第157話:小型従魔かわいい部門
飛行部門も終わり、ついに小型従魔最後の部門が開始される。
「かわいい部門だよ! リディ君、ミリーちゃん!」
気合いの入った声を上げた楓は、肩に乗っているピースを横目に見る。
「キャッキュキイイキョキャリュリョ……キキュキ!(カッコいいおいらが優勝できるか……楽しみだな!)」
ピースも楽しみにしているのか、そんな思いを口にしていた。
「ピースなら絶対に優勝できるって!」
「頑張ってね、ピース君!」
「キュン!(うん!)」
二人からもエールを貰ったピースと共に、楓はかわいい部門が開催される会場へ向かう。
かわいい部門には多くの従魔がエントリーしており、既に会場はごった返している。
楓とピースも列に並び、受付を済ませた。
「カエデ様にピース様ですね。受付番号77番になります。五匹ずつ舞台に上がってもらいますので、一六組目でご案内いたします。少々お待ちください」
受付嬢から説明を受けた楓たちは、同じ組で出場する人たちが集まっている待機場所へ向かう。
「あ! カエデ様!」
「あれ? あなたは商業ギルドの!」
「はい! アンです! この子はバブルスネークのバルク! 覚えていてくれたんですね!」
同じ一六組には、楓がオーダーメイドで従魔具を作った商業ギルドの職員アンと、その従魔であるヘビに似た従魔のバルクがいた。
「エリンさんとハオ君、すごかったね!」
「本当ですよね! 私、ものすごい大きな声で応援しちゃいました!」
「私もー!」
先ほど行われていた飛行部門の話で盛り上がっていると、かわいい部門が始まり、一組目が舞台に上がった。
会場からは黄色い歓声が上がり、それは二組目、三組目と進んでも変わらない。
時折、大歓声が起きることもあり、その度に楓とアンも舞台を見ては、「「かわいい~!」」と声を上げていた。
そうしていると時間は進んで行き、気づけば一五組目が舞台に上がっていく。
「次ですね!」
「はい! ……な、なんだか、緊張してきました!」
楓が次だと口にすると、アンは声を震わせながら緊張を伝えた。
「シュルルララ」
するとバルクがアンの首にぶら下がり、顔を頬に近づけて舌でちょろちょろと舐める。
バルクなりに励ましているのだろう。それをアンも理解していた。
「……ありがとう、バルク」
「シュララ」
お互いに理解し合っているからこそ、こうして励ますことができるのだと、楓は微笑ましくアンとバルクを見ていた。
「キュキキ、キャキュゲ(ねえねえ、カエデ)」
「どうしたの、ピース?」
するとここで、ピースが楓に声を掛けてきた。
「キュイリュリュキャキュウッキ?(舞台で魔法って使える?)」
「え? ど、どうなんだろう?」
一五組目まで進んだところで、舞台上で魔法を使った従魔はいなかった。
「……あの、すみません」
そこで楓は、従魔大運動会を運営している職員に声を掛けた。
「はい、なんでしょうか?」
「舞台上で従魔が魔法を使うことは可能ですか?」
「魔法ですか? ……少々お待ちください」
そう口にした職員は、早足でどこかへいってしまう。
その間にも一五組目の審査は進んでおり、楓はそわそわし始める。
「一六組目の方は準備をお願いしまーす!」
そこへ進行役から声が掛かった。
(……仕方ない! 失格になるのは嫌だし、ここは魔法なしで――)
「お、お待たせいたしました!」
楓が魔法なしでとピースに伝えようと思ったところへ、今度は駆け足で職員が戻ってきてくれた。
「す、すみません! 変な質問をしてしまって!」
「とんでもございません! 魔法の使用は危険がなければ問題ない、とのことで確認が取れました!」
「カエデ様ー! カエデ様とピース様ー!」
職員の答えを聞いたところで、進行役から名指しで呼び出しを受けてしまう。
「あ! はーい! すぐにいきまーす! あの、ありがとうございました!」
「いいえ! かわいい部門、頑張ってくださいね!」
質問をした職員からもエールを貰い、楓は笑顔で会釈をしてからアンたちが待つ舞台袖へ急いだ。
「すみませんでした!」
「大丈夫ですよ。それでは、76番の方から順番に舞台へお願いいたします」
76番だったアンが歩き出し、それに楓が続く。
舞台に上がると、観客席からは大歓声が聞こえてくる。
(……ヤバい。私も緊張してきた!)
