第161話:大盛り上がりの表彰式
大型従魔飛行部門が終わり、最後の表彰式が執り行われた。
最も盛り上がった飛行部門の表彰式では、過去に一度として起きなかった同着での同時優勝ということで、ライゴウとカリーナが姿を見せると割れんばかりの拍手が巻き起こった。
『――Sランク冒険者、ヴィオン。そして彼の従魔、ライゴウ。優勝おめでとう』
拡声器を通して表彰を行っているのは、カリーナの主であり、バルフェムの市長でもあるボルトだ。
『――ありがとうございます、アマニール子爵様』
『――大型従魔と共にあることの大変さは、理解しているつもりだ。だから、バルフェムにいる間で何か困ったことがあれば、いつでも私を訪ねてくると良い』
『――その際は是非に、よろしくお願いいたします』
『――本当に最高のレースだった』
ボルトは最後のそう締めくくると、ヴィオンと固い握手を交わした。
ライゴウとカリーナも目を合わせ、大きく頷き合っている。
主同士、従魔同士で親交を深めたところで、再び会場からは拍手が巻き起こった。
「本当にすごい試合でしたね、ティアナさん!」
いまだ興奮が冷めやらない楓は、やや大きな声でティアナに声を掛けた。
「本当にね。でも、私のレクシアだって最高のレースをしたわ!」
「うふふ。間違いなくその通りですね」
レクシアもラッシュとデッドヒートを繰り広げ、最後は鼻差で勝利を収めている。
従魔大運動会を初めて観戦した楓から見ても、二匹が出場した中型従魔かけっこ部門も、ライゴウとカリーナに負けず劣らずの熱い試合だった。
「あぁ~、もう! これじゃあ最優秀賞になれないじゃないのよ!」
「……最優秀賞?」
競技は既に全てが終了している。
ティアナが口にした最優秀賞がいったいなんなのか、楓には分からず首を傾げてしまう。
「あぁ、そっか。最優秀賞っていうのは、従魔大運動会を最も盛り上げてくれた者に与えられるものなの」
「へぇー、そうなんですね。あ、ってことは、もしかしてライゴウさんかカリーナ様ってことですか?」
「ライゴウかな。カリーナはアマニール子爵様の従魔で、運営責任者だからないと思うの」
最高責任者の従魔が最優秀賞を手にしてしまえば、出来レースだろうと騒ぎ立てる者が出てくるかもしれない。
カリーナ以外で誰が受賞に相応しいかとなれば、おのずとライゴウの名前が挙がってきた。
「去年までは見ているだけで、今年は初参加! そこでデッドヒートを繰り広げての優勝! ……最優秀賞にピッタリのシチュエーションだと思ったんだけどな~」
「あはは」
大きく肩を落としているティアナに対して、楓は苦笑いをすることしかできなかった。
『――それではこれより、最も従魔大運動会を盛り上げてくれた最優秀賞を発表したいと思う』
ボルトがそう口にすると、会場の声が一気に止んだ。
『――今年の従魔大運動会の最優秀賞は…………従魔具職人のカエデ!』
「…………え? ……ええええぇぇええぇぇっ!?」
まさか自分の名前が呼ばれるとは思っていなかった楓は、驚きの声を上げてしまった。
『――カエデ殿、舞台に上がってきてくれ!』
「え? あの、でも……えぇ~?」
ボルトが満面の笑みで呼び込むが、楓はどうしたらいいのか分からず戸惑ってしまう。
「いってきなよ、カエデ!」
「そうよ、カエデさん」
そこへティアナとセリシャが声を掛けた。
「おめでとう、姉ちゃん!」
「すごいです、カエデさん!」
「いってきてください、カエデ様!」
続けてリディ、ミリー、エリンも嬉しそうに口を開いていく。
「うぅぅ……分かった、分かったわよ!」
みんなの勢いに押されて、楓は愛想笑いを浮かべながら舞台へ向かい、そのまま上がっていく。
『――おめでとう、カエデ殿!』
『――あ、あの、子爵様? どうして私が選ばれたのでしょうか? 選ばれるのは、従魔ではないんですか?』
ボルトから祝いの言葉を贈られた楓だったが、どうして自分が選ばれたのか、従魔が選べれるものではないのか、疑問が尽きず先に質問が口を突いて出てしまった。
『――ふふ。確かに、疑問の声はあるだろう。会場の皆もそうじゃないか?』
するとボルトは楓の疑問はもっともだと口にしながら、彼女が選ばれた理由を説明することにした。
『――今回の従魔大運動会で優勝を手にした従魔たち、そして上位に入賞した従魔たちも、そのほとんどがカエデ殿の従魔具を付けた従魔たちだったのだ!』
ボルトの説明を聞いた楓はハッとした表情を浮かべる。
小型従魔部門では、全部門で楓が作った従魔具を付けた従魔が優勝している。
中型従魔部門のレクシアとラッシュ、他の部門にも楓が手掛けた従魔具を付けた従魔がいたのだ。
極めつけは大型従魔部門だが、こちらは飛行部門だけとはいえ、一番の盛り上がりであるデッドヒートを繰り広げたライゴウとカリーナ、その両方が楓の従魔具を着けている。
従魔具職人のカエデがいなければ、これほどの盛り上がりはなかったとボルトは説明した。
『――故に私は、今年の従魔大運動会の最優秀賞を、カエデ殿の贈りたいと思っている! どうだろうか、皆の者!』
最後にボルトがそう声を上げると、会場全体から、本日最も大きな拍手が巻き起こった。
『――……あ、あはは……ありがとう、ございます』
楓のどこか情けない感じの声が、拡声器に拾われて会場に響く。
(これ、明日から絶対に大忙しだよおおおおっ!?)
表彰式を行う中で、楓は内心で涙を流しながらそんなことを考えていたのだった。




