第31話:驚きの値段と性能
「さて、次は値段設定なのだけれど……これは、悩ましいわね」
完成した従魔具を見つめながら、セリシャがそんなことを口にした。
「え!? ……もしかして、失敗ですか?」
不安になりながら楓が問い掛けると、セリシャは苦笑しながら首を横に振る。
「いいえ、成功よ。それどころか、大成功と言えるわね」
「それじゃあ、どうして?」
「カエデさんが口にしていたコスパ、だったかしら? それがすご過ぎて、低価格で売りに出すのが勿体ないくらいなのよ」
セリシャが口にしたように、楓が作り出した従魔具は、材料の価格に対してあまりにも性能が良すぎる仕上がりになっていた。
「性能って、見ただけで分かるものなんですか?」
「ある程度はね。カエデさんも分かるのではないかしら?」
楓の質問に答えながら、セリシャも質問を返す。
「まあ、材料の性能をいかんなく発揮している! って直感的に分かってはいるんですが、それに主の方や従魔が満足してくれるかどうかは、また別の話かなと思っているので」
「それはなんというか、とっても贅沢な話ね」
「……そうなんですか?」
楓としては主や実際に使う従魔の満足度が大事だと考えていたが、セリシャの言葉を聞くに、そうではないのだと驚きを隠せない。
「もちろん主や従魔が満足するかも大事だけれど、やっぱりその性能が一番大事だと思うわ」
「そうなんですね……そうなると、これらの従魔具のお値段って、どれくらいが妥当なんですか?」
「……どれも予算を大きく超えてしまうでしょうね」
「そ、それだけは絶対にダメです!」
予算を超えることだけは絶対にしてはいけないと、楓は声を大にして答えた。
「分かっているわ。だから、悩ましいのよ」
セリシャも本当に予算を超えた金額で売りつけるつもりはない。
だからこそ「悩ましい」と口にしながら、どうやって購入する主を納得させるかを考えていた。
「先ほども言ったけれど、従魔具は何より性能が第一とされているの。だから、その性能を目の当たりにした主たちが、本当にあの値段でよかったのか? そう思われない理由が必要になってくるのよ」
「……あ、そういうことだったんですね。……なんか、すみませんでした」
一瞬だけ、セリシャがギルドの益のために、職員へ高く売りつけるのではないかと考えてしまった自分を恥じ、謝罪を口にした楓。
「いいのよ。それだけ、カエデさんが従魔具職人としての心構えを持っているということだもの」
「……ありがとうございます」
セリシャから心構えを褒めてもらえ、楓は感謝の気持ちと共にお礼を口にした。
「基本的には予算内の価格で伝えるつもりではいるのだけれど……もしも、みんなから追加で支払いをしたいとなった場合は、しっかりと受け取ってくれるかしら?」
「追加で支払いですか? ……そんなこと、あります?」
すると今度は楓が考えもしなかったことをセリシャから確認され、思わず首を傾げてしまう。
予算を聞き、その価格内で売値を提示したのだから、普通はそのまま購入するのではないかと楓は考えたのだ。
「商業ギルドの方針で、『商品は適正価格で購入するべし』という言葉があるの。もしもカエデさんの従魔具が、みんなの提示した予算を超えた性能を見せた場合、みんなから追加で支払いたいと言ってくる可能性があるのよ」
「……それ、強制じゃないですよね?」
もしも強制であれば、それこそ押し売りではないかと楓は思ってしまった。
「強制ではないわ。それに、商品を見て購入を控えることだってできるんだもの」
「あ、確かにそうですね」
「もちろん、追加で支払いがなかったから、その職員の評価を下げるとかもしないわ。あくまでも、その人や従魔の使い勝手の判断だもの」
「……それならまあ、いいのかな?」
暗黙のルールで支払わないといけない、というわけではないとセリシャは語る。
(その方針のせいで、勝手に評価を下げられちゃうとか思ってなきゃいいけど)
そんな不安もありながら、楓は一定の理解を占めることにした。
郷に入っては郷に従うのがベストだと考えたからだ。
(それにここは異世界だもの。その考え方が当然、という風潮だってあるかもしれないもんね)
自分の考え方こそがズレているかもしれない、そう意識するべきだと楓は自分を納得させる。
「どうかしら?」
「……分かりました。それでお願いします」
「ありがとう。一応、みんなに伝える値段は、性能を考えるとどうしても予算一杯になることは許してちょうだいね?」
「はい」
こうして、楓が初めて一人で作った従魔具の値段が決定した。
主たちにはセリシャが責任をもって伝えてくれることとなり、疲労困憊になっていた楓はそのまま帰宅の途についた。
◆◇◆◇
楓が従魔具を作り上げた、翌日。
「カエデ様!」
商業ギルドに入ると同時に、エリンから声を掛けられた。
「おはようございます、エリンさん! ……それに、従魔たちの主の皆さんも?」
エリンの後ろには従魔具を作った従魔たちの主が全員揃っており、何事だろうと楓は緊張してしまう。
「従魔具、最高の仕上がりでした!」
「……そ、それは本当ですか!」
「はい! ハオもとても喜んでいて、仕事のあとすぐにバルフェムの外に出て、とても楽しそうに飛び回っていたんですよ!」
するとエリンからはとても嬉しい言葉が伝えられ、楓は満面の笑みを浮かべた。
「私のところもそうです!」
「俺のところもだ!」
「本当にありがとう、カエデ様!」
「カエデ様の従魔具のことは、他の人にも宣伝しておきますね!」
他の主の方からも同様の賛辞が送られ、楓は自分でも気づかないうちに嬉し泣きをしていた。
「えぇっ!? ど、どうしたんですか、カエデ様!!」
「え? ……あ、あはは! すみません、エリンさん! なんか、嬉し過ぎて涙が出てきちゃいました!」
「嬉しいのはこっちのセリフですよ! ギルマスにも伝えて、追加で支払いをしちゃったくらいなんですから!」
「えぇっ!? で、でも、無理はしないでくださいね? あの、本当に、押し売りみたいにはなりたくないので!」
最後に楓がそう口にすると、エリンたちは顔を見合わせ、笑顔で口を揃える。
「「「「「私たちみんな、大満足ですから!」」」」」
「……う、うぅぅ~! ありがどうございばず~!」
「だから、なんで泣くんですか!」
「だっで~! 嬉じいんだも~ん!」
エリンや他の主たちに囲まれ、楓は笑顔で涙を流すのだった。




