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異世界従魔具店へようこそ!〜私の外れスキルはモフモフと共にあり〜  作者: 渡琉兎


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第25話:ハピリスと従魔具の材料

「……す、すごいよ、ハピリス!」

『キュ、キュキュ~?(そ、そう~?)』

「そうだよ! 本当にすごい!」


 楓が素直にハピリスを褒めると、ハピリスは恥ずかしそうに照れていた。

 その姿は愛らしいのだが、ここでティアナがちょっとした疑問を口にする。


「それにしても、カエデのサブスキルは従魔じゃなくて、魔獣の言葉を翻訳するものだったってことよね?」

「……はっ! そ、そうでした!」


 驚くことを忘れていたからか、ティアナに改めて言われたことで、楓は大きな声を上げてしまった。


「でもまあ、触れていないと翻訳はできないのよね?」

「はい」

「それじゃあ、危な過ぎて普通の魔獣には近づけさせられないわね」

「む、無理ですよ~。ハピリスは可愛いからいいですけど、他の魔獣は絶対に無理です! 昨日の魔獣みたいな奴ですよね?」

「そうそう」

「無~理~!」


 両手でバツ印を作りながら楓がそう言うと、ティアナは苦笑しながら頷く。


「分かったから、そこまで拒否しなくてもいいから」

『ギュギュ~?(嫌な奴?)』

「ち、違うから! ティアナさんは嫌な奴じゃないから!」

「えぇっ!? わ、私がカエデを苛めていると思われちゃった!!」


 ハピリスが鋭い視線をティアナに向けたことで、楓とティアナは慌てて否定した。


『……キュ?(……本当?)』

「本当だよ? ティアナさんは私の大事な人なの」

『……キュッキュー!(……分かったー!)』


 右手を上げて答えてくれたハピリスを見て、楓はホッと胸を撫で下ろした。


「……ゆ、許してくれたのかしら?」

「はい。私の大事な人なんだって言ったら、分かってくれました」

「あ、ありがとう! カエデは優しいな~!」

「優しいって、本当のことじゃないですか」


 ティアナが両手を合わせながらそう口にすると、楓は本音を口にした。

 その言葉がティアナには嬉しく、思わずにやけてしまう。


「……そ、そうだ! 従魔具の材料、ここで見ていく?」

「あ! 見たいです!」


 そして、徐々に恥ずかしくなったのか、ティアナは話題を変えて従魔具の材料のことを口に出した。

 本来の目的を思い出した楓は食いつき、見たいと前のめりになって答えた。


「とりあえず、集めた全種類を一つずつ取り出すわね」

「ありがとうございます! ……って、え? 集めた、全種類?」

「そうよ! フェザリカの森にあるほとんどの材料を集められたんじゃないかしら!」

「…………フェ、フェザリカの森にある材料を、ほとんど!?」


 まさかの答えに楓は驚きの声を上げた。

 時間にしたら一時間ほどだ。

 まさか、一時間ほどでフェザリカの森のほとんどを踏破し、材料を集めたのかと驚愕してしまう。


「……ど、どこまで行ってきたんですか?」

「どこまでって……まあ、奥まで?」

「一時間でですか!?」

「私の足なら余裕だわ! だって、Sランクだもの!」


 楓の中で、Sランク冒険者は化け物なのだという基準が出来上がった瞬間だった。


「それじゃあ、出していくわね?」

「……は、はい」


 それからティアナは、集めた材料のほぼ全種類、七種を一つずつ取り出していく。

 スズの木、ハクの木、セキの木、アオの木の材木に、緑宝石(りょくほうせき)黒狼岩(こくろうがん)雷鳴鋼(らいめいこう)の鉱石で、七種だ。

 木材が四種に鉱石が三種と、バランスの良い材料になっていた。


「……す、すごいですね」

「これらが大体二〇個から三〇個くらいで集めて来たわ!」

「……に、二〇個から三〇個!! それ、絶対に私のお料理じゃ釣り合わないですよね!?」


 本日何度目になるのか分からない驚きの声に、ティアナはサムズアップしながら答える。


「問題ないわ! カエデの料理は至高だから」

「そんなわけないですよ!」

『キュキュ!(至高だよ!)』

「ハピリスも! 違うからね!」


 ティアナとハピリスから至高と評価され、楓は過大評価だと声を上げた。


「まあまあ。誰が評価するかにもよるからね、こういうものは。私にとってのカエデの料理は、これらの材料よりも価値のあるものだってことよ!」

「うぅぅ~。プレッシャーが半端ないですって~」


 楓はそう口にすると、もっと料理を頑張っておけばよかったと後悔してしまう。


「とにかく! この材料は全部カエデのものだからね! 従魔たちが満足いく従魔具を作ってあげてちょうだいよ!」

「……が、頑張ります~」

『キュッキュキュッ!(おいらも何かあげる!)』


 ティアナが大量の材料を取り出したからか、ハピリスが右手を上げながらそう口にした。


「ハピリスが? でも、いったい何を?」

『キッキキ!(待ってて!)』

「あ! ちょっと、ハピリス!」


 そう言い残したハピリスは、機敏な動きで森の奥へ姿を消した。


「どうしたの?」

「えっと、おいらも何かあげるって言って、行っちゃいました。待っててって」

「そうなの? それじゃあ、待っておきましょうか」

「……はい」


 それから楓とティアナは、他愛のない話をしながらハピリスが戻ってくるのを待った。

 話を始めてから一〇分ほどが経つと、ハピリスが戻ってきた。


『キャッキャキュキュー!(おいらからはこれあげるー!)』

「これって……何?」

「えぇっ!? それって、魔石じゃないのよ!!」


 ラッシュの従魔具に使ったことがある魔石を、ハピリスが持ってきてくれた。


「これ、高価なものなんですか?」

「高価も高価! 小指の爪くらいの大きさの魔石でも、五〇年は生きた魔獣から取れるか、取れないかって貴重なものなの! それなのにこれは……ハピリスの顔くらいの大きさがあるんじゃない?」


 まさかの贈り物に、楓は頭の中が真っ白になってしまう。


「…………も、貰えないよ、ハピリス!」

『ギギャッ!?(そんな!?)』


 楓の言葉を受けたハピリスは、悲しそうに鳴きながらウルウルした瞳で彼女を見上げる。


「うぅっ!? ……そ、そんな目で、見ないでちょうだい!!」

『……キュルル~?(貰ってよ~?)』

「はうあっ!?」


 楓とハピリスの勝負は――ハピリスに軍配が上がった。


「……分かったよ、ハピリス! か、返してって言われても、返してあげないんだからね!」

『キュッキュキュー!(お礼だもんねー!)』


 こうして楓は、ティアナからは大量の材料を、そしてハピリスからは貴重すぎる魔石を手に入れたのだった。

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