注目されるのは従魔たちなのだが、一緒に舞台に上がったこともあり楓は徐々に緊張していく。
「カエデ姉ちゃーん! ピースー!」
「頑張ってくださーい!」
「犬っちー! ファイトー!」
「ピース君! かわいいですよー!」
すると観客席の真ん中あたりで、リディとミリーの声が聞こえてきた。
二人だけではなく、いつの間にか合流していたアリスと鈴音の声も聞こえる。
声の方へ視線を向けると一生懸命に応援してくれている四人の姿を見つけ、楓の緊張は一気に解けた。
「それでは最初に、エントリーナンバー76! バブルスネークのバルク君! お願いしまーす!」
司会の職員がそう伝えると、アンとバルクが一歩前に出る。
そしてバルクが床に下りてさらに前に出ると、照明が彼に集まる。
「シャアアアア!」
甲高い鳴き声を上げながら、バルクは白い鱗に照明を反射させながらポージングを取っていく。
反射した光が観客席にも届き、キラキラとした光景が舞台に作り出される。
「「「「うおおおおおおおおっ!!」」」」
「「「「きれい! かわいいー!!」」」」
今までで一番の大歓声が響き渡り、アンの出番は終わった。
「続きまして、エントリーナンバー77! ハピリスのピース君! お願いしまーす!」
ついにピースの出番になった。
楓が一歩前に出ると、肩に乗っていたピースがぴょんと飛び降りてさらに前に出る。
「……キュキュ」
まるで紳士のように会釈をしたピース。
そこへ照明が集まると、ピースはすかさず水魔法で水の球を複数作り出し、ぷかぷかと浮かび上がらせた。
「なんだ? 魔法か?」
「何が起きるのかな?」
観客席からざわめきが聞こえてくるも、ピースは気にすることなく水の球を操作し、パンッと割ってしまう。
すると水の球は霧に変わり、舞台を薄っすらと白く染め上げた。
――キラキラキラキラ。
照明の光が霧に反射し、先ほどバルクが見せた反射の光よりもより細やかな、そして幻想的な光景をピースは作り出した。
その幻想的な光の中でピースは飛び跳ね、大きな瞳で何度も瞬きを繰り返し、舞台全体を使ってかわいいをアピールし始める。
間違いなくかわいい。それは主という贔屓目なしでも間違いないと楓は思っていた。しかし――
(……な、なんで観客席から、声が上がらないの? もしかして、魔法がダメだった?)
職員でもすぐには答えられなかったということは、魔法を使ってかわいいをアピールする従魔がいなかったからではないかと、楓は考え始めた。
それ故に、公平ではないと判断されたのではないかと思ったのだ。
そんな中でもピースは動きを止めることなく、制限時間いっぱいまでかわいいをアピールしてくれた。
「キュキキュー!」
ようやく戻ってきたピースが楓の前で汗を拭うと、すぐに振り返り観客席へ最後にもう一度、紳士然とした会釈を行った。
「す、すげええええええええっ!!」
「何よ今の!? かわいすぎて声が出なかったんだけど!!」
「ピースくん、しゅごーい!」
直後、観客席から今日一番の大歓声が巻き起こった。
あまりの大歓声に楓はポカンと口を開けたまま固まってしまい、ピースはアイドル張りに両手を振りながら歓声に応えていた。
「……はは……ピース、すご」
思わずそんな感想が零れる中、かわいい部門は進んで行く。
結果――ピースは圧倒的大差で優勝となり、バルクが準優勝でかわいい部門は幕を下ろした。




