第35話:歩く宣伝塔の効果
ピースに従魔具を作ってから、三日が経った。
その間、楓は従魔具を作った従魔たちの主に声を掛けて回り、使い心地はどんな感じか、不具合は起きていないか、感想や不備はないかを確認していた。
しかし、返ってくる答えはどれも「とても喜んでいる!」「不具合なんて起こってないよ!」「私も大満足なんだからね!」と、嬉しい返答ばかりだった。
「嬉しいんだけど、本当に大丈夫だったのかな~? 私に遠慮してないかな~?」
従魔具職人としては駆け出しの楓である。
最初から完璧にできるわけがないと思っているため、嬉しい返答を聞いたとしても不安は尽きない。
そんな中、商業ギルドの中を歩き回っていると、エリンから声を掛けられる。
「カエデ様!」
「あ! エリンさん、おはようございます! あの、従魔具の具合はどうです――」
「すぐにギルマスの部屋へ向かってくれませんか?」
「……セリシャ様の部屋に、ですか?」
楓が挨拶から従魔具の具合を確認しようとしたが、声を遮るようにしてエリンがそう口にした。
何やら急いでいる様子だったため、従魔具の具合については後回しにして、楓はすぐにセリシャの部屋へ向かう。
(いったいなんだろう? ……も、もしかして、やっぱり従魔具に何か問題が!? セリシャ様からの呼び出しってことは、ラッシュ君に何かあったの!?)
セリシャの部屋が近づくにつれて、段々と不安が大きくなってきた楓。
扉の前に到着することには、不安で冷や汗がダラダラと流れ始めていた。
「…………よし! すぐに謝ろう!」
社会人としてやってきた知識から、とにかく謝ろうと決めた楓。
――コンコンコン。
『――どうぞ』
意を決して扉をノックすると、中からセリシャの声が聞こえてきた。
ゴクリと唾を呑みこんだ楓は、決意通りに扉を開いた途端、勢いよく頭を下げて謝罪を口にする。
「申し訳ございませんでした! 私、何かしてしまいましたでしょうか!」
「…………とりあえず、謝罪は不要よ、カエデさん?」
「……へ? そ、そうなんですか?」
完全に思い違いをしていた楓は、セリシャの呆れたような声を聞き、顔を上げながら問い掛けた。
「あなたは何も悪いことはしていないし、むしろ最高の従魔具を作ってくれているのだから、褒められるべきよね?」
「……それは、どうでしょうか?」
「すぐに自信をつけろとは言わないけれど、自分を卑下し過ぎるのはいけないことよ? それはおそらく、満足してくれている従魔や、その主のことを蔑ろにしていることにも繋がってしまうからね?」
セリシャの言葉を受けて、楓はハッとした表情を浮かべた。
「……確かに、その通りです」
「カエデさんは自分の作った従魔具が心配で、ここ最近はずっと主の職員に声を掛けていたでしょう?」
「はい」
「みんなから、従魔具を悪く言う声はあったのかしら?」
「……ありませんでした」
「そうでしょうとも。それだけ、カエデさんが作る従魔具は素晴らしいものなのだからね」
セリシャの言う通りだと、楓は心の底からそう思った。
自己評価が低いことは仕方がない。なんせ新人従魔具職人なのだ。
だが、楓が最も気にするべき評価は、自己評価ではなく、周りからの評価だということだ。
そのことを楓も社会人時代には知っていたはずなのだが、全く新しい異世界、新しい環境に身を置き、すっかり忘れてしまっていた。
「……ありがとうございます、セリシャ様。私、もっと自分に自信が持てるよう、頑張ります!」
「お礼を言われることではないわ。だって、本当のことを伝えただけだもの」
瞳を潤ませながらお礼を伝えた楓に対して、セリシャはいつも通りの笑みで返した。
そして、今回呼び出した本題を口にしていく。
「カエデさんを呼んだのは、あなたに指名依頼があったからなの」
「……指名依頼、ですか? ……え? 指名依頼って、従魔具職人としての、指名依頼ですよね?」
「そうだけれど……他に何があるのかしら?」
楓が読んできた異世界系の作品では、凄腕の冒険者への指名依頼、というものが多かった。
それは達成が困難な依頼が多く、命の危険を伴うものだったりした。
だからだろう、楓の脳内では「指名依頼」が「冒険者への危険な依頼」と勝手に変換されてしまっていたのだ。
「……な、ないですよね~。あは、あはは~」
「……まあ、いいわ。カエデさんの言う通り、従魔具職人としての指名依頼なの」
セリシャは自分の中で話しを納得させ、指名依頼について説明することにした。
「でも、どうして私なんですか? まだピースやラッシュ君や、職員の皆さんの従魔にしか、従魔具を作っていませんよ?」
「依頼人がラッシュの従魔具を見て、これだけの従魔具を作れるならお願いしたい、と言ってくれたのよ」
なんとラッシュに作った従魔具が、大きな宣伝効果を生み出していた。
「そうなんですね! ラッシュ君、すごいなー!」
「すごいのはカエデさんの方なのだけれどね」
手放しで楓がラッシュを褒めている姿を見て、セリシャは苦笑しながらそう呟いた。
「それで、どうかしら? 今回の指名依頼を成功させれば、大きな宣伝になると思うのだけれど?」
「やります! やらせてください!」
自分に自信をつけるためにも、楓は今回の指名依頼を受ける決断を下した。
「……あ、でも、大きな宣伝効果になると思うって、どなたからの指名依頼なんですか?」
「最初にカエデさんと話をした時に、少しだけ話題が出てきた、バルフェムを治めている子爵様よ」
「あー、なるほど。子爵様ですね。……って、ええええぇぇええぇぇっ!? お貴族様ですかああああぁぁああぁぁっ!?」
まさかの指名依頼の相手に、楓は驚きの声を上げた。
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