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異世界従魔具店へようこそ!〜私の外れスキルはモフモフと共にあり〜  作者: 渡琉兎


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第49話:感謝と感謝と感謝

 翌朝、楓は起きてからすぐに商業ギルドではなく、冒険者ギルドへ向かった。

 目的はもちろん、出来上がった従魔具をティアナとレクシアに渡すためだ。

 とはいえ、すぐに見つかるかは分からない。見つからなければ商業ギルドへ向かい、セリシャと共に今後について話し合いをする仕事が待っている。


「ティアナさんは……うぅぅ、いないなぁ」


 冒険者ギルドに到着してからすぐにティアナを探したが、見つからない。

 レクシアと一緒であればざわめきがありそうだが、それもない。


「……朝も早いし、まだ休んでいるのかもしれないなぁ」


 そう考えた楓は、今すぐに従魔具を渡すのを諦めて商業ギルドへと向かう。

 やや俯き加減で歩いていると、突然ピースが楓の頬を軽く叩いてくる。


「キャン! キャンキ、キャキュゲ!(見て! 見てよ、カエデ!)」

「どうしたの、ピース?」


 前方を指さしながらそう口にしたピースを見て、視線の方へ目を向ける楓。


「カエデー!」

「えぇっ! ティアナさんに、レクシアさん!?」


 どうしてティアナたちが商業ギルドの方から姿を見せたのか、楓は困惑を隠せない。


「ど、どうして商業ギルドの方から?」

「いやー、実は昨日のお礼をもう一度伝えたくなってさ。商業ギルドに顔を出したんだけどいなくて……って、カエデの方こそ、どうして冒険者ギルドの方から?」

「えっと、実は私もティアナさんにお礼がしたくて、最初に冒険者ギルドへ……」


 楓がそこまで話をすると、お互いに同じことを考えていたのだと分かり、顔を見合わせながらクスリと笑う。


「……ふふ」

「どうやら、同じことを考えていたみたいね」

「ですね」


 それから二人と二匹は、仕事がある楓のために商業ギルドへ歩き出す。


「すみません、ティアナさん。また戻ることになってしまって」

「いいのよ。カエデにお礼を伝えたかっただけだし、今日は特に依頼を受けるつもりはないからね」

「そうなんですか?」


 楓が驚きながら問い掛けると、ティアナは微笑みながら隣を歩くレクシアを撫でる。


「今日は一日、レクシアにバルフェムを案内しようと思ってね」

「コンコン」

「そうなんですね! それ、とってもいいと思います!」


 ティアナの答えに楓は手を叩きながら感激した。


「そうかしら?」

「そうですよ! そうだ、その前にお渡ししたいものがあるんです!」

「渡したいもの?」


 少し恥ずかしそうにしていたティアナに対して、楓は渡すなら今しかないと声を上げた。

 ティアナとレクシアが首を傾げている中、楓は鞄から昨晩で作り上げた従魔具を取り出す。


「これです、ティアナさん!」

「え? これって、もしかして従魔具?」


 従魔具を受け取ったティアナは、驚いた様子で問い掛けた。


「はい。本当ならオーダーメイドで、レクシアさんの要望を聞いてから作るべきなんでしょうけど、サプライズがしたくて……それで、セリシャ様が用意してくれた、従魔だと分かる首輪をつけていたと思うんですけど、その代わりになればって思いまして……」


 気に入ってもらえるかどうか、ティアナの様子を見ながら説明する楓。


「……すごく、嬉しい。すごく嬉しいよ、カエデ!」

「ほ、本当ですか?」

「本当よ! どうかしら、レクシア? これ、つけてみない?」


 興奮しきりのティアナは、楓が作ってくれた従魔具をレクシアに見せて声を掛けた。

 するとレクシアはじーっと従魔具を見つめたあと、背筋を伸ばして首を露わにする。


「……これは、つけてもいいってことですかね?」

「そうだと思うけど……カエデが触れて聞いてみたらいいんじゃないの?」

「はっ! た、確かにそうですね!」


 ティアナに指摘された楓は、大慌てでレクシアに触れて確認を取る。


「首輪を変えてもいいですか?」

「ココンコン、コンキュル(気に入ったわ、もちろんよ)」

「あ、ありがとうございます! それじゃあティアナさん、お願いします!」


 レクシアの許可が取れたことで、付け替えはティアナに任せる。

 するとティアナは慣れない手つきで首輪を外し、続けて楓から貰った従魔具を取り付ける。

 橙色と乳白色の体毛に対して、ワンポイントになる光沢を放つ黒狼岩の黒色が、レクシアの美しさを際立たせてくれる。


「とっても似合ってるわよ、レクシア!」

「ココココ。コンコン(うふふ。ありがとう)」

「気に入ってくれてよかったです。ティアナさん、レクシアさん!」


 ティアナとレクシアのやり取りを見ながら、楓は嬉しそうにそう呟く。


「うふふ。こう見ると、やっぱりカエデがお姉さんだよね」


 するとティアナが、そんなことを口にした。


「え? そ、そうですか?」

「周りへの気遣いができる、優しいお姉さん」

「だといいんですけど、もし私がお姉ちゃんなら、おっちょこちょいであわてんぼうなお姉ちゃんになっちゃうかな~」

「ギギギュッギュギュ!(確かにそうかもね!)」

「ちょっと、ピース!?」


 苦笑いしながら楓が口にした言葉に、ピースが同意を示した。

 すぐに楓がツッコミを入れたのだが、ピースが何を言ったのか分かったのか、ティアナとレクシアは笑っている。


「まあまあ、カエデ。それよりも、この従魔具、本当にありがとう! とっても嬉しいよ!」


 大慌てな楓に声を掛けたティアナが、感謝の言葉を口にした。


「私の方こそ本当に感謝しています! それと……これからも、仲良くしてくれると、嬉しいです!」


 楓も感謝の気持ちを伝えると、続けてこれからも仲良くしてほしいと伝えた。


「もちろんよ! ねえ、レクシア!」


 ティアナの言葉に対して、レクシアは楓に体を寄せて、口を開く。


「コンコンココン、ココン。クククルコンコン(本当にありがとう、カエデ。これからもよろしくね)」


 レクシアも楓に感謝を伝えたかった。だから体を寄せたのだ。


「レクシアさん……はい! よろしくお願いします!」


 みんなが感謝を伝えたことで、それぞれの心が温かくなる。


「キュキュキキキュッキュキキ! キュキュキュン、キャキュゲ!(おいらだってカエデに感謝しているからね! ありがとう、カエデ!)」

「うふふ。ピースもありがとう」


 それから楓とピースは商業ギルドへ、ティアナとレクシアはバルフェムの街へ姿を消していった。


(よかった。本当によかった! 今度はティアナさんに許可を貰って、レクシアさんにオーダーメイドで従魔具を作ってみたいな!)


 そんなことを考えながら、楓は今日も駆け出しの従魔具職人として励むのだった。

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