第102話:従魔具店開店!
ティアナとヴィオンの模擬戦から――三日が経った。
今日は待ちに待った、楓とオルダナの共同経営による従魔具店の新装開店オープン日になっていた。
「ワクワクしますね、オルダナさん!」
興奮しきりの楓だったが、オルダナはそうではない。
「そうか? 俺はいつもと変わらないがな」
「そうなんですか? でも、五日前は楽しみだって言ってくれたじゃないですかー」
あまりに冷静な態度のオルダナを見て、楓は疑問顔で問い掛けた。
「よーく考えたらよ。場所が変わったわけでもなく、俺たちは目立たないようにってことで、宣伝もしてない。それなら、今までと変わらない客足になるだろうと思ったんだ」
「もう! オルダナさんは現実ばかり見過ぎですよー!」
「そりゃそうだろう。この歳になったらな」
髭を撫でながらそう口にしたオルダナに、楓は頬を膨らませる。
「いいんじゃねえか、姉ちゃん? 俺はオルダナさんのところで仕事ができるだけで嬉しいけどな!」
「わ、私も、お仕事をいただけて、とても嬉しいです!」
楓とオルダナのやり取りを隣で聞いていたリディとミリーは、楓をフォローしているのか楽しみだと感想を口にした。
「そうだよねー! 嬉しいよねー!」
「若いのう」
楽しそうにしている楓、リディ、ミリーを見ながら、オルダナは小さく息を吐く。
「よーし! それじゃあ、開けるよ?」
「おうよ」
「「はい!」」
オルダナに、リディとミリーの返事を聞いた楓は、ワクワクした表情で新しい従魔具店の扉を開いた。
――カランコロンカラン。
呼び鈴が心地よい音を立て、楓が内装を考えた従魔具店に足を踏み入れる。
「……うわぁ」
自分で内装を考えたのだから、どのような店内になっているかは想像できていた。
だが、想像するのと実際に見るのでは、全く異なってしまう。
五日前には改装直後の店内を見ていたが、カタログが置かれ、雑貨が置かれ、装飾品が飾られた店内を見ると、また違った感情が湧き上がってくる。
「これは、すげぇな」
「ほら! オルダナさんもすごいって思いますよね! 楽しいですよね! 嬉しいですよね!」
「うぐっ! ……ま、まあな」
どこか恥ずかしそうにしているオルダナだったが、それでも楓の声に頷いてくれた。
それが嬉しく、楓は満面の笑みを浮かべる。
「広くなったなー!」
「そうなの? 私は前のお店を見たことがないけど……ここ、なんだかとっても居心地がいい気がします」
素直な感想をリディが口にすると、ミリーも感じたままを教えてくれた。
どちらの感想も楓には最高のものであり、笑みが止まらない。
「セリシャ様とティアナさんも、来られたらよかったんですけどね」
本日の新装開店だが、今日まで色々と手助けしてくれたセリシャとティアナはいない。
どうしても外せない用事があると、何度も謝られながら立ち合いを断られたのだ。
「仕事なんだろう? それなら仕方ねえだろ」
「そうなんですけどね……でも、時間を見つけて顔を出してくれるって言ってくれましたし、それまでしっかりと仕事をしちゃいましょう!」
楓がそう口にすると、リディとミリーが晴れやかな笑顔を浮かべながら振り返る。
「仕事があるのか! 従魔具作りか!」
「私もお会計とカエデさんのお手伝い、頑張ります!」
仕事にやる気を見せてくれているリディとミリーに、楓は笑顔で口を開く。
「ありがとう、二人とも。だけど、無理だけはしちゃダメだよ? 自分にできることを、無理なく確実にこなしていきましょうね」
「「はい!」」
二人への声を掛けを聞いていたオルダナは、楓たちに見えないところで大きく頷く。
楓にも無理をしてほしくないと思っているオルダナだが、子供であるリディとミリーは特にその思いが強い。
オルダナと亡くなった妻との間に子供はいない。
だからかもしれないが、子供には無理をしてほしくないと思えてならないのだ。
「……うっし! そんじゃまあ、リディは裏に来い! 嬢ちゃんはどうする?」
「私はミリーちゃんに計算や接客を教えたいと思います」
こうして楓の従魔具店初日が始まった。




