第137話:陛下との謁見
「――アッシュ王太子殿下! 並びにレイス殿下! 以下、要人の入場を許可いたします!」
謁見の間の前に立つ騎士から、そんな声が響き渡った。
直後から二メートルを超える巨大な扉が開いていく。
両開きの扉が完全に開かれると、アッシュが最初に歩き出し、続いてレイス、ケイルとミリア、道長と鈴音、最後に楓たちが入場する。
全員が謁見の間に入ると、扉は閉じられていく。
「僕たちの動きを真似してください」
赤絨毯の上を進みながら、レイスが小声でそう口すると、楓は小さく頷く。
謁見の間は大人が一〇〇人は余裕で入れるくらいに広く、奥行きがある造りになっている。
一番奥には段々と高くなっている場所があり、その中央に豪奢な椅子があるのだが、そこに一人の偉丈夫が腰掛けている。
漂わせている雰囲気から、彼を知らない相手でもすぐに分かるだろう。
(……あの人が、陛下だ)
小さく深呼吸をしながら歩いていくと、前を歩いていたアッシュたちが立ち止まったため、楓たちも立ち止まる。
「陛下。異世界召喚で呼び出したミチナガ・シンドウ、スズネ・アリアケ、アリス・オオミネ、カエデ・イヌヤマをお連れしました。また、カエデは一時期王都を離れており、その護衛としてSランク冒険者のヴィオン、ティアナが同行しております」
片膝をついたアッシュが楓たちのことを説明すると、レイスたちも片膝をつき、楓たちもそれに習う。
「……そなたたちが、王妃の病を治すのに尽力してくれたことは聞いておる」
陛下の声が謁見の間に響き渡る。
静かに語り掛けるような声音だが、不思議と胸に響く、この言葉は聞かなければならないという想いに駆られる重みのある声だ。
「直答を許す。顔を見せてくれるか?」
「はっ!」
陛下の声を受けてアッシュたちが立ち上がったため、楓たちは一度顔を見合わせると、恐る恐るといった感じで立ち上がる。
「我はフォルブラウン王国の国王、エルデクス・フォルブラウンである。異世界からの勇者たちよ、名を聞かせてくれるか?」
「ミ、ミチナガ・シンドウです!」
「スズネ・アリアケ、です」
「アリス・オオミネっす!」
「……カエデ・イヌヤマです」
道長と鈴音は緊張しながら、アリスはいつも通りに、そして楓は警戒しながら名乗った。
そんな四人の様子を見つめながら、エルデクスは柔和な笑みを浮かべる。
「そう緊張することはない。我は今回、そなたらに礼を伝えたかったのだ」
それからエルデクスは、それぞれの活躍を口にしながら、一人ひとりに感謝を伝えていく。
道長、鈴音、アリスと続き、最後は楓なのだが、彼女の場合は何もしていない。
否、ライゴウの従魔具を作ったという実績はあるが、そのことを陛下が知るはずもなく、もしかすると王城を去ったことへの非難が飛び出すのではないかと身構える。
「最後に、カエデ・イヌヤマ。そなたはSランク冒険者ヴィオンの従魔、ライゴウの従魔具をギリギリまで製作し、それをもって薬草の採取に協力してくれたと聞いておる。本当にありがとう」
「え? ……あ、は、はい! そのようなお言葉、感謝の極みでございます!」
まさか自分が従魔具職人で、ライゴウの従魔具を作ったことまで知られているとは思わず、驚きのまま口を開いた。
「……ふふ。我が知らぬと思ったか?」
「……申し訳ございません」
「よい。報告を受けたのもつい先ほどだからな」
エルデクスの言葉を受けて、楓はケイルが報告したのだろうと察した。
「しかし、カエデのスキルは〈従魔具職人〉だと聞いていたが、それだけでは大型従魔の従魔具を作るのは難しいはず。さらに、その性能も規格外だと聞いた。ここで改めて、そなたのスキルを鑑定させてもらってもよいだろうか?」
「……仰せのままに」
陛下の言葉は王命でもある。
楓が断れるはずもなく、すぐに召喚された時と同じ魔導スクロールがケイルによって用意される。
「これは王国所属の筆頭魔導師自らが鑑定魔法を施した魔導スクロールだ。前回のは不良品だった可能性もあり、こちらで準備させてもらった」
実は前回のも不良品ではなく、召喚されたばかりの楓にスキルが完全に定着していなかっただけなのだが、それを知るのはレイスとミリアだけなので何も言わなかった。
「さあ、広げてみてくれ」
「……はい」
ケイルから魔導スクロールを受け取った楓は、小さく息を吐いてからスクロールを広げる。
――カッ!
広げられた魔導スクロールは内側から白い光が放たれると、その光が楓を包み込んでいく。
ここまでは前回と全く同じだったのだが、楓を包み込んでいた光が突然、金色に輝きだした。
「な、なんだこれは!?」
「前回は、このようなことは!?」
アッシュが驚きの声を上げると、レイスも困惑の声を漏らす。
エルデクスは目を見開いたものの、声を発することはなく、ただ楓のことを見守っている。
(え? えぇ!? な、何が起きているの!!)
驚いているのは楓も同じだ。
ようやく光が落ち着くと、魔導スクロールに金色の文字で楓のスキルが記されていた。
「アッシュ」
「はっ!」
エルデクスが名前を呼ぶと、アッシュは返事をしてから楓の前に立つ。
「渡してもらってもいいか?」
「……はい」
チラリと見えた楓のスキル名に、彼女はため息を吐きながら魔導スクロールをアッシュに手渡した。
「先ほど光はいったい……なっ!?」
アッシュの驚きの声を聞いて、楓は『やっぱりか』と内心で思ってしまう。
「どうしたのだ、アッシュ?」
「……カ、カエデのスキルは……〈従魔具職人EX〉! サブスキルが〈翻訳〉です、陛下!」
アッシュの言葉に、エルデクスとケイルは驚きの表情を浮かべた。




