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異世界従魔具店へようこそ!〜私の外れスキルはモフモフと共にあり〜  作者: 渡琉兎


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第12話:従魔とサブスキル〈翻訳〉

「こら、ラッシュ」


 ラッシュと呼ばれた犬のような従魔の背後から、セリシャが現れた。


「ごめんなさいね、カエデさん。この子、従魔具を作ってもらえると言ったら、喜んじゃって」

「いいえ! 私の方こそ、なんだか癒されるワンちゃん……じゃなくて、従魔で嬉しいです!」


 にやけが止まらない楓は、ラッシュの可愛らしい顔を見つめながら答えた。


「……あ、あの、セリシャ様? その、ラッシュ君に触っても、いいですか?」


 見た目からも分かるほどに、ラッシュの体はモフモフだ。

 どれだけのモフモフ具合なのか、楓はそれをどうしても確かめたかった。


「えぇ、もちろんよ」

「ありがとうございます!」


 満面の笑みを浮かべながら歓喜の声を上げた楓は、両手を広げてラッシュの大きな体に抱き着いた。


「……ふわあぁぁ~。気持ちいいよぉ~」

「ガウガウッ!(そうだろう!)」

「……え?」


 何やら聞いたことのない声が聞こえ、楓はモフモフの気持ちよさが吹き飛び、体を離して周囲へ目を向ける。

 声音から少年のような声だったが、そのような人物はどこにもいない。


「どうしたのかしら、カエデさん?」

「あの、セリシャ様? この部屋に、私たち以外に誰かいますか?」

「誰もいないわよ?」

「そうです、よね?」

「ガウー?」


 困惑顔の楓に対して、セリシャだけではなくラッシュも首を傾げている。


「……まあいっか! えへへ、それじゃあもう一回~」


 気を取り直した楓は、そう口にしながらもう一度ラッシュのモフモフの体毛へ体を寄せる。


「ガウア!(どうだ!)」

「やっぱり聞こえる!」


 バッと体を離した楓はもう一度周囲を見回す。


「本当にどうしたの、カエデさん?」

「セリシャ様! 私、男の子の声が聞こえるんです!」

「男の子の声?」

「はい! ラッシュ君のモフモフを堪能していると、そうだろう! とか、どうだ! とか、ラッシュ君が喋っているような……そんな声が…………え?」


 自分で口にしながら、まさかという思いが頭に浮かび、楓は視線をラッシュに向ける。


「ヘッヘッヘッヘッ……ガウッ!」

「……聞こえない、よね?」


 首を傾げる楓に対して、セリシャは何やら思案顔を浮かべる。

 そして、気になることを口にする。


「……もしかして、サブスキルの影響かしら?」

「サブスキル? そういえば、さっきもそんな話をしていましたよね?」


 話の流れで確認するのが遅れていたが、セリシャは確かに楓がサブスキルを持っていると口にしていた。


「確か、サブスキルは〈翻訳〉でしたっけ? でも、何を翻訳しているんですかね?」

「おそらくだけれど、従魔の言葉を翻訳しているのではないかしら?」

「従魔の言葉ですか? …………ええええぇぇっ!? それじゃあやっぱり、私がさっきから聞いていた声は、ラッシュ君のこえだったってことですか!!」

「ガウッ!」


 楓は驚きの声を上げると、ラッシュはその通りだと言わんばかりに大きく鳴いた。

 だが、不思議なもので今はただ鳴いているようにしか聞こえず、言葉になっていない。

 何が違うのかと考えた楓は、もしかしてという思いでラッシュに触れる。


「……ラッシュ君。私は楓だよ」

「ガウガガッ! ガウガウンッ!(僕はラッシュ! よろしくね!)」

「……聞こえた。もしかして、触れていたら従魔の声が翻訳されるのかな?」


 サブスキル〈翻訳〉について理解した楓だが、これがどう役に立つのかがすぐには分からず、思わず視線をセリシャへ向ける。


「驚いたわ。サブスキルに〈翻訳〉を持つ人は何人か見て来たけれど、その多くは他国の言語や古代語を翻訳する能力だったもの。従魔の言葉を翻訳するだなんて、初めてだわ」

「そ、そうなんですね」


 驚きすぎてすぐには思いつかなかったが、徐々に冷静になった楓はハッとした表情を浮かべ、口を突いて言葉が飛び出す。


「……あれ? でもそれなら、従魔が本当に欲している従魔具を作れるかもしれないってことじゃないですか?」


 楓の言葉を聞いたセリシャもハッとした表情となり、お互いに顔を見合わせる。


「その通りだわ、カエデさん!」

「そうですよね、セリシャ様!」

「……ガウー?」


 嬉しそうな楓とセリシャを見ながら、ラッシュは可愛らしく首を傾げる。


「ねえ、ラッシュ君。どんな従魔具が欲しいか、教えてくれるかな?」


 そう口にした楓がラッシュに触れると、彼は勢いよく鳴き始める。


「ガウガウガウアッ! ガルララガウキャン! ギャギャウギャウンガガウッ!(速く走りたい! 洋服はいらないかな! だって僕の自慢はこのふわっふわの体毛だもん!)」

「速く走りたいんだね。それで、洋服はいらないと……うんうん、それは私も同意見だよ!」


 モフモフは正義だと言わんばかりに、楓はラッシュの意見に何度も頷く。


「ラッシュはフェンリルなの。本来は足も速くてスラッとした体格をしているんだけれど、この子は特殊個体でね。特別体が大きくて強いのだけど、足はそこまで速くないのよ」

「クゥーン(そうなんだぁ)」

「だから、速く走ることに憧れがあるのね」


 ラッシュの気持ちを理解したセリシャは、申し訳なさそうに彼の体を優しく撫でる。


「……よーし! それじゃあ私、頑張ってラッシュ君が速く走れるようになる従魔具を作ってみせますね!」

「ガウーン!(やったー!)」

「無理はしてほしくはないけど……私もアドバイスをするわ。よろしくね、カエデさん」

「はい!」


 できるかどうかはまだ分からない。

 しかし楓は、直感的に〈従魔具職人EX〉ならできると考えていた。


(絶対にやってやる! 待っていてね、ラッシュ君!)


 こうして楓は、初めての従魔具作りに挑戦するのだった。

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