第115話:帰り道
その日の夜。
従魔具店を閉めた楓たちは、それぞれの帰路についたのだが、何故かレイスとミリア、アリスも一緒だ。
「レイス様たちは、どちらへお泊まりになるんですか?」
何気ない質問だったが、レイスは笑顔で答えてくれる。
「カエデ様と同じ宿に泊まれればベストですが、できなければ近い宿に泊まる予定です」
「え? で、でも、私が泊まっている宿は、一般人が泊まるような宿ですよ?」
セリシャに勧めてもらった宿は、とても居心地がいい上に、女将も気の良い方だ。
だが、王侯貴族が泊まるような格式の高い場所ではないと楓は考えている。
「お二人が泊まるにふさわしい宿は、別にあると思うんですが?」
「僕はそこまで格式にこだわっているわけではありませんし、ミリアは平民出身です。それに、カエデ様を護衛するのであれば、可能な限り近い方がいいと思いますので」
「私もレイス様の判断に異論ございません」
「あーしもー! なんなら犬っちの部屋でもいいよー! 楽しそうだしー!」
レイスやミリアが静かに答えている姿とは異なり、アリスは元気いっぱいに、さらに楓の腕を掴みながらそう答えた。
「えぇっ!? いや、それはさすがに女将さんに聞いてみないと分からないな……」
「えぇ~? ダメ~?」
「ダメってわけじゃないんだけど、宿泊代も変わるだろうし、そもそもベッドも一台しかないし」
「ぶー」
頬を膨らませながらそう口にしたアリス。
楓は苦笑を浮かべ、レイスとミリアも似たような表情を浮かべている。
「それでは、女将には僕とミリアの部屋に、アリス様の部屋で二部屋。ベッドを運び入れることが可能なら、カエデ様の部屋にアリス様を、ということでいいでしょうか?」
「女将さんにご迷惑が掛からなければ、私はそれで……って、ミリアさん?」
レイスの言葉に楓が答えていると、彼の隣で何やら顔を真っ赤にしているミリアの表情が視界に入り、楓は思わず声を掛けてしまった。
「どうかしましたか?」
「ふえっ!? あ、いえ、その……なななな、にゃんでもありません!」
「あれ~? ミリっち~、どうしたの~? もしかして……はっは~ん!」
ミリアの反応を見たアリスが、ニヤニヤしながら口を開いた。
そして、すり足でミリアの横へ移動すると、ガシッとその腕を掴んでしまう。
「な、何をするのですか、アリス様!?」
「レイニャン! ミリっちもあーしたちと一緒じゃダメ~?」
「お、おい! レイス様に対してなんという呼び方をしているのだ!」
温厚なミリアだが、アリスの「レイニャン」呼びにはさすがに怒声を響かせた。
だが、レイニャンと呼ばれたレイス本人は苦笑しており、右手を上げてミリアを制した。
「構わないよ、ミリア」
「ですがレイス様!」
「あぁ、勘違いしないでね。あくまでもこの場ではだ。さすがに王城で今の呼び方をされると、僕も庇いきれないからね?」
「はーい!」
いつもふざけているように見えるアリスだが、実のところ時と場合を考えて発言をしている。
今の呼び方も王城では一度としておらず、それは道長や鈴音と三人だけの時も同じだ。
王城ではない、バルフェムにいるからこそ、いつもの自分を出せるということで「ミリっち」「レイニャン」呼びをしていた。
「うーん……僕もそうさせてあげたいんだけど、護衛がいなくなってしまうのは問題なんだよね」
「そ、その通りです! ほら、変なことを言っていないで、カエデ様を守ることだけを考えて――」
「あー! それじゃあ、あーしの王子様にお願いしたらいーんじゃーん?」
そう口にしたアリスは振り返ると、やや離れたところからついてきていたヴィオンとティアナを指さした。
「うっそ!? 気づかれてたの!!」
「いや、普通に気づかれるだろう」
驚きの声を上げたティアナとは違い、ヴィオンは呆れたように呟いた。
アリスが駆け寄りヴィオンの手を引いたこともあり、ティアナも渋々、楓たちのところへやってきた。
「ど、どうしてティアナさんとヴィオンさんが?」
楓の質問に答えてくれたのは、アリスに絡まれているヴィオンだ。
「ティアナがカエデさんを心配していてな。お三方がいるから大丈夫だと言っても聞かなくて、だからと言ってアリスさんがいるから声を掛けられず、こそこそついていくことになってしまったんだ」
「えぇ~? ティーちゃん、仲直りしたと思っていたのにー!」
「誰がティーちゃんよ! ってかあんた、ヴィオンから離れなさいよ!」
「嫌だし~。あーしの王子様だし~!」
「誰が王子様よ! ヴィオンも振り払いなさいよ! バカ!」
ヴィオンを挟んで急に騒がしくなってしまったため、楓たちは苦笑いだ。
「……えっと、話を戻してもいいかな?」
ここでレイスが口を開くと、相手が王族と言うこともあり、ティアナもアリスも口を閉ざした。
「アリス様の言う通り、もしもヴィオンさんが僕の護衛で部屋に来てくれるなら、ミリアをそちらに送っても構わないよ」
「レ、レイス様!?」
「俺は構わないが、そうなるとティアナは――」
「ティーちゃんも一緒の方が楽しーと思いまーす!」
「はあ!? な、なんで私まで!!」
変なことに巻き込まれたとティアナが声を荒らげた。
だが、そんなことはお構いなしとアリスはティアナの腕にしがみつく。
「よーし! 今日は女子会だー!」
「ちょっと! 勝手に決めないでよ! ミリアも何か言いなさいよ!」
「……私だけでは、アリス様は御せない。協力するぞ、ティアナ!」
「なんでそうなるのよ!」
どうしてそうなったのか、完全に蚊帳の外に追いやられていた楓、レイス、ヴィオンは顔を見合わせると、同時に笑みを浮かべる。
「えっと。なんだかよく分かりませんが、部屋が空いていたらいいですね」
「女性四人になるなら、大部屋が空いていたら移れたりするんだろうか?」
「カエデさんが泊まっている宿の女将さんは気のいい人ですから、臨機応変に対応してくれると思いますよ」
そんな会話をしながら、楓たちは彼女が泊まっている宿に到着した。
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