第138話:楓の選択
「なんと!? カエデはレベルEX持ちだったか!!」
「まさか! ということは、カエデ様が本来の!!」
エルデクスとケイルが声を上げたが、驚いていたのは二人だけではない。
道長、鈴音、アリスも顔を見合わせている。
「……どういうことだ?」
「……レベルEXって?」
「犬っちがすごいってこと?」
三人が困惑の声を漏らしていると、アッシュは視線を魔導スクロールからレイスへ向ける。
「どういうことだ、レイス!」
「ど、どうと言われましても……最初に魔導スクロールで鑑定をした結果は、兄上もご覧になられたでしょう!」
「それはそうだが、いや、しかし……」
ここでレイスを責めても意味がないと分かっているのか、アッシュはすぐに言葉を呑み込む。
実際にはレイスが秘匿したからこそ、カエデがレベルEX持ちだと知られずに済んだのだが、それを口にするような彼ではない。
謁見の魔の雰囲気を見極めようと、レイスは視線をエルデクスや楓たちに向けていく。
「……ふむ。であるならば、そちらの二匹の従魔が身に着けている従魔具は、カエデが作ったものではないのか?」
するとここで、エルデクスから楓に声が掛かった。
「え、あ、はい! その通りでございます、陛下!」
「そうか。……美しい従魔具であるな」
ティアナの横に座るレクシアと、楓の肩に乗るピースを見ながら、エルデクスは柔和な笑みを浮かべる。
「ライゴウという大型従魔の従魔具も素晴らしいと聞いているが、何か特別な能力があったりするものなのか?」
「私の従魔、ピースの従魔具には水魔法を向上させる能力がございます。あと、本人の希望でカッコよくなれるよう工夫しました」
「ん? 本人の希望だと?」
楓の言葉にはエルデクスだけではなく、アッシュとケイルも首を傾げている。
「私のサブスキル〈翻訳〉は、魔獣の声を翻訳してくれるのです」
「「「……な、なんだとおおおおぉぉっ!?」」」
従魔の声を聞ける理由を説明すると、エルデクス、アッシュ、ケイルから驚きの声が上がった。
「レイス!」
「ですから、僕も知りませんってば! 兄上も一緒に見たと先ほど言いましたよね!」
「ぐ、ぐぬぬっ!?」
アッシュはここまでのやり取りが全て信じられないのか、何度もレイスに声を掛けている。
しかしレイスの答えは変わることがなく、感情のはけ口が見つからないように思えた。
「そ、それならば、そちらの中型従魔の従魔具はどうなのだ?」
「えっと、それは……」
ピースの従魔具であれば、自分が主なので答えても問題ないと判断した楓だったが、レクシアのこととなるとそうはいかない。
レクシアの主であるティアナの許可なく、楓が勝手に口にするのはどうかと思ったのだ。
「構わないわよ、カエデ」
するとここで、ティアナが楓の心配に気づきそう答えた。
「いいんですか、ティアナさん?」
「陛下のお言葉よ? 断れないし、そもそも断る理由もないもの」
「……ありがとうございます、ティアナさん」
ティアナから許可を得たことで、楓は小さく息を吐いてから答えていく。
「ティアナさんの従魔、レクシアさんの従魔具には、火魔法を向上させる能力がございます。また、レクシアさんからはティアナさんと並んで戦いたいという希望がありましたので、火魔法の制御もしやすくなるよう、そして動きの邪魔にならないような従魔具を作りました」
「主想いの良い従魔であるな。しかし、美しい従魔具を作るのだな、カエデは」
ピースとレクシアの従魔具を見ながら、エルデクスはそう口にした。
「従魔具は従魔の一部。であるならば、従魔が最も映える従魔具であるべきだと考えて作っております」
「なるほど。従魔具は従魔の一部か。確かにその通りやもしれんな」
納得顔で頷きながら、エルデクスは当たり前のように言葉を続ける。
「どうだ、カエデよ? 王家専属の従魔具職人にならぬか?」
まさかの発言に、楓の心臓は大きく跳ね、その後は早鐘を打ち始める。
バルフェムに帰り、自らの従魔具店で自由に生きていくつもりだった楓にとって、エルデクスの言葉は受け入れたくないものだった。
しかし、相手は一国の王であり、楓はその国で暮らしている。
断れば国を追い出されるか、もしくは不敬だと極刑に処されるかもしれない。
そう考えると、すぐに答えることができないでいた。
「……どうした、カエデ? 陛下のお言葉だ。答えは出ているだろう?」
「そ、それは……」
アッシュが催促するも、楓は言葉を濁すだけ。
王命にもなり得るエルデクスの言葉なのだから迷う必要はないと、アッシュは本気で思っているため、楓の態度に苛立ちが募っていく。
「あなた。それにアッシュも。女性の方を困らせてはいけませんよ」
するとそこへ、聞いたことのない女性の声が謁見の間に響き渡る。
楓が声の方へ視線を向けると、そこにはややほっそりしているものの、気品の良さが窺える美しい女性が立っていた。
「おぉ。アリシャも来たのだな」
「母上!」
「お身体は大丈夫なのですか?」
「うふふ。大丈夫よ。ありがとう、レイス」
現れたのは、エルデクスの妻であり、アッシュとレイスの母でもある、王妃のアリシャ・フォルブラウンだった。




