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異世界従魔具店へようこそ!〜私の外れスキルはモフモフと共にあり〜  作者: 渡琉兎


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第136話:二度目の王城

 鍛え上げられた馬に、空を進むライゴウ。

 これで行軍速度が遅いはずがない。

 楓がティアナと王都からバルフェムまで向かった時は、朝早くに出発して夕方前に到着した。

 ならば馬とライゴウでなら、そう時間は掛からない。

 バルフェムを出発してから三時間ほどで、楓たちは王都に到着した。


「……あっという間でしたね」


 思わず楓が呟くと、ティアナが笑いながら答える。


「私と歩いた時は、休憩で昼食を作ってもらったもんね」

「あの時が懐かしく感じます」


 楓がティアナと笑い合っていると、先にライゴウから下りていたヴィオンが手を差し出す。


「カエデさん、掴まってくれ」

「ありがとうございます」


 ヴィオンの手を取り、楓はライゴウから下りる。

 ティアナとアリスは自分で華麗に下りた。


「ここからは歩きになるよ」

「分かりました」


 レイスが声を掛けてくれたので、楓は返事をしてから一緒に歩き出す。

 第二王子殿下を歩かせていいのかと思わなくもなかったが、レイス自身が歩きになると言ったので、何も言わないことにした。

 だが、ミリアだけではなくケイルもチラチラとレイスを見ていることから、本来は別の移動手段があったのではないかと思わなくはない。


「……皆さんを置いて、僕だけが先に王城へ戻るわけにはいきませんからね」


 楓の心配に気づいたのか、レイスは苦笑しながらそう教えてくれた。


「それに、お城まではそこまで遠くもありませんから。ほら、もう着きますしね」


 そんな会話をしながらだったからか、あっという間に王城へと続く跳ね橋へ到着した。


「ケイル・ヴォイドだ。皇太子殿下の命により、要人を連れてきた」


 ケイルが門番に声を掛けると、すぐに跳ね橋が下ろされていく。

 完全に跳ね橋が下りると、楓は二度目の王城へ足を踏み入れた。


(……なんだか、緊張してきたな)


 平気なつもりでいた楓だが、いざ王城に足を踏み入れると緊張で体が震えてしまう。

 このままバルフェムに帰れなくなったらどうしようという不安が脳裏に浮かんでしまったのだ。


「大丈夫だよ、カエデ」


 そこへティアナの声が聞こえてくると、彼女は楓の手を優しく握りしめた。


「ティアナ、さん?」

「何があっても、私がカエデをバルフェムへ連れ帰ってあげるわ」

「俺も協力しよう」

「あーしも!」


 ティアナの決意の言葉に、ヴィオンとアリスも同調してきた。


「キュッキュキュン!(おいらもだよ!)」

「ココンコン!」

「ヂギヂギギ!」


 続けてピースがそう口にすると、レクシアとライゴウも同じだと言うように鳴いた。


「みんな……ありがとうございます。だけど、大丈夫です」


 三人と三匹の言葉はとても心強く、楓の不安は吹き飛んでしまった。


「これは私の問題ですから、私がしっかりと答えを出さなきゃいけないんです」


 そんな楓の言葉を受けて、ティアナ、ヴィオン、アリスは大きく頷く。


(……これは、やっぱり僕も覚悟を決めた方が良さそうだな)


 楓たちの会話は、前を歩いていたレイスの耳にも届いていた。

 レイスも楓の選択を尊重しており、万が一があれば彼女を守るつもりでいる。

 そして、今回の会話はレイスの決意を強固なものにすることになった。


(兄上がなんと言おうと、僕がカエデ様を絶対に守る。これだけは兄上に負けるわけにはいかない)


 強い決意を持ちながら歩いていると、向かう先に三人の人影を見つけた。


「兄上。それに、ミチナガ様にスズネ様」


 楓たちを待っていたのは、彼女を呼びつけたアッシュに、異世界召喚でこちらの世界へやってきた道長と鈴音だった。


「戻ったか、レイス。ケイルとミリアもご苦労だった」


 アッシュはレイスたちに声を掛けたあと、視線を楓へ向ける。


「カエデもよく戻った。これから陛下との謁見を予定しているから、ついてこい」

「分かりました。……へ? え、謁見、ですか?」

「そうだ。……ん? 聞いていないのか?」


 当然だろうと言いたげなアッシュを見つめながら、楓はガクガクと震えながらレイスを見る。


「ぼ、僕も知らなかったんだ! 信じてほしい!」


 レイスの言葉を受けて、楓は次にケイルを見た。


「……言わなかったか?」

「言ってませんよ! なんでこんな大事なことを言わないんですか! 心の準備が必要でしょうに!」


 ここは既に王城だ。

 それにもかかわらず楓は怒声を響かせた。


「い、犬山さん! 落ち着いてください!」

「そうですよ!」


 するとここで、アッシュの後ろに控えていた道長と鈴音が楓に声を掛けた。


「神道君、有明さん……はぁぁ~。すみませんでした」


 長いため息を吐きながら、楓はケイルに謝罪を口にした。


「いや……私の方こそ、伝え忘れてしまい、申し訳なかった」

「もういいか? 陛下を待たせるわけにはいかんからな。あぁ、ヴィオン。大型従魔は王城へは入れないのだが、こちらの従魔房に預けてもらうことになるが、よいか?」


 アッシュはそう確認を取ったが、ヴィオンが断れるはずもない。


「かしこまりました」

「すまんな。では、行くぞ」


 ヴィオンの返事を聞いたアッシュは、騎士の一人にライゴウを従魔房へ連れて行くよう指示を出すと、踵を返して歩き出す。

 楓たちも慌てて歩き出すが、心の中ではいまだ気持ちの整理はついていない。


(いきなり謁見って、本当に大丈夫なんでしょうね? 礼儀知らずでいきなり不敬とか言われないわよね?)


 バルフェムに帰れなくなるかも、そう思ったものとはまったく別種の不安を抱きながら、楓は謁見の間へと向かっていたのだった。

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