第10話:スキルレベルとサブスキル
しばらくして、受付嬢が戻ってきた。
「お待たせいたしました。こちら、当ギルドのスキル鑑定水晶となります」
「……スキル鑑定水晶?」
受付嬢はそう口にしながら、楓の顔と同じくらいの大きさがある、水色の水晶をカウンターに置いた。
思わず言い直してしまった楓に、受付嬢は営業スマイルで説明してくれる。
「対象者のスキルのみを鑑定してくれる魔導具になります。スキル、スキルレベル、それとサブスキルをお持ちであれば、そちらも鑑定することが可能です」
「あの、私は魔導スクロールでスキルの鑑定をしたんですが、それでは出てこないこともあるんでしょうか?」
スキル鑑定水晶を使う前に気になったことを質問してみた楓。
すると受付嬢は思案顔で答えてくれる。
「魔導スクロールに魔法を込めた魔導師のレベルによるかと思います。鑑定の魔法が込められていたと思いますが、そのレベルが低いと鑑定内容が抜けてしまうこともあるようですね」
「そう、なんですね」
楓としては困惑してしまう。
何故なら楓が魔導スクロールを使った場所が、王城だったからだ。
(王城にある魔導スクロールなのに、レベルの低い魔導師が魔法を込めた魔導スクロールがあるなんて、あるのかな?)
「いかがなさいますか? 私どもと致しましても、スキルレベルがはっきりしないことには、仕事を斡旋することが難しいのですが?」
レイスたちを信じていないわけではないが、こうなってはここでしっかりとスキルレベルを鑑定するべきだと、楓は判断する。
「お、お願いします!」
「かしこまりました。それでは、スキル鑑定水晶に両手を置いていただけますか?」
「は、はい!」
意を決した楓は、ドキドキしながらスキル鑑定水晶に両手を置いた。
すると、魔導スクロールを使った時と同じように、白い光がスキル鑑定水晶から放たれ、楓の体を包み込んでいく。
「スキルは確かに〈従魔具職人〉のようですね。スキルレベルは……え?」
スキル鑑定水晶の結果を確認していた受付嬢から、何やら驚きの声が聞こえてきた。
どうしたのだろうと視線を向けた楓だったが、受付嬢の視線はスキル鑑定水晶から動かない。
さらに楓は、なかなか光が消えないことにも困惑してしまう。
(王城では、すぐに消えたんだけどなぁ)
そんなことを考えていると、ようやく光が弱まっていき、完全に消えた。
その間も受付嬢は渋面を作っており、楓はどうしたらいいのか分からなくなってしまう。
「……あ、あの〜?」
「はっ!? し、失礼いたしました! も、もう少々お待ちいただけますでしょうか?」
「……わ、分かりました」
何が起きているのか理解できないまま、受付嬢は再び窓口から離れてしまう。
しかし今回はバックヤードではなく、階段を上がった二階の奥へ、それも駆け足で向かった。
(……え、ええぇ〜? 私、本当に何かやらかしちゃったかな〜!?)
混乱を隠せなくなってきた楓は、窓口の前で頭を抱えてしまう。
その姿を見た周りの人たちは、何事かと様子を窺っている。
(ここから逃げた方がいいかな? いやでも、さすがにそれはダメだよね? 働くなら、商業ギルドとは敵対しちゃダメだろうし、何よりスキルのことを何も聞けてない――)
「お、お客様!」
「ひゃ、ひゃい!?」
頭の中でグルグルと色々なことを考えているところへ声を掛けられ、楓は変な声を上げてしまった。
そのことが恥ずかしく、楓は声がした方へ急ぎ視線を向ける。
「お、お待たせ致しました! あの、もしよろしければ、二階の部屋でお話を伺えないでしょうか?」
「え? ……あ、あの、私、何かしちゃったんでしょうか?」
恐怖からそう質問した楓だったが、受付嬢は首を勢いよく横に振りながら答えてくれる。
「そのようなことは一切ございません! その……非常に稀な結果が出まして、その件もあり別室でと思いまして」
悪い結果ではなかったのだと胸を撫で下ろした楓だったが、では何があったのかと疑問は残る。
別室でというのも不安はあったが、今の自分には何もないのだから、ここで自分のことを知れるのならと、覚悟を決めることにした。
「お、お願いします!」
それから楓は、受付嬢の案内で二階へと上がり、最も奥まった部屋に向かう。
(……ほ、本当に大丈夫なんだよね〜?)
不安を抱きながらも歩いていき、受付嬢が奥の扉をノックする。
――コンコンコン。
『――はい』
「エリンです。先ほどご報告した方をお連れいたしました」
『――入ってちょうだい』
「失礼いたします」
エリンと名乗った受付嬢が扉を開ける。
「どうぞ」
そのままエリンに促され、楓は恐る恐るといった感じで中に入る。
「し、失礼いたします」
室内は実用的な家具が置かれており、飾り気はそこまでない。
商業ギルドの部屋ということで、楓は勝手に豪華絢爛、お金を感じられるような部屋なのではないかと思っていたが、そうではなかった。
「初めまして。私は商業ギルドのギルドマスター、セリシャよ」
「は、初めまして。私は楓と申します。……え? ギ、ギルドマスターですか!?」
受付でも名乗っていなかったと思った楓はすぐに名前を口にしたのだが、目の前の老齢な女性、セリシャがギルドマスターだと知り、驚きの声を上げた。
「あら? エリン、お伝えしていなかったのかしら?」
「も、申し訳ございません、ギルマス! その、慌ててしまって……」
「い、いいえ! 私の方こそ、すぐにお返事してしまいましたから!」
ギルドマスターの部屋へ通すことを伝えていなかったとエリンは慌てたが、それを楓が庇うような発言をし、セリシャはくすりと笑う。
「うふふ。カエデさんはお優しいのね」
「そ、そういうわけでは……あ、でも、私はどうしてギルドマスターに? やっぱり、何かしちゃいましたか!?」
ガクガクと震えだした楓だったが、セリシャは柔和な笑みを浮かべながら答えてくれる。
「いいえ。むしろ、私たちからお願いしたいことがあって、お呼びしました。まずはお掛けになってください」
「……は、はい」
何かをしでかしたわけではないと知り、楓はホッと胸を撫で下ろしながら、セリシャに示されたソファへ腰掛ける。
その間、エリンが部屋に備え付けられている給湯室でお茶を入れ、楓とセリシャの前に置く。
「あ、ありがとうございます」
「いいえ。それではギルマス、私はこれで失礼いたします」
「えぇ。ありがとう、エリン」
エリンが部屋をあとにすると、セリシャが姿勢を正してこちらを見てきたので、楓も自然と背筋が伸びる。
そして、セリシャが呼び出した理由を口にする。
「カエデさんのスキルレベルとサブスキルを確認させていただきました。あなたのスキルレベルはEX。そしてサブスキルは〈翻訳〉です」
「……スキルレベル、EX? それに、サブスキルですか?」
全く聞き馴染みのないレベルと言葉を聞き、楓は困惑顔を浮かべた。




