第33話:ピースの従魔具
作業を始めた楓が最初に行ったのは――自分の衣服を破る、だった。
「ちょっと、カエデさん!?」
「ギュギュ!?(どうしたの!?)」
セリシャとピースからは驚きの声が上がった。
「余っている材料も使いますけど、それだけでは作れなさそうなので、私の衣服の布を使おうと思いまして!」
「もう! それなら私が用意するのに!」
「いいえ、この衣服の柄が必要なんです!」
楓が身に着けていた衣服の柄は、チェック柄だ。
探せばすぐに見つかるだろうが、楓としては今この瞬間の熱を持ったまま、従魔具を作りたかった。
故に、自分の衣服の柄が目に留まり、一切の迷いなく破ってしまった。
「全く。恐れ入ったわ」
やや呆れのこもった声だったが、セリシャの言葉には尊敬の念も込められていた。
(今回、私が作る従魔具は――ピースの衣服!)
衣服を従魔具と言っていいのかは分からなかったが、それでも従魔具としての性能を持っていれば問題はないだろうと、楓の中で結論付ける。
そして、破った布に魔力を込めると、頭の中で思い浮かべた形へ自動的に作り上げられていく。
(ピースは小さいし、たぶんだけど、弱いと思う。だから、何かあった時にその身を守ってくれるように、耐久性を強くしなきゃね!)
チェック柄の衣服が形だけ完成すると、次に楓が手に取ったのは、アオの木と緑宝石だ。
アオの木は青みを帯びた材木で、少しだけだが水属性に適性がある。
緑宝石は緑色の木属性に適性を持った宝石で、その大きさで込められる魔力量が変わってくる。
(〈従魔具職人EX〉が教えてくれた、水属性と木属性を組み合わせることで、お互いの属性を向上させてくれるって! これで耐久力を上げられるって!)
魔法の属性には相性がある。
火と水では相反してしまうが、今回のような水と木であれば、相乗効果を得ることができる。
従魔具職人は、それぞれの材料の属性を見極め、組み合わせて、より良い従魔具を作れるようになれれば一人前と言われる界隈でもある。
それを楓は、スキルの力を借りているとはいえ、都合七つ目の従魔具でその条件をクリアしようとしていた。
新人の従魔具職人であれば、通常は何十作品も作ってようやくできるか、できないか、という難易度であり、黙っていたがセリシャは内心でとても驚いていた。
(衣服と組み合わせるアクセサリーに使えば、きっとピースの可愛らしさとカッコよさを、上手く組み合わせられるはずだわ!)
そこからの楓は早かった。
作り方が分かっているからというのもあるが、頭の中でしっかりと完成形をイメージできていたからだ。
というのも、楓が作り方を見てイメージした衣服が、日本のフィギュアに存在していた。
(小さな動物たちのフィギュア! その中にカッコいい衣服があったんだよねー! これならきっと、ピースにも似合うはずだもの!)
手際よく作られていく、アオの木と緑宝石を組み合わせたアクセサリー。
さらにはチェック柄の衣服へのアクセントとして、小さな緑宝石でボタンを作ったりと、ちょっとしたひと手間も忘れない。
こうして作業を進んでいき、ついにピースへ贈る初めての従魔具が完成した。
「……で、できた!」
額の汗を拭うのも忘れて、楓は出来上がった従魔具を両手で優しく持ち、ピースにも見えるよう目の前に上げた。
「どうかな、ピース?」
楓は問い掛けてから、その視線を肩の上にいるピースへ向ける。
「……キュゥ……キキキュッキキュ、キャキュゲ!(……すごい……カッコいいよ、カエデ!)」
感激で言葉が何度も詰まったが、最後は大興奮で楓への感謝を伝えたピース。
その姿が可愛らしく、そしてその言葉に感動し、楓は満面の笑みを浮かべた。
「早速、着てみる?」
「キュキュ!(うん!)」
元気よく答えたピースは、楓の肩からテーブルに移動する。
そこで楓が従魔具のボタンを外し、まずは足を、次に腕を通していく。
ボタンを留めたあとは、アクセサリーを身に着けていく。
余った布で作ったスカーフに、首飾りや腕輪をはめた。
「どこかきつかったり、苦しかったりするところはないかな?」
「キュキュキッキ!(大丈夫!)」
「よかった。あの、セリシャ様?」
ここで楓がセリシャに声を掛けると、セリシャは分かっていたのか、テーブルの前に姿見を用意してくれた。
「これでしょう?」
「す、すごい! どうして分かったんですか!?」
「衣服を身に着けたら、その本人が見たいのは当然のことだもの」
クスッと笑いながらセリシャがそう口にすると、そのまま姿見をピースの前に移動させる。
そして、ついにピースを従魔具を身に着けた自分の姿を目にすることができた。
「……ギキュ、キキキ?(……これが、おいら?)」
「そうだよ。どうかな、ピース?」
白いシャツの上に袖なしのジャケットを羽織り、ぼったり感のある紺色のズボンを身に着けている。
首元には楓の衣服を破って作られたチェック柄のスカーフが巻かれており、一つのアクセントになっていた。
ピースの右手に軽く触れながら、楓がドキドキしながら確認を取る。
「……キュキュキキ! ギュギュキュキュ! チチギュキキャキャ!(最高だよ! 本当に最高! 他に言葉が出てこないよ!)」
楓にとっては最高の賛辞を受けて、ホッと胸を撫で下ろしながら笑顔を浮かべる。
「よかった~! それじゃあ改めて……これからもよろしくね、ピース!」
「キュキュ!(うん!)」
楓とピース。
二人の絆が、さらに深まった瞬間なのだった。




