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第5話 スパイスの香り、言葉のはじまり

端末が震えた。

画面には「注文受付」の文字。料理名は「カレー・五つ」。

差出人は「グランツ・銀翼の旗 第1拠点」。


胸の奥が少し高鳴る。前回の配達からそう日は経っていない。

あの五人の顔が、ふと脳裏に浮かんだ。


俺は深く息を吸い、配達ボタンを押す。

転移の光が広がり、足元の感覚がふっと消えた。

この感覚にも、少しずつ慣れてきた――とはいえ、まだ心臓は早鐘を打っている。


視界が開けると、そこは石造りの屋敷の一室だった。

天井は高く、梁には細かな彫刻が施されている。


暖炉の火がゆらめき、壁には地図や武器が整然と掛けられていた。

木製のテーブルには布が敷かれ、椅子が五つ並んでいる。

窓の外には夕暮れの街並みが広がり、赤く染まった屋根と煙突から立ち上る煙が見えた。

ここが、彼女たちの拠点なのだろう。


部屋の中央まで進むと、五人の女性がすでに集まっており、それぞれの持ち場からこちらを見た。

赤毛の剣士は腕を組み、魔法使いは机上の端末を見つめ、エルフは窓辺から振り返り、僧侶は湯を沸かし、シーフはソファから軽やかに立ち上がった。


「ルーベルイーツでーす!」

声をかけると、剣士が笑った。

「おう、来たか。待ってたぞ」


ボックスを開けた瞬間、スパイスの香りがふわりと広がった。

五つの容器には、黄金色のとろみのあるスープがたっぷりとかかり、白くふっくらとしたライスが添えられている。


赤い漬物が彩りを添え、湯気が立ち上り、香ばしさと甘さが入り混じった匂いが部屋を満たした。

「……なにこれ、すごい色」

ティナが目を丸くする。


「香りが複雑……辛いのかしら?」

セリスが慎重に容器を覗き込む。


「とろ〜りしてて、お肉もやわらか〜そうねぇ〜」

マリナがスプーンを手に取り、嬉しそうに目を細めた。

リュシアは黙って席に着き、視線だけで料理を観察していた。


「じゃあ、食べながら話そうか」

レイナが椅子に腰を下ろし、他の四人もそれに倣う。


俺も促されるように、テーブルの端に座った。

スプーンが皿に当たる音、湯気の立つ香り、誰かの小さな笑い声。

異世界の冒険者たちと、現代の配達員が同じテーブルを囲んでいる――それが、なんだか不思議で、心地よかった。


「そういえば、名前聞いてなかったな」

レイナがスプーンを置いて言った。


「俺は佐伯悠真」

そう名乗ると、レイナが首をかしげた。


「……二つ続けて名を言ったように聞こえるな。どっちが呼び名なんだ?」

「ああ、俺の世界では家の名を先に言うんです。『佐伯』が家名で、『悠真』が名前」

「なるほど、そういう順番なのか」

セリスが興味深そうに頷く。


「じゃあ、呼ぶときは悠真でいいのか?」

「はい、そのほうが呼びやすいと思います」

「よし、じゃあ悠真だな」


レイナがにやりと笑い、他のメンバーもそれぞれ小さく頷いた。


「私はレイナ・グランフォード。ここのクランの1軍リーダーだ」

赤毛を揺らして笑う彼女は、豪快で頼もしい雰囲気を持っている。


「セリス・アルヴェイン。魔法使いです。戦術と分析が得意」

黒髪ロングの彼女は、冷静な目で俺を見つめながらも、スプーンの動きは止まらない。


「リュシア・フェルナード。弓使い」

エルフの彼女は短く名乗り、静かにカレーを口に運ぶ。

その仕草は丁寧で、どこか品がある。


「マリナ・ベルフォード。盾役と回復を担当してるよ〜」

僧侶の彼女は柔らかく笑い、湯呑みを差し出してくれた。

その手は分厚く、でも優しさが滲んでいる。


「ティナ・クローヴィス。情報屋兼シーフ。あと、食べるのは早い方」

小柄な彼女は口をもぐもぐさせながら、器用に笑った。


「悠真って、どこから来たの?」

セリスが尋ねる。


俺は少し迷ってから答えた。

「……かなり遠くからです。こっちとは、いろいろ違う場所で」

「服も道具も、こっちのとは違うもんな」

レイナが頷く。


「前回の配達で思ったけど、その箱はやっぱり魔道具なんだね」

ティナが言う。


「はい。これで料理を運びます。どんな距離でも、出来立てのまま届けられるんです」

「そ〜れはすご〜いねぇ〜、あったか〜いままなんだぁ〜」

マリナが感心したように笑った。


食事が進むと、ティナが端末を手に取った。

「ふーん、今日は……“焼き鳥弁当”、“シーフードパスタ”、“ビーフシチュー”、“天ぷら盛り合わせ”……あと“チーズケーキ”ってのもある」


「焼き鳥って、串に刺さってるやつ?」

レイナが興味深そうに身を乗り出す。

「そうです。炭火で焼いた鶏肉に、甘辛いタレか塩をかけます」


「シーフードパスタ……海の幸ってことよね。貝とか魚介類?」

セリスが確認するように尋ねる。

「はい。貝、エビ、イカなんかを、麺と一緒に炒めたり煮込んだりします」


「ビーフシチューって、肉の煮込み?」

マリナが首をかしげながら、ゆったりとした声で言う。

「そうです。牛肉を野菜と一緒に長時間煮込んだ料理です。濃いソースで味付けします」

「お肉を長〜く煮込むのかぁ〜、ほろほろ〜になりそうだねぇ〜」

マリナは想像したのか、うっとりと目を細めた。


「天ぷら……これは何?」

リュシアが小首をかしげる。

「野菜や魚に薄い衣をつけて油で揚げる料理です。揚げたてはサクサクしてます」

「……なるほど、こっちでいうフリットみたいなものか」

リュシアは静かに頷き、興味深そうに端末の画面を見つめた。


「で、最後のチーズケーキってのは?」

ティナが画面をスクロールしながら笑う。


「甘い菓子です。チーズを使った柔らか〜いケーキで、食後のデザートにぴったりです」

「それは……ぜったいおいし〜いやつだねぇ〜」

マリナがうっとりとした声を漏らし、他のメンバーも思わず笑みをこぼした。


テーブルの上には、食べ終えたカレーの容器と、次の注文への小さな期待が並んでいた。

俺はボックスを背負い直し、軽く手を振る。


「また食べたくなったら呼んでください。今度は甘いのもありますよ」

「楽しみにしてるぞ、悠真!」


レイナの声に送られ、転移の光が視界を包み込んだ。



銀翼の旗・1軍メンバー

レイナ・グランフォード

赤毛の剣士でクラン1軍のリーダー。豪快で面倒見がよく、初対面でも物怖じしない性格。戦場では前線を切り開くタイプ。


セリス・アルヴェイン

黒髪ロングの魔法使い。冷静沈着で分析力に優れ、戦術面でも仲間を支える参謀役。観察眼が鋭く、会話は端的。


リュシア・フェルナード

弓を得意とするエルフ。物静かで必要なことしか話さないが、的確な判断力を持つ。所作や言葉遣いに品がある。


マリナ・ベルフォード

盾役兼回復役の僧侶。おっとりとした口調で場を和ませる癒し系。仲間の安全を第一に考える守護者。


ティナ・クローヴィス

小柄なシーフで情報屋も兼任。好奇心旺盛で食べ物の話題にすぐ食いつく。軽快な動きと人懐っこさが持ち味。

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