第148話:大盛況の従魔具店
王都から帰ってきた楓は、オルダナの指示通りに一日をしっかり休んだあと、従魔具作りに没頭していた。
既製品の従魔具が品切れに近い状態になっていたからだ。
休みをもらった翌日から三日が経ち、最近になってようやく在庫も充実してきている。
ここまで売れるとは楓も想定外だったのだが、他の従魔具店の従魔具よりもオシャレであり、性能もいいのだと噂が出回っているようだった。
「従魔のためとはいえ、大変ですね、オルダナさん」
既製品を作りながら、楓は一緒に作業をしているオルダナへ声を掛けた。
「嬉しい悲鳴ってやつか? まあ、従魔のためだと思えば、これくらいどうってことないがな」
「あはは! 確かに、その通りですね!」
従魔ファーストを掲げて展開を改装した、楓とオルダナが共同経営をしているこの従魔具店は、中型従魔までであれば店内でくつろげるくらいの広さを店内に確保している。
それは少しでも主と従魔を離したくないという、楓の考えから決めたことだ。
「キュキキュキャキュゲ!(頑張れカエデ!)」
「ありがとう、ピース」
従魔具作りに励んでいる楓の肩の上には、彼女の従魔であるピースが乗っていた。
ピースの従魔具は上下の衣服で、アクセサリーも楓が完全オーダーメイドで作ったものだ。
「……ピースは新しい従魔具が欲しくなったりしないの?」
ふと、そんなことを楓はピースに聞いてみた。
「ギュギャキュギ!(ならないよ!)」
「そうなの?」
「キュキギャキュキュキャイギュイキリュイ!(これがおいらの最高の従魔具だからね!)」
「……そっか。ふふ、ありがとう」
ピースの答えを聞いた楓は思わず嬉しくなり、微笑みながらそう口にした。
「――いらっしゃいませ!」
「――店内のカタログから商品をご覧ください!」
すると店舗の方から、リディに続いてミリーの声が聞こえてきた。客がやってきたのだ。
二人も仕事に慣れてきており、接客や会計も任せられるようになっている。
これなら楓とオルダナが店頭に出なくても問題はないと、今もこうして従魔具作りに励むことができていた。
「「――ありがとうございましたー!」」
しばらくして、リディとミリーの挨拶が聞こえ、楓は自然と笑みを浮かべる。
「嬢ちゃんがいない間も、こうやって頑張ってくれていたんだぜ?」
「本当に、二人は頼もしいです」
そんな話をしながら、楓とオルダナは今日一日を従魔具作りに費やしていった。
そして、その日の閉店間際。
「やっほー、カエデー!」
従魔具作りをひと段落させ、店内の掃除をしているところへティアナが姿を見せた。
「お疲れ様です、ティアナさん」
「カエデも、みんなもお疲れ様!」
ザッシュの一件があり、ティアナは閉店間際の時間になると毎日、楓のことを迎えに来てくれている。
とはいえ、ザッシュは捕まり鉱山送りにされている。
これ以上何かをされるということもないのでティアナが迎えに来る必要はないのだが、彼女はこうして足を運んでくれている。
楓から迎えは必要ない、ティアナの時間を大切にするよう伝えていた。
しかしティアナは「それならカエデと一緒にいる時間が大切だから問題ないわね」と言われてしまい、嬉しい反面、そう言われると何も言い返せないと渋面になってしまった。
「本当にお迎えはいらないですよ、ティアナさん?」
「私が好きでやっていることだし、気にしないで!」
「それはそうなんですけど……」
「……はっ! もしかして私、迷惑だった?」
「そ、そんなことないですよ! 嬉しいです!」
楓が断りを入れようとすると、ティアナは本気なのか冗談なのか、悲しそうにそう言ってくるので、楓としても邪険にはできなかった。
そして、心配してくれているのはティアナだけではない。
「カエデさん! ティアナさんと一緒に帰ってくださいね!」
「俺も姉ちゃんにまた何かあったら、嫌だからな!」
ミリーとリディまでもが、ティアナと一緒に帰るよう言ってくるのだ。
特にミリーは、自分から楓へ先に帰ってもいいと言っていたからか、過度な心配を向けるようになっている。
これも嬉しい気持ちはあるものの、ミリーにはもっと自然体でいてほしいとも思えてならない。
「こっちは俺たちで終わらせておくから、嬢ちゃんは帰んな」
「いいんですか、オルダナさん?」
「ティアナを待たせるのも悪いしな。それに、明日はティアナとセリシャ様と出かけるんだろう? 準備もあるだろうし、構わねえよ」
オルダナが言ったように、明日は楓の休日になっている。
既製品の在庫も十分になってきたので、オルダナが休みにしてくれたのだ。
「……分かりました。それじゃあ、お言葉に甘えてお先に失礼します」
「おう! 明日はゆっくり羽を伸ばして、明後日からまたよろしく頼むぜ!」
「「お疲れ様でした!」」
「うん、お疲れ様」
オルダナ、リディ、ミリーに声を掛けた楓は、ティアナと一緒に従魔具店をあとにする。
「ねえ、カエデ。明日なんだけど、どこに行くとか決まってるの?」
通りを歩きながら、ティアナがそんなことを聞いてきた。
「実は、私も知らないんです。セリシャ様がオススメのお店に連れて行ってくれるって聞いているんですけど、それだけで……」
「ふーん……まあ、セリシャ様オススメのお店なら、間違いないか! 楽しみだなー!」
「うふふ。そうですね」
明日は楓、ティアナ、セリシャの三人での女子会だ。
王都からバルフェムへやってきているアリスと鈴音も一緒に行けたらよかったのだが、今回は冒険者ランクを早く上げたいということで、断わられてしまった。
「あの、ティアナさん。アリスちゃんたちは――」
「宿についたわね!」
疑問を口にしようとした楓だったが、話をしながらの道中はとても早く、あっという間に宿に到着してしまった。
「ん? 何か言った、カエデ?」
「いいえ、なんでもないです。それじゃあティアナさん、また明日」
「えぇ! また明日ね、カエデ!」
急ぎの内容でもなく、楓はティアナの時間を取るわけにはいかないと思い、その場で別れることにした。
(明日も時間はあるし、その時に聞いてみようかな)
そんなことを考えながら、楓はティアナを見送った。
「……うふふ。明日、楽しみだな~」
そして、ウキウキ気分のまま部屋に戻ると、楓はいつもよりも早く就寝したのだった。




