第104話:冒険者ギルドのギルマス来店
「聞いたぞ、オルダナ! お嬢さんを取り込んだらしいな!」
「人聞きの悪いことを言うな、バルバス! 俺と嬢ちゃんは手を組んだんだ!」
冒険者ギルドのギルマス――バルバスの言葉に、オルダナは声を大にして反論した。
「同じようなものだろう! 久しぶりだな、お嬢さん!」
「あ、はい。えっと、楓です」
「おっと! 確かに自己紹介がまだだったな! 俺は冒険者ギルドのギルドマスターをしているバルバスだ! よろしくな!」
「よ、よろしくお願いします」
ぐいぐいと話しかけてくるバルバスに、楓はやや押され気味になってしまう。
「おい、バルバス。悪い癖が出てるぞ」
「そうか? まあ、いいじゃないか! 今日の俺は客だからな!」
「え! お客様できてくれたんですか!」
バルバスが客だと口にしたことで、初めてのお客様だと気づいた楓はパッと笑顔を浮かべた。
「オーダーメイドを頼みたい! お嬢さんならできるって、セリシャに聞いてきたぞ?」
「セリシャ様にですか?」
まさかバルバスからセリシャの名前が出てくるとは思わず、楓は問い返した。
「ギルドマスター会議があってな。そこでお嬢さんの話を聞いてみたら、オーダーメイドをしてみたらどうかと勧められたんだ」
「そうなんですね! ありがとうございます!」
ギルドマスター会議がいったいなんなのか気になったものの、今はバルバスを一人の客として見るべきだと頭を切り替え、楓はお礼を口にした。
「いいってことよ! それに、俺もこいつにオシャレな服をプレゼントしてあげたかったからな!」
「……オシャレな服、ですか?」
強面のギルマスからオシャレという言葉が出てくるとは思わなかった楓は、きょとんとした顔で呟いてしまう。
するとバルバスの足元に一匹の従魔がひょこっと姿を現した。
「……ニー?」
「…………か、可愛いいいい~!」
見た目が完全なネコの従魔が、可愛い声で鳴いた。
その美しい純白の毛色も相まって思わず声を上げた楓を見て、バルバスはニヤニヤが止まらない。
「おいおい。おじさんのニヤニヤなんて、誰も求めてねえぞ?」
「うるせえな! 俺のピーチは最高に可愛い従魔なんだぞ!」
「確かにピーチは可愛いが、おじさんのニヤニヤを求めたないって言ってんだよ」
「仕方ないだろう! ピーチが褒められたんだからな!」
「そうですよ! 仕方ないですよ!」
「嬢ちゃんはバルバスの味方かよ!」
「私は従魔の味方です!」
「「そっちかい!?」」
まさかオルダナだけではなく、バルバスからもツッコミを入れられるとは思わなかったが、それでも楓は胸を張って何度も頷く。
「当然です! 私は従魔のために従魔具を作っているんですからね!」
「……面白いお嬢さんだな!」
「まあ、面白いことに違いはねえな」
「どういうことですか!?」
今度は楓がツッコミを入れると、オルダナとバルバスは同時に笑った。
楓たちのやり取りを聞き、ミリーとリディが奥の作業場から顔を出す。
「お客様ですか?」
「うおっ! でかっ!」
「ちょっと、リディ君!」
「あ! やべっ!」
言葉遣いは楓が何度も注意していたことで、リディは思わず口を両手で塞ぐ。
「構わないさ! 確かに俺はでかいからな!」
バルバスは二メートルに迫る身長をしている。
大人の楓から見ても大きいのだから、子供のリディから見たらさらに大きく感じたことだろう。
本当ならきちんと謝らせるところだが、バルバスが全く気にしていないことが分かり、ひとまずはオーダーメイドの話を進めることにした。
「先ほど軽くお話しされていましたけど、オシャレな服を依頼されるということでいいんですか?」
「もちろんだ!」
楓の問いにバルバスは満面の笑みで答えたが、彼女の質問はこれで終わりではない。
「分かりました。それでは次は、ピーチさんに話を聞きたいと思います」
「もちろんだ! ……ん? ピーチに、話を聞く?」
勢いで返事をしたバルバスだったが、その内容に違和感を覚えて困惑の声を漏らした。
「私のサブスキル〈翻訳〉は、従魔の声を聞くことができるんです。なので、ピーチさんにも話を聞いて、お二人の意見がズレていないかを確認し、そのうえでオーダーメイドする従魔具を決めたいと思っています」
楓がサブスキル〈翻訳〉について説明すると、バルバスは目を大きく開き、その視線をカエデからオルダナへ向ける。
「言っておくが、本当のことだぞ? 嬢ちゃんは従魔の声を聞けるんだ」
「……なんだよ、それは。最高じゃないか! ピーチの声を聞けるってことだろ? マジで最高じゃないか!」
同じことを二回繰り返して言うくらいに、バルバスは感動していた。
「ただ、声を聞くには従魔に触れなければならないんです。なので、ピーチさんに触れる許可をいただけますか?」
「もちろんだ! 構わないよな、ピーチ?」
バルバスは念のため、ピーチにも確認を取る。
するとピーチはコクリと頷き、ゆっくりと楓に近づいていく。
「ありがとうございます、ピーチさん。それでは、触りますね」
お礼と共に断りを入れながら、楓はピーチに触れる。




