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異世界従魔具店へようこそ!〜私の外れスキルはモフモフと共にあり〜  作者: 渡琉兎


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第46話:帰り際に出会ったのは

「……ティアナさん。本当にごめんなさい」


 楓が落ち着きを取り戻したあと、彼女たちはフェザリカの森をあとにすることを決めた。

 日も高く、まだまだ活動できる時間帯ではあったが、楓の状態を心配してのことだ。

 楓は目的を果たせていないと声を上げたが、それをティアナ本人が拒否した結果でもある。


「いいのよ。従魔探しはいつでもできるし、何よりカエデのことが心配だもの」

「でも、ティアナさんは従魔具の材料を集めてくれたのに、私だけ何もできてないし、むしろ足手まといになっちゃって……」

「カエデが無事ならそれでいいの」

「……ありがとうございます」


 ティアナの優しさに、楓はまた泣き出しそうになってしまう。


「キキ?(大丈夫?)」


 そんな楓の頬に自らの頬を寄せながら、ピースが心配の声を掛けた。


「……うん。ピースもありがとう」


 楓はピースにお礼を告げながら、自分は周りに助けられてばかりだと思い返す。

 召喚されてからすぐに、レイスとミリアに助けられ、王城を出てからはティアナとセリシャにおんぶに抱っこだ。

 ピースと従魔契約できてからは、彼にも元気を与えてもらっている。


(……私も、みんなに恩返しができるように頑張らなきゃな)


 そんなことを考えていると、前を歩いていたティアナが突然、立ち止まる。


「止まって」

「ど、どうしたんですか?」

「……ギュルル(……何かいる)」

「え?」


 ティアナだけではなく、ピースまで警戒をして唸り声を上げた。

 楓の体に力が入る。


 ――ガサガサ。


 前方の茂みが微かに揺れた。

 背中の槍に手を伸ばすティアナ。

 ピースも楓を守るため、魔法発動の準備を始める。


『……コン!』

「「……え?」」

「キュンキキャ!(炎弧(えんこ)だ!)」


 茂みから顔を覗かせた魔獣が鳴くと、楓とティアナは驚きの声を漏らす。

 しかしピースだけは魔獣の正体が分かっているのか、その名前を口にした。


「え、炎弧?」

「炎弧ですって!?」


 すると今度は、炎弧という名前を聞いたティアナが驚きの声を上げた。


「知っているんですか、ティアナさん?」

「あ、あぁ。炎弧ってのは、魔法が使える珍しい魔獣なの。ほら、額のたてがみみたいなのが燃えているでしょ?」


 ティアナの言葉を受けて、楓は改めて炎弧に目を向ける。


「……本当だ、燃えてる。でも、茂みには燃え移っていませんね?」

「それだけ魔力操作に長けた魔獣ってことよ」

「そうなんですね」


 そんな会話を続けていたのだが、ここで楓は一つの疑問に行きつき、口を開く。


「……襲ってこないですね?」

「……そうね?」

「……どうしてですかね?」

「……さあ?」


 魔獣というのは本来、本能に従って行動すると言われている。

 人間を見れば襲い掛かり、エサとなるものがあれば捕食し、自分が生きるために行動する、そんな生き物だ。

 しかし炎弧は茂みから顔を覗かせ、こちらを見つめるだけで、襲い掛かってくる気配が一向にない。


「……ピース。炎弧と話ってできるかな?」

「キュキキー!(やってみるー!)」


 同じ魔獣であるピースを頼りに、楓は炎弧が何を思って顔を出したのかを確かめることにした。

 楓の肩から飛び降り、炎弧へ近づいていくピース。

 内心で楓はピースが襲われないかハラハラしていたが、何やら会話をした二匹は同時にこちらへ顔を向ける。


「キュキュー!」


 ピースが手招きしながら鳴いたため、楓とティアナは一度顔を見合わせてから、揃って近づいていく。


「大丈夫なの?」

「キキ! キュッキュキキー!」

「……触っていいの?」

「キキ!」


 ピースが身振り手振りで教えてくれると、炎弧は茂みから全身を出してくれた。

 橙色と乳白色の体毛が美しい炎弧、その背に楓は優しく触れる。


「……大丈夫、かな?」

『コン、ルルル(えぇ、大丈夫よ)』


 その鳴き声は温かみのある、女性の声だった。


「えっと、どうして私たちのところに?」

『コンコンルルル、コンキュッキュ(最近ここを離れていった子の、気配を感じてね)』

「それって、ピースのことですか?」


 楓の問い掛けに、炎弧は小さく頷いた。


『キュル、コンキュルルココンコン(それに、なんだか気になる気配が近くにいたから)』

「気になる気配、ですか?」


 炎弧の言葉を繰り返した楓。

 すると炎弧の視線は楓からティアナへ向けられる。


「……もしかして、ティアナさんのことですか?」

「え? わ、私?」


 楓が確認を取るとティアナは驚きの声を上げたが、炎弧は構わず頷いて見せた。


『コンゴゴン、コンキュルルココン(その槍もあるけれど、彼女自身が面白そうだと思ったわ)』


 炎弧の言葉を聞いた楓は本来の目的を思い出すと、そのまま口を開く。


「あ、あの! 私たち、ティアナさんの従魔になってくれる魔獣を探していたんです! どうでしょう、炎弧さん? ティアナさんの従魔になってくれませんか?」

「ちょっと、カエデ!」


 炎弧が大人っぽい話し方だったからか、楓は知らず知らずのうちに、炎弧にさん付けをしている。

 そんな楓の言葉を聞いたティアナは、慌てて声を上げた。


「ティアナさんは、炎弧さんじゃ嫌なんですか?」

『ココ、コンコロ?(あら、そうなの?)』

「違う、違う! 炎弧が従魔になってくれたら、ものすごく嬉しいわよ! だけど、いきなりそんなこと言われても、さすがに受けてもらえない――」

『コココン(いいわよ)』

「いいそうですよ?」

「…………え? い、いいの?」


 炎弧はティアナが説明したように、魔法が使える珍しい魔獣だ。

 おそらくだが、敵として相対したならティアナでも手こずる相手になったことだろう。

 そんな魔獣を従魔にできるとティアナは思っておらず、楓が翻訳した言葉を聞いて、困惑の声を漏らした。


『コンコン、コココルココルン(そもそも、そのつもりでここに来たんだもの)』

「そのつもりでここに来たそうです」

「……そ、そうなんだ」


 ここでようやく状況を冷静に見ることができるようになってティアナは、楓と目が合う。

 しばらく見つめ合った二人は、従魔具の材料集めだけではなく、ティアナの従魔探しまで達成できたことで、思わず笑い合ったのだった。

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