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異世界従魔具店へようこそ!〜私の外れスキルはモフモフと共にあり〜  作者: 渡琉兎


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第142話:鈴音の文句と選択

「まずはあの女の人ですよ! ラカーシャ王国の第三王女、エレーナ・ラカーシャ!」


 他国の王族をいきなり呼び捨てにしてしまい、楓のハラハラは増すばかりだ。


「王族なの? みっちーの奴、マジで半殺しにしてやろうかしら?」

「でもその人……うぅぅ。私から見ても、本当にきれいな人なんです。だから、私のこれは嫉妬なんです~!」


 文句を言ってやると意気込んでいた鈴音だが、今度は突然泣き出してしまう。

 ここまで情緒不安定では、話をするのも大変ではないかと楓は鈴音の隣に移動して、優しく背中をさすってあげる。


「大丈夫、有明さん?」

「はい……ありがとうございます、犬山さん」


 涙を拭いながら、鈴音は楓にお礼を伝える。


「でもさー。みっちーって鈴っち一筋だったじゃん? それなのにいきなり出てきた王族女に一目惚れしちゃうかなー?」


 アリスは鈴音だけではなく、道長のこともよく知っている。

 だからこそ、道長がポッと出の女性に一目惚れしたと聞いた時は苛立ちもしたが、同じくらい疑問も感じていた。


「私もおかしいなと思ったんです。だけど、あの時の目は間違いなく惚れた相手を見る目でした。それ以降も、話の中にちょくちょくエレーナの名前が出てきたり、アッシュ様がエレーナと会う時には護衛としてついて行ったり――」

「え? その場にはアッシュ様もいたの?」


 楓が驚きの声を漏らすと、鈴音は小さく頷く。


「はい。元々、ケイル様がいない間の護衛を私と道長君が引き受けていて、アッシュ様は外交としてエレーナと会っていたんです。……まあ、私から見たら、ただの雑談だったんですが」


 苦笑いしながら鈴音が答えると、楓はやや思案顔になる。


「どうしたの、カエデ?」


 そこへティアナが声を掛けた。


「……アッシュ様は、有明さんと神道君が付き合っていることを知らないのかなって」

「知らないと思います。私たちも自分たちから言うようなことはしていませんし」

「まあ、そうだよね。自分たちの恋愛についてなんて、わざわざ言わないわよね」


 そこまで聞いた楓は、ふと思いついたことを口にしていく。


「これはあくまでも私の思いつきなんだけど、アッシュ様は神道君にこの世界に残ってもらいたくて、女性との外交の場に護衛として立たせているんじゃないかしら?」

「えぇっ!? それ、どういうことですか!!」


 楓の言葉に鈴音は身を乗り出して鈴音が声を上げた。


「あ、あくまでも思いつきだよ? ……神道君のこっちの世界の女性と付き合ってもらって、最終的には結婚してもらう。そうしたら、元の世界に戻りたいなんて思わないんじゃないかなって?」


 楓が言葉の意図を説明すると、鈴音は何も言えないまま俯いてしまう。


「……もしかして、あーしがお城を出たから? アッシュ様を焦らせちゃったかも?」

「分からないけど、その可能性もあるかもしれないかな。でも、本当に私の思いつきだからね?」


 思いつきなのだと何度も念を押す楓だが、鈴音は俯いたまま動かない。

 アリスも自分のせいなのかもしれないと思い始めたのか、表情が暗くなってしまう。


「……それ、半分正解かもしれないわね」


 するとここでティアナが口を開くと、鈴音とアリスが弾かれたように顔を向ける。


「半分って、どういうことですか、ティアナさん?」

「アッシュ様にそういう意図があった可能性は捨てきれない。だけど、好きな人が隣にいるのに、初対面の女性に一目惚れするなんてこと、あると思う?」


 ティアナの言葉を受けて、冷静に考えてみればおかしな話だと理解できてしまう。

 しかし、実際に隣に立っていた鈴音がそう感じているのだから、楓としてはそこを信じることしたできないでもいる。


「私が間違っているって言いたいんですか?」


 すると鈴音は自分を否定されたと思ったのか、怒った表情でティアナを見た。


「違うわ。私が言いたいのは、そのエレーナっていう王族が何かしたんじゃないかって話よ」

「何かって……何ですか?」

「例えば……スキルで相手を自分に惚れさせる、とか?」


 ティアナの話も、言ってしまえば楓と同じで、思いつきの話である。

 しかし、冷静になって考えてみた時、恋人が隣にいるにもかかわらずいきなり別の人を好きになるだなんてことは、特別な力が働かなければあり得ないと思えてならい。


「でも、そんなスキルがあるんですか?」

「実際に見たことはないけど、聞いたことはあるかな。魅了、だったかしら?」

「もしかして、そのエレーナって人がスキルを使って道長君を!?」

「あくまでも可能性の話ね。確証はないからなんとも言えないけど」

「そう、ですよね……」


 ここでまた俯いてしまった鈴音。


「……あれ? でも、鈴っちのスキルって〈聖女〉だったよね? もしもみっちーが魅了されてたら、それって治せないの?」


 アリスの何気ない一言が、鈴音を勢いよく立ち上がらせた。


「私、道長君のところへ行ってくる!」

「だ、大丈夫なの? 有明さん?」

「大丈夫です! アリスちゃん、行こう!」

「あ、あーしも?」

「私たちもいこう、カエデ。なんだかあの子、心配だわ」

「そ、そうですね」


 結局、全員で道長のところへ行くことになり、楓たちは鈴音の部屋をあとにした。

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