第34話:王城での会話②
◇◆◇◆
――楓がハオたちの従魔具を作っている同日。
場所は変わり、王城の一室には道長、鈴音、アリスが集まっていた。
「なあ、二人とも。本当に犬山さんは大丈夫だと思うか?」
集まろうと提案した道長から、そんな質問がなされた。
「わ、私には、分からない」
「あーしもー。ってか、犬っちが自分から出て行くって言ったんだから、大丈夫なんじゃない?」
「い、犬っちって……アリス、お前なぁ」
楓のことを話すアリスの呼び方に、道長は渋面になる。
「だってー。あーしたちは、あーしたちの心配をするべきじゃないの?」
「それはまあ、そうなんだが……」
「……もしかして道長君、犬山さんのことが気になってるの?」
「いやいや! そんなわけないだろう!」
鈴音がやや頬を赤らめながら聞くと、道長は慌てた様子で否定を口にした。
「えぇ~? なんで慌ててるの~、みっち~」
「あ、慌ててなんかないだろう! 俺はただ、同じ日本から召喚された犬山さんのことが心配な……だけだ……」
正義感なのか、それとも本当に楓に気があるのか。
どちらにしても、道長が楓を心配する気持ちは本物だ。
しかし、アリスの言っていることももっともであり、道長の声音は段々と弱くなっていく。
「……私たちも、犬山さんのことが心配じゃないわけじゃないよ? 道長君」
「そうそう! ただ今はその時じゃないって言いたいだけー」
そんな道長の気持ちが伝わったのか、鈴音とアリスは慰めるようにそう口にした。
「……はぁ。すまない、二人とも。どうやら俺は、余裕がないな」
「「いつものことじゃない?」」
「うぐっ!? ……いやまあ、そうなんだが」
誰よりも冷静に振る舞っていた道長だが、実のところ心に余裕はなかった。
だが、冷静にあらねばならないと、自分だけが男性だという思いが、ギリギリのところで冷静さを保っていた。
しかし、そこへ自分よりも冷静に状況を見ていた人物が現れた――楓だ。
もしかすると道長は、自分よりも冷静に状況を見極め、さらに一人で行動するという、自分には絶対にできない行動を起こした楓のことが気になっているだけなのかもしれない。
「……犬山さんは、すごいなと心から尊敬するよ」
「それは……うん。私もそう思うな」
「確かにねー。あーしだったら、文句の一つや二つ言うくらいしかできないもんなー」
「「……一つや、二つ?」」
今度は道長と鈴音が、アリスの発言に疑問の声を漏らした。
実のところ、アリスはことあるごとにアッシュやケイルに文句を伝えていた。
それは自分たちを召喚したのだから、その責任をしっかり取ってもらうつもりでの文句だ。
だからだろう、アリスは二人に対しては文句を言うが、身の回りの世話をしてくれているメイドたちには一つの文句も口にしていなかった。
「な、何よ~! あーしだって言いたい時は言わせてよ~!」
「いや、言いたい時に十分言っているんじゃないか?」
「……うん」
「鈴っちまで!? ……もういいしー! あーしはあーしのやりたいようにやるしー!」
そっぽを向いてしまったアリスを見て、鈴音は道長に声を掛ける。
「そういえば、道長君。今日はどうして呼び出したの?」
「あぁ。二人は今回のことを、どう考えているのか聞きたかったんだ」
鈴音の問い掛けに、道長は真剣な面持ちを浮かべて答えた。
すると、鈴音もそうだが、そっぽを向いていたアリスも道長へ視線を戻し、口を開く。
「私は、信じてもいいのかなって思う。その、お母さんを助けたいって言葉」
「あーしもそうかなー。でも、危険なこともあるって言ってたっしょー? それがちょっとねー」
「俺は少しだけだが、こういう異世界召喚とか、転生とか、そんなマンガを読んだことがあるんだ。その多くが、魔王を倒すとか、そんな感じのが多かった」
道長の言葉に、鈴音とアリスはゴクリと唾を呑む。
「……それはたぶん、無理かも」
「いやいや! 絶対に無理っしょ! 魔王とかガチで死ぬから!」
「だよな。だから、正直少し拍子抜けでもあるし、安堵もしている」
鈴音とアリスの意見を聞き、道長は自分の考えを口にしていく。
「だけど、あとからいきなり魔王を倒せ! っとか言われないとも限らないし、お互いに情報は共有したいと思ったんだ」
「情報を共有って言われても……」
「あーしたち、ずーっとスキルを上手く使えるよう、特訓しかしてないんですけど?」
スキルは基本的に、頭で思い浮かべれば使い方が浮かんでくるものだ。
しかし、使い方が分かったとしても、自分がどのように動き、どうすればより有効的に使えるのか、それは経験が物を言う。
道長たちのスキルは戦闘に特化したもので、特に経験が必要なものだ。
道長がスキル〈剣聖〉、鈴音が〈聖女〉、アリスが〈武闘王〉。
当然だが、道長たちには経験が足りないため、そこを補うための特訓を行っていた。
「みっちーも一緒にやってるでしょうが! あーしたちはみんな、同じ情報しか持ってないっつーの!」
「……うん」
「いや、まあ……そうだよなー」
結局、道長たちは有益な話し合いをすることができなかった。
できたことと言えば、現状の再確認とお互いの意思の確認、くらいだろう。
(……もしかすると、犬山さんは俺たちよりも、こういった異世界召喚みたいなマンガを読んでいたのかもしれないな)
そう考えた道長は、楓ともっと話をしておけばよかったと、今になって後悔するのだった。




