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異世界従魔具店へようこそ!〜私の外れスキルはモフモフと共にあり〜  作者: 渡琉兎


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第1話:巻き込まれた勇者召喚

「……いってきます」


 祖父母の仏壇を手を合わせてから、彼女はそう口にした。

 いつもと変わらない日常の始まりだと、気合いを入れてから玄関を出る。


「え?」


 いつものように足を踏み出したのだが、そこにあるはずの廊下はなく、彼女の体は突然の浮遊感に襲われた。


(あ、死んだ)


 何が起きたのか理解できなかったが、不思議とそう感じた。

 そして、生への執着がないかのように、玄関へ手を伸ばすようなしぐさもせず、ただ自然に身を任せてしまっていた。


 ◆◇◆◇


 しかし、彼女が死ぬ、ということはなかった。


「……え? ここ、どこ?」

「な、なんだ? これは、どうなっているんだ?」

「はぁ~? 何がど~なってんのよ~?」


 その代わり、どこかの地下室のような全く見知らぬ場所に来ており、何故だか仕事へ向かう途中でよく見かける三人の学生が一緒にいたのだ。


「よ、四人、だと?」


 そこへ聞き覚えのない男性の声が聞こえ、彼女と三人の学生が振り向く。


(……え? え? これってもしかして、異世界召喚ってやつじゃないの!?)


 困惑していることに変わりはないが、男性の顔立ちや服装を見て、彼女はそう思ってしまう。

 声を上げた男性の顔立ちは美しい金髪が似合うくらいに整っており、誰がどう見てもイケメンだと口にするほどのイケメンだ。

 さらに服装は西洋風の雰囲気を持っており、日本で見かけることは、コスプレをしている人のSNSでくらいだろう。


「殿下、いかがなさいましょうか?」


 そこへ、殿下と呼ばれた男性と同年代だろうか、真面目そうな銀髪のイケメンが、殿下の背後から現れた。


(殿下ってことは、この人は王子様なのね。だけど、なんだかすごく困っている感じなんだけど……もしかして、この流れって?)


