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異世界従魔具店へようこそ!〜私の外れスキルはモフモフと共にあり〜  作者: 渡琉兎


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第26話:帰り道はハピリスと一緒に

「……あの、ハピリス? あなた、私と一緒にいていいの?」


 フェザリカの森からバルフェムへ戻ることになった楓たち。

 しかしハピリスは森に帰るどころか、楓の肩に乗ったままついてきてしまったのだ。

 これはいいのかと困惑し、ハピリスに確認を取る。


『キュキュキュッキュー!(おいらはカエデと一緒がいいのー!)』

「なんて言っているの?」

「私と一緒がいいって言ってます」

「それなら、いいんじゃないの?」

「いいんですか!?」


 あっさりと許可が出てしまい、楓は驚きの声を上げた。

 何故ならハピリスは、小さくて愛らしいとはいえ、魔獣である。

 従魔ではない魔獣を勝手に都市の中に入れてもいいのか、それが楓には分からなかった。


「きちんと従魔契約をしちゃえばいいのよ」

「……従魔契約を、ですか?」

「え? カエデ、従魔具職人なのに、従魔契約を知らないの?」

「……はいぃぃ~」


 驚きの表情を浮かべたティアナに、楓は申し訳なさそうに答えた。

 ここまで来ると、楓が何を知っていて、何を知らないのか、確認するべきだと判断したティアナは、こんな質問を口にする。


「カエデって、どんな田舎から出てきたの?」


 この質問は、楓にとって困る質問だ。

 何故なら楓がやってきた場所は、異世界なのだから。


(こういう時、なんて答えるべきなんだろう。異世界から召喚されてきました、なんて正直に答えたら、マズいよね? ラノベだとほとんど隠しているもんね?)


 思案顔になってしまった楓を見たティアナは、苦笑しながら右手を顔の前で横に振る。


「あー、やっぱりいいよ」

「……え?」

「カエデにも何か、言えない事情があるんでしょう? ヤバい相手だったら困るけど、カエデはそんな感じじゃないし、言わなくてもいいよ」


 ティアナの優しい言葉に、カエデは本気で泣き出しそうになってしまう。


「……ティ、ティアナさ~ん! もう、本当に私のお姉ちゃんになってくださいよ~!」

「お姉ちゃんじゃなくて、妹ね」

「もう年下のお姉ちゃんでもいいですから~!」

「いやいや、それはダメでしょう」


 軽くツッコミを入れられながら、楓はティアナの横を歩く。

 すると今度はハピリスが声を掛けてきた。


『キッキキュキュ!(おいらは兄ちゃんだな!)』

「いや、ハピリスは……弟になるかな?」

『ギョギョッ!?(そうなの!?)』

「そこは従魔じゃないんだ!?」


 悲しく鳴いたハピリスはさておき、驚きのティアナに対して楓は苦笑しながら答える。


「ペットでもいいかと思ったんですけど、私の場合は会話もできちゃいますし、弟でいいかなって」

「あー。まあ、普通は従魔の言葉、分からないもんね」

『……ギョ、ギョギュ~?(おいら、弟~?)』

「うん、弟」


 ハピリスの呟きに対しても楓ははっきりと「弟」と答え、ハピリスは肩を大きく落とした。


「まあまあ。お兄ちゃんでも弟でも、カエデの従魔になったら美味しい料理が食べ放題なんだよ? そっちの方が良くない?」

「いやいや。私の料理なんてどこにでもある――」

『キュッキュキュ!(確かにその通りだね!)』

「その通りなんだ!?」


 そんな楽しい道中では、通り過ぎる人たちからの視線を集めていた。

 従魔を肩に乗せているからかと楓は思っていたが、そうではない。

 肩に乗せている従魔が、目撃するだけで幸運を呼ぶと言われているハピリスだからだ。

 なかなかお目に掛れない魔獣が、何故か冒険者でもない楓の肩に乗っているのだから、視線を集めるのも無理はなかった。

 そんなこんなでバルフェムに到着すると、門番からも驚きの声を掛けられる。


「……え? いや、さすが殿下がお認めになられた方なのか?」


 バルフェムに入る時、最初に対応してくれた門番だったからだろう。

 楓が王族と関係のある相手だと分かっているからか、丁寧な言葉遣いの中に、驚きが込められていた。


「あはは。成り行きでこうなっちゃいまして」

「……いや、まあ、問題はないのですが……ど、どうぞ、お通りください」

「し、失礼しま~す」


 どこかぎくしゃくしている門番に申し訳なく感じながら、楓はそそくさと門を潜り、バルフェムに入った。

 だが、バルフェムに入ってからもハピリスは目立ってしまい、多くの視線を集めてしまう。


「ど、どどどど、どうしましょう、ティアナさん!」

「どうするも何も、さっさと商業ギルドに行った方がいいと思うわよ?」

「一緒に行きましょう! お願いします!」

「うーん……まあ、乗り掛かった舟だしね。分かった、一緒に行くわ」

「ありがとうございます~!」


 それから楓は、ティアナの後ろに隠れながら通りを進み、商業ギルドに到着した。


「あら? あなたは……って、えぇっ!?」

「はいはい、静かにしてちょうだいねー。カエデがテンパっちゃうからねー」


 商業ギルドで最初に対応してくれた受付嬢のエリンが驚きの声を上げようとしたところ、ティアナがすぐに間へ入ってくれた。


「……ティ、ティアナ様!?」

「カエデのことでセリシャ様に会いたいんだけど、いるかな?」

「しょ、少々お待ちください!!」


 Sランク冒険者のティアナは、商業ギルドでも有名人だ。

 エリンは大急ぎで二階へと上がり、一分と掛からずに戻ってきた。


「ど、どうぞ! お上がりください! ……はぁ、はぁ」

「ありがとう。行きましょう、カエデ」

「あ、ありがとうございます~」


 息を切らしながらそう口にしたエリンに対して、ティアナは堂々としていたが、楓はここでも申し訳なさが勝ってしまい、門番の時と同じようにそそくさと二階へと上がっていく。


(うぅ~! 目立ち過ぎだよ、ハピリス~!)

『……キュ、キュギャ?(おいら、悪くないよ?)』


 楓の心の悲鳴に呼応するかのように、そんなことを口にしたハピリスなのだった。

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