書きができる人は少ないかも」

「計算はどうなんですか?」

「お金のやり取りはあるから、簡単な計算ならって感じかな」


 ハイグァナの大きな口を左手で開き、右手にナイフを持ち、器用に長い舌を斬り落とす。

 そして、舌を腰に提げた袋に押し込むと、今度は両手で長槍を構える。


「え? 解体とかはしないんですか?」

「することもあるけど、ハイグァナの素材はありふれているからね。新人の子とかは確保するけど、私はしないかな」

「お肉は?」

「硬くて美味しくない。食糧がない時くらいにしか食べないわね」


 せっかくなら魔獣の解体も見学したかったと思っていた楓は、別の質問を口にする。


「でも、従魔はこういった魔獣を従えるって感じなんですよね?」

「そうね。まあ、ハイグァナは獰猛で人間に懐くとは思えないわ。何より、弱いし」

「そっかー」


 どこか残念そうな声を漏らした楓を見て、ティアナが思わず呟く。


「……カエデって、変わってるわね」

「え、そうですか?」

「普通、女性は魔獣に近づくことすらしないのに、討伐部位の確保や解体について聞いてくるんだもの」

「あはは。まあ、ちょっとだけ興味がありまして」


 頬を掻きながらそう口にした楓。

 ティアナも本気で追及するつもりはなかったのか、長槍の穂先をハイグァナの死体に押し付ける。すると――


 ――ゴウッ!


「えぇっ!? も、燃えた!!」


 ハイグァナの死体が急に燃え上がり、楓はここでも驚きの声を上げた。


「この槍は魔導具でもあるの。炎の魔法が宿っていて、魔獣の死体を処理するのに役立つんだー! ほら、魔獣の死体って放っておくと、他の魔獣を呼び寄せちゃうからさー」

「へぇー! 便利ですねー!」


 ティアナは冗談でそう口にしたつもりだった。

 しかし楓は本気で便利だと思い、納得顔で何度も頷く。

 その姿を見たティアナは最初こそ瞬きを繰り返していたが、すぐに大きな声で笑いだした。


「あはははは!」

「え? あの、どうしたんですか?」

「ううん、なんでもないけど……ふふふふ。カエデって、本当に変わってるね!」

「あー! ティアナさん、今のは絶対に貶してますよねー!」

「違うから、褒めてるから! ……ふふ、あはははは!」


 魔獣の死体が燃えていく前で大笑いしている女性二人。

 街道を歩いている人たちからは、奇妙に映ったに違いなかった。

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