 実のところ、彼女は異世界系の作品が大好きだった。

 アニメもマンガもラノベも読み漁り、ニマニマしながら寝落ちすることも少なくなかった。

 故に、三人の学生たちよりも今がどういう状況なのか、その推測が頭の中で組み立てられていた。


「……そうだな。では、一人ずつ話を聞かせてもらいたい――」

「い、嫌です!」


 殿下がそう口にすると、遮るようにして最初に声を漏らした、おとなしそうな女子生徒が声を上げた。


「こ、ここはどこなんですか? 私たち、さっきまで普通に登校していたんですよ? そしたら急に地面が光って、気づいたら、こんなところに……うぅぅ」


 そこまで口にした女子生徒は、泣き出してしまった。


「……ねえ、あんた!」

「わ、私か?」

「あんたしかいないでしょうが!」

「貴様、殿下に対してなんという口の利き方を――」

「人攫いにはこんな言葉でいいっつーの!」


 続いて口を開いたのは、金髪ギャルの女子生徒だ。

 金髪ギャルはおとなしそうな女子生徒に寄り添いながら、殿下へ声を荒らげている。

 銀髪の男性が間に入ろうとしたが、それでも金髪ギャルは構うものかと強い口調で言い放つ。


「お二方、まずは状況を確認したい」


 最後に口を開いたのは、いかにも優等生っぽい雰囲気の男子生徒だ。

 男子生徒は冷静に、それでいてはっきりとした口調で殿下と銀髪の男性に問い掛けた。


「……確かに、彼の言う通りだ」

「殿下!」

「こちらの都合で呼び出したのだから、事情を説明するのが先であり、筋だろう」


 銀髪の男性は納得していないようだったが、殿下はこちら側に非があると捉えたのか、男子生徒の要望を呑むことにした。


「それと、俺たち三人は知り合いですが、あちらの方は……」


 そこで男子生徒は、ここまでずっと黙っていた彼女に視線を向けた。


「……え? わ、私ですか?」


 彼女が口を開くと、男子生徒だけではなく、この場にいる全員の視線が彼女に向いた。


「……あ、あははー。まあ、確かにその男の子の言う通りでしてー。い、一応自己紹介しておくと、犬山楓いぬやまかえで、です」

「あ、ご丁寧にどうも。神道道長しんどうみちながです」


 彼女、楓が突然自己紹介をしたからか、男子生徒、道長も思わず自己紹介を口にする。


「……ぐすっ! ……有明鈴音ありあけすずね、です」

「流れ的にあーしも? あーしは大嶺おおみねアリス! よろしくねー!」


 おとなしそうな女子生徒に続いて、金髪ギャルもハイテンションで自己紹介をしてくれた。

 そうなると、残されたのは殿下と銀髪の男性だけである。


「……私は、フォルブラウン王国の第一王子、アッシュ・フォルブラウンだ」

「……私は殿下の護衛騎士筆頭、ケイル・ヴォイド」


 殿下、アッシュが自己紹介をしてくれたからだろう、護衛騎士のケイルも険しい表情ながら名前を口にしてくれた。


「それでは、四人を一度客室に案内して、そこで説明を――」

「あー、そのことなんですがー」


 アッシュが話を進めようとしたところで、楓が申し訳なさそうに手を上げながら口を開く。


「……どうしましたか?」

「そちらの三人は知り合いみたいだから一緒で問題ないんですけど、たぶん私が部外者っぽいんですよねー。だから、私は別で説明を聞いてもいいかなー、なんて?」


 楓がそう口にすると、アッシュだけではなく、この場にいる誰もが驚きの表情を浮かべた。


「ダ、ダメですよ、犬山さん!」

「そ、そうです! 女性の方を一人になんて!」

「そーゆーこと! みんな一緒がいいっしょ!」

「うーん、でもなー……」


 道長、鈴音、アリスが口々に否定するが、楓は渋ってしまう。


(たぶん、四人ってところで殿下は困惑していたわけだし、私が巻き込まれちゃったパターンだと思うんだよねー、これ)


 楓が渋っていた理由は、自分が巻き込まれたと思っていたからだった。

 もしも一緒に話を聞き、自分が巻き込まれたのだと知れば、道長たちはどう思うだろうか。

 申し訳なさそうにするのか、それともここが異世界という事実にだけ愕然とするだろうか。

 どちらにしても、楓には関係ないと思うようにしなければならない。

 日本での生活は苦しかった。仕事に行く時ですら、気合いを入れなければ家から出ることができないほどに、辛かった。

 現実逃避の手段として異世界系の作品にドはまりした楓にとって、ここはある意味では楽園に近い場所なのかもしれないからだ。


(変に気を遣われるよりも、一人の方が自由にできて楽しそうなんだよねー)


 心配そうにしている道長たちには、そんな風に考えているとは口に出せず、苦笑いをするしかできない楓。


「……私としてはどちらでも構わない。ただ、先に三人への説明というのも礼を欠いてしまうと思うので、別の部屋で、別の者から説明をさせてもいいだろうか?」

「もちろんです。お手間を取らせてしまい、申し訳ございません」

「犬山さん!」


 アッシュの提案に楓が頷くも、道長は納得できないのか声を荒らげた。

 すると楓は軽く手を上げて道長を制し、ニコリと微笑むだけで何も言わない。


「それじゃあ、よろしくお願いします」


 楓が場を仕切ると、アッシュとケイルは一瞬だけ顔を見合わせたが、すぐに頷き歩き出す。

 そんな二人に楓がついていくものだから、道長たちも行くしかない。


(さーて! ここがどんな場所なのか、私に何ができるのか、まずはそれを確認しないとね!)


 異世界召喚。それも巻き込まれであれば、普通は不安が先に来るのだろうが、楓は違った。

 今のこの状況を瞬時に理解し、どうすれば楽しめるのか、そのことばかりを考えていたのだった。

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