第160話:ライゴウとカリーナ
スタートと同時に先行したのは――ライゴウだ。
楓も見たことのある、停止した状態からトップスピードに乗ることのできる超加速で、後続を一気に突き放しにかかる。
「ギュルラアアアアアアアアッ!」
しかし、ライゴウの独走を許さないのがカリーナだった。
ライゴウほどの加速力は持っていないが、カリーナにはライゴウよりも、そして他の従魔よりも長く生きてきた経験値がある。
どのように飛べば風の抵抗をいかに少なくできるか、どの風に乗れば加速しやすいのか、その全てを計算し尽くしながら飛んでいた。
最初こそライゴウの独走で終わるかと思われた大型従魔飛行部門だが、カリーナが少しずつではあるがその差を縮めていく。
『――カリーナ! 速い、速いぞおおおおっ! このままライゴウを捉えることができるのかああああっ!』
実況も熱く声を張り上げていく。
大型従魔の飛行部門のコースは、小型、中型の会場の上空をも使った広大なコースになっている。
そのコースを三周して、ようやくゴールとなる。
「ヂギヂギヂギイイイイッ!」
「キュルラアアアアッ!」
ライゴウとカリーナが咆哮を上げ、さらに加速していく。
通常、この三周というのは仮に速すぎる従魔がいたとしても、最下位の従魔が周回遅れにならないよう、過去のタイムを計算して距離や難度が設定されている。
しかし今回だけは、その設定が当てはまらないかもしれない。
「おい! 最下位の従魔に速度を上げるよう伝えられないか!」
「このままの速度だと、三周目のラストで周回遅れになってしまうぞ!」
周回遅れが出るかもしれないという事実に、職員たちも気づき始めた。
大慌てで対策が話し合われていく。
「……あの、ティアナさん? いったい何が起きているんですか?」
職員たちの慌てっぷりに楓も気づき、ティアナに質問する。
「……ライゴウとカリーナが速すぎる」
「それは、競技としていいことなんじゃないんですか?」
「そうだけど、今回は速すぎるのよ!」
ティアナが何を言いたいのか楓は分からず、困惑顔を浮かべてしまう。
そこへ口を開いたのはセリシャだ。
「大型従魔の場合、周回遅れが出ると危険なの。従魔同士がぶつかれば、そのまま会場へ落下する恐れがあるからね」
「会場に落下……えぇっ!? それって、観客席に落下するかもしれないってことですか!!」
事の重大さにようやく気づいた楓が声を上げると、セリシャは無言のまま頷いた。
「おそらくだけれど、ライゴウもカリーナも一進一退過ぎて、速度が出過ぎていることに気づいていないわ。そこは競技の性質上、仕方がないのだけれど……」
今回の場合、何か起きてしまってもライゴウもカリーナも悪くない。
そして、過去のデータを超越した速度を持った従魔が二匹同時に出てくるなど、運営も予想できなかっただろう。
「……私の、従魔具のせい?」
二匹のデッドヒートを見つめながら、楓はそんなことを呟いた。
「それは絶対にないわ、カエデ!」
「そうよ、カエデさん」
楓の呟きはティアナとセリシャの耳にも届いていた。
だからこそ、二人は楓の言葉を否定した。
「あなたの従魔具は、従魔のことを思って丁寧に作られた、完璧な従魔具よ」
「セリシャ様の言う通りよ! だから、カエデが責任を感じる必要なんてどこにもないの!」
「……そうかもしれませんが、でも」
そうこうしている間に、ライゴウが先頭で三周目に入ってしまう。
カリーナも差を縮めながら続き、最下位との差まで縮まっていく。
(お願い。ライゴウさん、カリーナ様。無事にゴールしてください!)
二匹のデッドヒートを見守りながら、楓は両手を重ね合わせて祈りを捧げる。
するとここで、運営から声が上がる。
「最下位の従魔はコースを外してください! これは命令です!」
運営が最下位の従魔の主の命令を下した。
これで一安心――かと思われたが。
「なんでだよ! まだ最下位を逃れることができるってのに!」
最下位の従魔の主は、最下位のままでは終われないと命令に逆らおうとしていた。
「重大事故に繋がります! あなたの従魔も怪我では済まないかもしれないんですよ!」
「あいつは頑丈だから問題ない! だったら先頭の奴らに注意しろよ!」
「これは速さを競う競技です! 周回遅れになる場合は、即座にコースから外れるようルールにも記載があります!」
過去、このルールが適用されたことは一度しかない。
それは、従魔大運動会の第一回の時だけだ。
「そんなルール知るかよ!」
「従わなければ即失格となります! お願いです、コースを外れてください!」
従えば最下位が確定。
しかし、従わなければ結局は失格となり、参加自体が意味をなさなくなる。
その事実を知った最下位の従魔の主は、舌打ちをしながらもルールに従うことにした。
「高度を下げろ!」
最下位だった従魔はゆっくりと高度を下げていった――直後である。
――ゴウッ! ゴウッ!
先ほどまで従魔がいた場所を、ライゴウとカリーナがトップスピードで通り過ぎた。
判断があと一秒でも遅ければ、間違いなく重大事故になっていただろう。
「ヂギヂギヂギイイイイッ!!」
「ギュルラアアアアアアアアッ!!」
最終コーナーを曲がり、最後の直線に差し掛かった二匹は、大きく鳴いた。
身体をかすめるほどの距離まで迫り、ついにカリーナがライゴウに並んだ。
そして――
――パンパンッ!
二匹はほぼ同時に、ゴールを通過した。
「……ど、どっちが一位、なの?」
「ぜんっぜん分かんねえ!」
「どうなっちゃうの?」
楓の呟きにリディが声を上げ、ミリーはハラハラした表情を浮かべている。
すぐにはどちらが一位なのか判断できず、運営たちが集まって協議を始める。
それからしばらくして、アナウンスが行われた。
『――えー。先ほどの大型従魔飛行部門ですが、一位と二位が接戦のままゴールを通過いたしました。複数人の目から見た結果を協議し、今回の一位は――同着となりました! よって、ライゴウとカリーナ、両名とも一位となります!』
アナウンスが行われた直後、会場中が大歓声に包まれた。
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