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第6話 セリス編 たまごがゆと午後の看病

ぼんやりとした光が、カーテンの隙間から差し込んでいた。

目を開けると、昼過ぎの柔らかな陽射しが部屋を満たしている。


頭が重い。喉も少し痛む。

昨夜からの寒気はやはり風邪だったらしい。


今日は仲間たちが依頼で出払っている。

「無理するな」と言われ、留守番を任されたのだが――


こうして一人で横になっていると、時間の流れがやけに遅く感じられる。

外からは、遠く馬車の車輪の音や、行商人の呼び声がかすかに聞こえてくる。

それらが妙に遠く、現実感が薄い。


お腹が、ぐう、と鳴った。

食欲はあまりないが、何か温かいものなら食べられそうだ。


視線を動かすと、テーブルの上に端末が置かれている。

なんとなく手を伸ばし、画面を開く。


おすすめ欄に「たまごがゆ」の文字があった。

写真には、湯気を立てる白い粥の上に、ふんわりとした卵がとろりと広がっている。


――これなら、喉にも優しい。

そう思い、注文ボタンを押した。


しばらくして、部屋の空気がふっと揺らぐ。

転移の光とともに、見慣れた黒髪の青年が現れた。


「ルーベルイーツでーす……って、あれ、セリスさん?」

「……ええ。今日は、私一人です」


声が少し掠れているのを、自分でも感じた。


「風邪ですか?」

「……そうみたいです」


悠真は眉をひそめ、ボックスから容器を取り出す。

ふわりと、やさしい香りが部屋に広がった。


「はい、たまごがゆ。熱いうちにどうぞ」


テーブルに置かれたそれは、見た目からして胃に優しそうだった。

スプーンを手に取り、一口すくう。

とろりとした粥と卵が舌に広がり、ほっと息が漏れた。


「……おいしい」

「よかった。水分もちゃんと取ってくださいね」


悠真はそのまま帰らず、湯を沸かしてくれたり、毛布を掛け直してくれたりした。

「配達員なのに、看病までしてくれるの?」と問うと、

「配達員の仕事じゃないですけど……放っておけませんから」

そう言って、悠真は少し照れたように笑った。


普段は冷静に状況を分析する自分が、今日はただその笑顔に救われている。

額に触れた手のひらは、ひんやりとして心地よかった。


「熱、少し高いですね。無理しないで」

「……ええ。あなたがそう言うなら、そうします」


やがて、食器を片付けた悠真が立ち上がる。

「じゃあ、そろそろ――」


その言葉を最後まで聞く前に、セリスは反射的に手を伸ばしていた。

指先が、彼の袖をそっとつまむ。

「……もう少し、いてくれませんか」


掠れた声は、いつもの彼女らしくないほど弱く、そして真っ直ぐだった。

悠真は一瞬驚いたように目を瞬かせ、それから静かに頷く。


「わかりました。じゃあ、もう少しだけ」

椅子を引き戻す音が、やけに心強く響く。


窓の外で、夕方の鐘が鳴った。

仲間たちが帰ってくるまで、悠真はそばにいてくれた。


たまごがゆの温もりと、袖をつまんだ手の感触が、熱に浮かされた頭の中でやさしく混ざり合っていった。


それが何の始まりなのか、まだ言葉にはできない。

けれど、胸の奥がほんの少しだけ、いつもより温かかった。


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