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異世界従魔具店へようこそ!〜私の外れスキルはモフモフと共にあり〜  作者: 渡琉兎


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第121話:レイスとミリア

 ◇◆◇◆


「それでは、アリス様。カエデ様のことをお任せいたします」

「オッケー!」

「ピースもよろしくね」

「キュギュー!」


 ミリアがアリスへ、レイスがピースに声を掛けると、それぞれが力強く返事をしてくれた。


「レイス様、ミリア様。気をつけて」


 続けて楓が声を掛けると、レイスとミリアは街の中へ繰り出していく。

 今回、レイスとミリアは旅人としてバルフェムへやってきている。

 衣装もそれに倣ったものであり、街で怪しい人物がいなかったかを聞いて回るつもりだった。


「もちろん、無理はしません」

「私もいます、ご安心を」


 レイスの言葉を受けて、ミリアも力強く答えた。

 それから宿をあとにしたレイスとミリアは、ひとまず大通りに出て歩いていく。


「バルフェムには、多くの従魔が当たり前のように歩いているんだね」


 城下町にしか足を運んだことのなかったレイスは、驚きのままそう口にした。


「従魔都市バルフェムは少し特殊な立ち位置になりますから、驚かれるのも当然かと思います」

「確かにそうだね。でも……」


 一度言葉を切ったレイスは、もう一度舗道を歩いている人と従魔に視線を向ける。


「……こういうのも、悪くないね。王都で言われていた、従魔の糞尿も気にならない。どうしてだろう?」


 レイスは楓が王城を離れる時、王都に従魔がいないのは糞尿のせいだと説明していた。

 それは正しい説明だったのだが、あくまでも聞いた話をそのまま伝えただけで、レイス自身が経験したことではなかった。

 だからこそ実際にバルフェムに足を運び、臭いが全く気にならないことに驚いていた。


「これはあくまでも個人的な意見なのですが、王都の人たちは多くのことに敏感になり過ぎている気がいたします。臭いについても、その他のことについても」

「敏感になり過ぎているか。確かにそうかもしれないね。そして、実際に足を運ぶこともしないから、イメージだけで従魔の糞尿が酷いと思い込んでいる」

「はい。そのせいで王都には従魔持ちの冒険者が立ち寄れる宿が少なく、故に留まらない。今回の王妃様の一件に関しても、従魔持ちが留まれる環境が王都に整っていたなら、他都市に依頼を出すこともなく対処できたのではと考えてしまいます」


 そう口にしたミリアの頭の中に浮かんでいたのは、ヴィオンとライゴウの姿だった。

 そして、次に浮かんできたのがティアナとレクシアだ。


「Sランク冒険者の多くは従魔持ちです。本人も強ければ、従魔も強いことが多い。ティアナも従魔と契約を交わしましたから、今後王都に立ち寄ることは少なくなるでしょう」

「ミリアの言う通りかもしれないね。王都はこれから、大きな改革に踏み切る必要がありそうだ」


 そう口にしたレイスだったが、ここでハッとした表情を浮かべたあと、すぐに苦笑する。


「……おっと。僕たちは今、違う情報を集めていたんだったね」

「いえ。私も熱くなり過ぎました」

「いいや、とても貴重な意見だったよ。ありがとう、ミリア」


 ニコリと笑いながらそう口にしたレイスは、気を取り直して一番近くの屋台へ向かう。

 魔獣肉を丸焼きにした、香ばしい匂いを振りまいている屋台だ。


「串焼きを二本、いいですか?」

「はいよ! ……って、大丈夫ですかい?」

「え? 何がですか?」


 レイスが屋台の店主に声を掛けると、威勢の良い声が返ってきたのだが、すぐに困惑の声に変わってしまう。


「うちの串焼きはタレが多めに付けられていて、きれいな衣服を汚しちまうかもしれませんぜ?」

「これかい? ……まあ、大丈夫じゃないかな?」

「……あとから弁償代とか、言いませんかい?」

「言わないよ」


 笑いながらそう口にしたレイスだったが、店主もいつもならこのようなことは聞かない。軽く衣服が汚れないよう注意するくらいだ。

 どうして店主がここまで確認を取ったかというと、レイスの立ち振る舞いが貴族然としていたからだ。


(おいおい。お忍びのお貴族様じゃねぇのか? マジで大丈夫なんだよな?)


 店主はそんなことを考えながら、串焼きを手渡そうとした。


「私が受け取ります。それとこちらがお代になります」

「お? お、おぅ。あんがとよ」

「ちょっと、ミリア?」

「あちらのベンチでいただきましょう」


 困惑気味のレイスを伴い、ミリアが前を歩いていく。

 そのまま目的のベンチに到着すると、レイスが先に腰掛ける。


「こちらをどうぞ」

「あ、ありがとう。……ミリアも座ったら? 僕たち、旅人だろう?」

「……では、失礼いたします」


 レイスの許可が出たところで、串焼きを手渡しながらミリアも隣に腰掛ける。

 そして、無礼を承知で口を開く。


「……レイス様は、仕草がどうしても貴族然とされております。そのせいで、店主もお忍びの貴族ではないかと思われたのでしょう」

「え? ……なんと、そうだったんだね」


 自分では気づけなかったことを指摘され、レイスは驚きの表情を浮かべたあと、手に持ったままの串焼きに目を向ける。


「……そういうことなら、僕たちにしか行けない場所で情報を集めればいいってことか?」


 そして、そんなことを口にした。


「レイス様にしか行けない場所、ですか?」

「従魔都市とはいっても、裕福層が暮らす区画があるはずだろう? そこであれば、僕の仕草もそこまで気にならないんじゃないかな?」

「……言われてみれば、確かにそうかもしれませんね」

「ザッシュがそのような場所に足を運ぶ可能性は低いかもしれないけど、ゼロではないだろう? それなら、僕たちにできることを全力でやってみようかなってね」


 自分たちが原因でザッシュの因縁を買ってしまっているのだ。

 王族の仕草が抜けないからと、情報収集を諦めていい理由にはならない。

 そう考えたレイスは、串焼きを食べている民に目を向ける。

 誰もがそのまま食らいついており、口の周りをタレで汚している。


「……んぐ!」

「レ、レイス様!?」


 すると突然、串焼きに食らいついたレイス。

 その姿にミリアは驚きと困惑の声を上げた。


「……美味しいね、これ」

「お、お口が……」

「これが一般的な食べ方なんだろう? それなら、やってみたいじゃないか」


 ニコリと笑ったレイスは、そのまま残りの串焼きにも食らいつき、あっという間に平らげてしまった。

 それから口の周りをきれいに拭き取ると、自分にできることをしようと立ち上がる。


「行こう、ミリア。僕たちにしかできないことをやるんだ」

「ふぁ、ふぁしこまりました!」

「……ご、ごめんね! ミリアが食べ終わってからでいいからね!」

「……ふみまふぇん」


 こうしてレイスとミリアは、串焼きを食べ終わったあと、裕福層が暮らす区画へと移動したのだった。

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