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プロローグ

「物語の主人公が、降りてくる」


 アメジストのような淡い紫色の瞳を輝かせ、シセはそっと呟いた。

 ターコイズブルーの踊り子衣装が、戦場を照らす炎の向こうで静かに揺れる。


 こちらの防衛線を突破した人間の騎兵隊が、犬頭いぬあたまの魔物たちと激しくぶつかりあう様子を、シセは山裾やますそから見つめていた。


「舞台は、整った」


 シセは朱色と藍色が混ざり合う空を仰ぐ。

 はるか上空に、白い光が浮かび上がっているのが見えた。それは、ゆっくりと瞬きながら、戦場へ向かって一直線に降りてきている。


「ついに、この時が来た」


 祈るように、渇望するように、シセは降ってくる白い光にそっと両手を伸ばす。


「物語の主人公がついに降りてくる……」


 やがて、白い光に包まれたその姿が、はっきりと見えてきた。


 〝彼〟は両目を閉じ、頭を下にして、ゆっくりと回転しながら降りてきている。

 羽飾りのついた白い帽子、黒髪のボブ。短めの白いマントが雲を裂き、風にはためく。コルセット風のミニスカートと長靴が可愛らしい――そんな、猫耳の、女の子?


「えっ? 女の子?! 主人公じゃないの?!」


 シセは空を見上げたまま後ろに倒れそうになり、慌てて踏みとどまった。

 降ってきた少女が大地に叩きつけられる瞬間、爆音とともに紅蓮の炎が吹き上がる。戦場は激しく揺れ、敵味方の双方が一瞬にして動きを止めた。


「なんでっ!? いきなり終わるの!? そんな――!」


 混乱するシセをよそに、爆炎の中から猫耳の少女が回転しながら宙を飛び、片膝をついて着地する。その動きは、まるでネコ科の獣のようだった。


「生きてた……けど、彼じゃない……」


 シセは唖然あぜんとし、言葉を失う。

 静まり返る戦場。敵味方全員の視線を一身に浴びながら、その少女はゆらりと静かに立ち上がる。燃えるような赤い夕日を背に、少女の輪郭りんかくは薄青い影に沈み、その表情はわからない。


 やがて、少女のまぶたがゆっくりと開かれた。青い影の奥で、金色の猫目だけが妖しく光る。それは、まるで青い夜空に怪しく輝く、ふたつの満月。その瞳の光に照らされ、世界が止まったように感じられた。


 次の瞬間、少女は白く輝く小さな牙を見せ、息を深く吸い込むと――


「なんじゃ、こりゃあああああ!」


 猫耳少女の咆哮ほうこうに、大気が震えた。


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