第110話:王城での会話⑦
◇◆◇◆
――時は楓の従魔具店が開店する、三日前に遡る。
「王妃様は助かったみたいだ!」
王城にあるとある一室の扉を開きながら、異世界から召喚された勇者の一人、神道道長が嬉しそうに言った。
「そうなんですね! ……あぁ、よかった」
「あんだけ苦労したんだから、助かってもらわないと困るけどねー」
安堵の息を吐いたのは、同じく勇者の一人で有明鈴音。
頭の後ろで腕を組み、興味なさげに呟いたのは、大嶺アリスだ。
「おい、アリス! 失礼だろう!」
「えぇ~? でもでも~、苦労したのは本当じゃないのよ~」
「まあまあ、アリスちゃん。道長君も、落ち着いて。王妃様が助かった嬉しい日なんだから、ね?」
怒ったように声を上げた道長に対して、アリスは態度を変えようとしない。
そんな二人の間を取り持つように、鈴音が嬉しい日なんだと言って声を掛けた。
「……はぁ。確かに、鈴音の言う通りだな。すまなかった、アリス」
「あー……うん。あーしも、ごめん」
落ち着きを取り戻した二人は、お互いに謝罪を口にした。
「そ、それにしても、薬草を採りに行った時はすごかったね! 騎士の人たちもそうだけど、冒険者の人もすごかった!」
「あー! ほんとそれだよねー! 特にあの金髪の人! カッコよかったな~!」
「ヴィオンさん、だったか? 確かに、あの人は男が惚れる男だったな」
鈴音が話題を変えると、アリスと道長も乗っかってきた。
そして冒険者、その中でも一番目立っていたヴィオンの話で盛り上がる。
「従魔のライゴウもカッコよかったし~! ……あの人、彼女とかいるのかな?」
「ちょっと、アリスちゃん!?」
「だって、だって~! ここの人たちって~……なんていうか、あーしに合わないし?」
「お前は彼氏探しをしているのか?」
「そー言うみっちーはどうなのよー! 可愛い女の人から言い寄られてるって聞いてるけど~?」
「えっ!? ……そ、そうなの? 道長君?」
すると話はヴィオン、ライゴウと続いて、まさかの彼氏、彼女の話へ発展していく。
「そ、そんなわけないじゃないか!」
「どうかな~? 侍女たちから聞いた話だから、あーしはマジだと思ってるけど~?」
「お、お前なぁ」
「道長君……」
「す、鈴音も信じるなよ? 俺は……その、なんだ。……鈴音、一筋だから」
「ひゅーひゅー!」
「茶化すな!」
道長、鈴音、アリスは同級生であり、幼馴染みだ。
その中で道長と鈴音は数ヶ月前からつき合うこととなったが、今回の勇者召喚で勇者として選ばれてしまった。
最初こそどうしてこうなったのかと悲観的な考えが頭の中で繰り返されたが、今となってはいずれ戻れるだろうと信じながら、二人一緒なら乗り越えられると思うようになっていた。
だが、それは道長と鈴音に限った話だ。
「……あーしは、どうすっかなー」
泣き出しそうになっていた鈴音を慰めている道長。そんな二人を見つめながら、アリスはこれからのことを考え始める。
(あーしには誰もいないし、異世界とか言われてもなーんも分っかんないんだよねー。王妃様も助かったし、どっか遊びに行きたいけど頼れる人もいないしー)
再び頭の後ろで腕を組んだアリスは、フカフカのソファに背中を預けて天井を見る。
(……犬っちは、元気にしてるのかなー)
そこまで考えたアリスはふと、たまたま侍女たちが話していた内容を思い出す。
『――レイス様とミリア様が、お城を出て行かれた女性の下へ向かわれるらしいわよ?』
『――近況報告だとか。でも、王妃様のことを見捨てたお方のところへどうして?』
『――勝手にするのはいいけど、こっちに問題を持ち込まないでほしいわよね』
話を聞いた時、アリスは最初怒っていた。
そちらの都合で召喚しておいて、こちらが許可を貰って城を出たというのに、何を勝手なことを言っているのかと。
だからアリスは、わざと気づかれるように足音を立てながら、満面の笑顔で侍女たちに近づいていった。
すると侍女たちはそそくさと逃げていったが、もしかすると自分も陰口を言われているのではないかとも思うようになっていた。
(あーしは、みっちーや鈴っちみたいに、誤魔化すのが苦手だからなー。言いたいことを言って、結果誰かを怒らせちゃうんだよねー)
思わず苦笑してしまうアリスだったが、王妃の病が治った以上、この場に留まる理由が彼女にはない。
ならば、唯一頼れるだろう人の下へ向かってみるのもいいのではないかと考えた。
「……よし! 決めた!」
「うおっ!?」
「ど、どうしたの、アリスちゃん?」
急に大きな声を出したアリスに、道長と鈴音は驚きの声を上げた。
「あーし、城を出るわ!」
「「……え? ええええぇぇっ!?」」
「だってー。あーしがいたら……二人とも、イチャイチャできないじゃん?」
「おまっ!? ふざけるのも大概に――」
「じょーだんだってー! それじゃああーしは用事を思い出したから、そんじゃねー!」
「えぇっ!? ア、アリスちゃん!!」
笑いながら手を振り、アリスはそのまま部屋を飛び出した。
向かう先はレイスの執務室だ。
(そーいえば、レイス様とはあんま話したことなかったけど……まー、なんとかなるっしょ!)
不安もあるが、アリスの足取りは軽い。
その証拠に、いつの間にか彼女はスキップしながら王城の廊下を進んでいたのだから。
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