第128話:激突
当初の予定通り、空からライゴウが先行し、匂いを追い掛けてラッシュとレクシアが地上を駆ける。
ライゴウに乗るヴィオン、ティアナ、アリスは、ピースの案内で先に楓が監禁されている洞窟の上空に到着した。
「あの中に楓がいるのね?」
「キュン!」
ティアナの問い掛けにピースが大きく頷く。
「なんだ、なんだ!」
「頭が言っていた奴だ! 叩き落せ!」
「叩き落せって、どうやってやるんだよ!」
洞窟の前には三人の見張りが立っていたのだが、彼らはライゴウのことをザッシュから聞かされていたようだが、どうやって戦えばいいのか全く分かっていなかった。
「ライゴウ、やれ」
「ヂギヂギヂイイイイッ!」
ヴィオンの言葉にライゴウが応える。
周囲にバチバチと音を立てる雷の球が顕現すると、それをライゴウは撃ち落とした。
一人に命中、残る二人は間一髪で回避したのだが、それで終わりではなかった。
「「あぎゃばばばばばばっ!?」」
地面に落ちた雷の球は、その場で弾けて地面を伝い、残る二人の見張りを感電させた。
その場に倒れ、動かなくなった三人の見張りたち。
「下ろしてくれ、ライゴウ」
ヴィオンの合図で高度を下げていくライゴウ。
そのまま洞窟の目の前に着地すると、ヴィオンとティアナはすぐに見張りたちを縛り上げていく。
「あ、あーしもやるし!」
遅れてライゴウから飛び下りたアリスも、最後の一人の両手両足を縛ると、二人の見張りが転がされている場所へ運んだ。
「これからどーするし?」
「当然、突入よ」
「レイス様たちを待たなくてもいいのか?」
「あの人なら、その場で正しい判断を下せるはずよ。それに、楓の無事を確認しないと、居ても立っても居られないもの」
ヴィオンが疑問を呈すると、ティアナは即答した。
それだけ、レイスに対する信頼が高いということでもある。
「……確かに、ティアナの言う通りだな」
「私が先頭に立つから、二人は後ろからついてきて――」
「待つし」
ティアナの言葉を遮るようにして、アリスが口を開いた。
「……何よ? 文句でもあるわけ?」
「違うし。あーしよりも二人の方が強いっしょ? だから、二人は強い奴と戦うために力を温存するべきっしょ? だから、あーしが最初に戦うべきっしょ!」
拳を握り、好戦的な笑みを浮かべながら、アリスはそう口にした。
「だけど、敵が一人や二人とは考え難いわ。それにあなた、人との戦いに慣れていないんじゃない?」
「それはそーだけど、犬っちがピンチなのに戦いたくないとか言えないっしょ。そんなことを言ってたら、ついてきた意味もないし」
ティアナの心配をよそに、アリスは人との戦いに覚悟を決めた表情でそう答えた。
「……そう。なら、分かったわ」
「いいのか、ティアナ?」
「本人がそう言っているんだもの。信じてあげてもいいんじゃないの?」
「おぉー! さすがティーちゃん! 分かってるー!」
「ティーちゃん言うな! ……でも、本当に気をつけなさいよ? 危ないと思ったら、迷わず前に出るからね?」
冗談を交えながらの会話だったが、その内容は全てが本音で語り合っている。
ティアナの言葉にアリスが大きく頷くと、そんな彼女の肩にピースが移動した。
「あーしと一緒に戦うの?」
「キュン!」
「……っし! そんじゃあ、一緒に犬っちを助けるっしょ!」
「キュンキュン!」
こうしてアリスを先頭に洞窟の中へ入っていた三人と一匹は、すぐにザッシュが集めた荒くれ者たちとぶつかった。
ティアナやヴィオンが前を進んでいたなら、狭い通路に剣が引っ掛かり上手く戦えていなかっただろう。
一方でアリスはその拳で、足で、目の前の荒くれ者たちを叩きのめしていく。
スキル〈武闘王〉が本領を発揮した瞬間だった。
「やるわね、アリスの奴」
「少しは認めたみたいだな」
「……スキル頼りじゃないことは、認めてあげてもいいわね」
「素直じゃないな」
「う、うるさいわね! どっちにしてもまだまだなんだから、もっと努力してもらわないとね!」
最初こそアリスと言い合いをしてしまったティアナだが、僅かな時間だが共に行動することで、ただうるさいだけの女性ではないことを理解していた。
だからこその言葉であり、今は頼りになる仲間だと思うようにもなっていた。
「聞こえてるよー! ティーちゃーん!」
「嘘でしょ!? 地獄耳じゃん!!」
「ありがとー! あーし、もっと頑張るしー!」
「う、うるさいわね! 戦いに集中しなさい!」
まさか聞こえているとは思わず、ティアナは照れ隠しでそう怒鳴りつけた。
「キュッキュギュウウウウッ!」
アリスの活躍を見たピースも負けじと水魔法で荒くれ者たちを倒していく。
ティアナとヴィオンは打ち漏らしを倒そうと思っていたのだが、一人として逃げ出してくる者はいなかった。
「終わったしー!」
「キュッキュキュー!」
ピースとハイタッチするアリス。
ティアナとヴィオンが合流すると、そのままさらに奥へと足を進めていく。
それからしばらくして――
「アリスちゃん! ピース! それに、ティアナさんにヴィオンさんも!」
洞窟の奥で、ついに楓を見つけることができた。




