第47話:念願の従魔
楓たちは炎弧を伴いバルフェムに戻ってきた。
当然だが、門番は驚愕し、炎弧とピースの間で視線を何度も往復させていた。
通りを歩いていても注目の的で、楓は顔を上げて歩くことができなくなっていた。
「あの、ティアナさん。従魔契約は商業ギルドで行うんですか?」
無言のまま俯いて歩いているのも辛くなってきた楓は、ティアナに声を掛けた。
「従魔契約自体は冒険者ギルドでもできるけど……カエデのことが心配だし、セリシャ様にお願いしようかしら?」
ティアナの言葉に顔を上げた楓。
するとティアナは既に楓に方へ顔を向けており、目が合うとニコリと笑った。
「……ティ、ティアナさ~ん!」
「こんなことで泣かないのー」
「だって~!」
頼りになる年下のティアナにもたれかかりながら、楓たちは商業ギルドに到着した。
「あ! カエデ様に、ティアナ様も! 本日もギルマスにご用…………ええええぇぇっ!?」
商業ギルドに入ると同時にエリンが声を掛けてくれた。
しかし今回もエリンは炎弧を見た途端、驚きの声を上げてしまった。
「そのご用がセリシャ様にあるんだけど、確認してもらえるかしら?」
「その必要はないわ」
苦笑しながらティアナがエリンに声を掛けたのだが、二階の方からセリシャの声が聞こえ、楓たちはそちらへ視線を向けた。
「セリシャ様!」
「おかえりなさい、カエデさん。ティアナさんもこっちに上がっていらっしゃい」
そう口にしたセリシャが部屋の方へ歩き出したので、楓とティアナはエリンに会釈をしてから二階へ向かう。
そのままセリシャの部屋へ向かい、中に入ると既にお茶が用意されていた。
「全く。ハピリスに続いて、今度は炎弧? 本当に規格外なのね、カエデさんは」
「いえいえ! 今回は私じゃなくてティアナさんなんですよ、ティアナさん!」
「あら、そうなの?」
商業ギルドにやってきたからか、セリシャは今回の楓が何かをしたのだと思い込んでいた。
「カエデが心配だったから、こっちに来たんですよ。お手間取らせちゃいますけど、従魔登録をお願いできませんか?」
「わ、私からもお願いします、セリシャ様!」
商業ギルドに来た理由をティアナが説明すると、続けて楓からもお願いの声が上がった。
「カエデさんのためなら、仕方がないわね」
「いくらになりますか?」
「通常価格で構わないわ」
「え? ……もしかして、従魔登録ってお金が掛かるんですか!?」
セリシャとティアナのやり取りを聞きながら、楓は驚きの声を上げた。
「そうよ。まあ、カエデの場合はあなたとピース、両方を守るためだったからセリシャ様も要求しなかったんじゃないかな?」
「その通りよ。そもそも、カエデさんは商業ギルドのVIPみたいになっているもの。お金なんか取らないわ」
「ダ、ダメですよ! おいくらなんですか? お支払いしますから!」
いらないと口にしているセリシャだが、楓は支払いたいと何度も申し出る。
「そういうことなら、次の従魔具作成の時に発生する報酬から、従魔登録分を引いておくわ。それでいいでしょう?」
「うぅぅ……そ、そういうことなら…………あの、絶対に引いてくださいね?」
引いたと思わせて実は引いていない、なんてことがないようにと念を押す楓。
そんな楓を見て、セリシャは苦笑しながら口を開く。
「安心してちょうだい。きちんと引いて、明細も確認させるから」
「……分かりました」
楓の件が片付くと、ついにティアナと炎弧の従魔契約が行われる。
今回の従魔契約は、楓とピースに行われたものと同じ、契約魔法を用いた従魔契約だ。
「いいんですか、セリシャ様?」
「炎弧もハピリスと同じで珍しい魔獣だもの。これくらいしないと、あとから大変になるのはティアナさんよ?」
「……ありがとうございます」
ティアナはセリシャに感謝を伝えると、セリシャは微笑みながら準備を再開させる。
従魔契約の準備が終わると、ティアナが魔法陣の右、炎弧が左の円に手を置いて、魔力を込め始めた。
金色の光が放たれ、それが大きく弾けると、従魔契約が完了した。
「何度見ても奇麗な光ですね」
楓が感想を口にすると、その視線はティアナと炎弧へ向けられる。
「ティアナさん! 炎弧さんの名前は何にするんですか?」
「名前……そうか、名前かぁー」
楓の問い掛けに、ティアナは腕組みしながら考え始める。
「うーん……ちなみに、炎弧って名前があるのかどうか、聞いてみることってできる?」
そうティアナが口にすると、楓は炎弧に確認を取り、体に触れてから問い掛ける。
「炎弧さんって、名前はありますか?」
「ギャン。ココ、ココンコンココン(ないわ。だから、ティアナに決めてもらいたいの)」
「ないから、ティアナさんに決めてほしいそうですよ?」
楓が炎弧の言葉をティアナに伝えると、彼女はさらに思案顔を濃くした。
「そっかー! うーん、どうしようかなー……」
ティアナは腕組みをし、さらに体を傾けながら考え始めた。
しばらくして、ティアナはおもむろに思いついた名前を口にする。
「…………レクシア」
ティアナの呟きを耳にした炎弧は、小さく鳴く。
「ココン……コンクルル(レクシア……いい名前ね)」
「ティアナさん。気に入ったみたいですよ」
「ほ、本当? ……そっか。これからよろしくね、レクシア」
ティアナがホッとした表情で声を掛けると、レクシアは楓から離れ、ティアナの足に顔を擦りつけることで、彼女の言葉に応えて見せたのだった。




